第26話 お風呂のハプニング
砦の一角、ミリが作ったドラム缶風呂のまわりには、即席のついたてが立てられていた。布を張った木枠が三枚、簡易ではあるが、ユリウスに女性陣の入浴を見せないための最低限の配慮である。
「じゃ、入るぞーっ! ああ~……あったけぇ~!」
ミリが最初に湯に浸かると、セシリアもリィナも続く。三人はそれぞれにバスタオルを巻いていたが、砦に贅沢なタオルがあるはずもなく、やや丈は心許ない。
「いい湯加減ですね、ユリウス様の設計、見事です」
「お湯も綺麗だし、洗濯したての服も気持ちよかったし、これが文明の力かぁ……」
セシリアは軽く肩まで湯に沈みながら、目を細める。ミリは桶に汲んだ湯で髪を洗っていた。
そのとき、ふらふらと、どこからともなく小さな虫が飛んできた。
「……あら? なにか、虫が――」
セシリアが視線を上げると、リィナが真剣な顔で湯面に手をかざしていた。
「ご安心ください。処理します」
「えっ、リィナ、それってまさか――!」
次の瞬間、リィナの掌が光り、お湯がまるで水鉄砲のように放たれた。
ぴゅしゅっ!!
「わっぷぁっ!?」
「ちょっと待ったぁあああッ!!」
飛んだお湯は虫には命中せず、無常にもついたての支柱へ直撃。ぐらり、と傾いたかと思うと――。
ばたん!
三枚のついたてが、同時に倒れた。
その向こうでは、ちょうど洗濯物を片付けにきたユリウスが、湯気の向こうでぽかんと立ち尽くしていた。
三人「「「………………」」」
そして。
「きゃあああああああああああああああっっっ!!!!」
「兄貴ィイイイ! 見たなァアアア!!」
「ユ、ユリウス様、これは、その……っ!」
彼女たちの叫びとバシャバシャという音が砦の中にこだました。




