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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第38話 放火

 夜の静寂を切り裂いたのは、炎の爆ぜる音だった。


 ノルデンシュタイン砦の一角、ドワーフたちの工房が燃えていた。


「火事だ! 火事だ!」


「水! 水を早く!」


 混乱の中、ユリウス、ミリ、セシリア、リルケット、そしてリィナも現場に駆けつけた。ミリは顔面蒼白で、炎の中から焼け落ちる鍛冶道具を呆然と見つめている。


 やがて火は鎮火したが、焼け跡の前に立ち尽くすドワーフたちの怒りと不安は鎮まらない。


「これは……事故ではないな」


 リルケットが低く呟く。


「火元は資材置き場。鍛冶炉の余熱では届かぬ位置だ。何者かの手による放火と見て間違いない」


 その言葉に、周囲がざわめいた。人間の誰かがやったのではないかという視線が、じわりと砦の中を満たしていく。


「ユリウス様」


 リィナが一歩前に出た。彼女の眼が、淡く青白く光を灯す。


「現場にいた者たちから順に、魔導感応による精神バイタル測定を行います。脈拍、呼吸、体温、視線の揺れなど五十三項目のパラメータを同時に解析。嘘をついていれば、判定できます」


 ユリウスがうなずくと、リィナは静かに並んだ数人の人間とドワーフを一人ずつ見つめ、スキャンを始めた。


 質問は簡潔だった。


「今夜、火の手が上がる前に、工房付近にいましたか?」


「火を放ちましたか?」


「工房に敵意を持っていましたか?」


 人間たちは口々に否定するが、リィナはすぐに異変を捉えた。


 一人の中年男。グロッセンベルグ出身で、数日前に砦に加わった男が、質問に答えるたびに微妙に手が震え、体温と心拍が不自然なパターンを示していた。


「――その者。虚偽の反応が出ています」


 リィナの声が静かに砦の空気を引き締めた。


 男は否定しようとしたが、すでに周囲の目がそれを許さなかった。リルケットが踏み出す。


「お前だな。どういう理由で火を放った?」


「俺は……! あいつらが、あのドワーフどもが威張ってるのが気に食わなかっただけだ!」


 男は逆上したように叫んだ。


「人間様よりもいい工房を与えられて、いい道具を持って……それが我慢ならなかった!」


 沈黙が砦に満ちる中、ミリはただ黙って拳を握りしめていた。


 ユリウスが前に出て、全員に向けて語る。


「僕たちは、誰かが誰かを見下したり、追い出したりする場所を作りたいんじゃない。砦は……すべての人が安心して暮らせる場所にしたいんだ」


 そして、放火を認めた男に冷たく告げた。


「法も秩序もない場所では、人は希望を持てない。君には、相応の罰を受けてもらう」


 ミリは小さく息を吐いた。リィナがそっと彼女の隣に立つ。


「ミリ。これで、少しだけでも……信じてもらえたでしょうか。砦はあなたたちを守ります」


 ミリは小さくうなずいたが、その目にはまだどこか不安の影が残っていた。


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