表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/213

第24話 試作洗濯機

 砦の裏手に設けられた作業スペース。そこには、ただの洗濯桶にしか見えない大きな木桶が鎮座していた。


「これが……洗濯機?」


 セシリアが眉をひそめて覗き込む。


「うん。桶の底に魔素回路を刻んであるんだ。魔素変換炉から供給した魔力で、回路を起動すると──」


 ユリウスがそう言って手元の魔力調整板をひねると、遠くの魔素変換炉の側面が静かに光り始めた。炉内部の変換基盤が、周囲の濃密な魔素を吸い上げ、エネルギーに変換して送り出す。

 次の瞬間、桶の底の魔導回路が淡く輝き、水面がゴボッと揺れた。


「おお、動いた……あ、ちょっと見てて」


 ユリウスがさらに回路を活性化させると、中心から微細な泡が立ちのぼる。


「この泡……洗剤じゃないわよね?」


 セシリアが怪訝な顔をする。


「魔素から合成したクエン酸を水に溶かしてる。皮脂汚れに効果的なんだ。ほら──」


 彼が取り出した小さな布切れを水に沈めると、クエン酸が泡とともに染み出し、布の黄ばみが見る見るうちに薄れていく。


「これ……洗剤要らずってこと?」


「うん。魔素回路で必要な成分だけ抽出できる。アルカリ汚れには別の酸性魔法式に切り替えられるし、自然にも優しいよ」


「やっぱりユリウス様、天才ですわ!」


 セシリアがパチパチと拍手する。


「い、いや……僕はただ、前世の……じゃなくて、生活が便利になるならって思っただけで……」


 そこへ、リィナが洗濯物の山を抱えてやって来た。


「ユリウス様、試運転に適した衣類をご用意しました。主にミリ様の作業服と、セシリア様の……」


「わ、私のは見なくていいっ!」


 セシリアが赤面して制止する。


「では、こちらを」


 リィナがミリのエプロンを水に沈めると、桶の中でぐるぐると水流が回り、泡が立ち、たちまち布の汚れが剥がれていった。


「……これ、本当にクエン酸だけで……?」


「魔素の純度が高いこの地域だからできる芸当ですね」とセシリア。


「はい。魔素変換炉からの出力を安定供給することで、化学変性も可能となっています」

リィナが機械的に補足する。


「じゃあ次は……脱水機能つけるか」


「その前に、乾燥室もほしいなあ」


 ミリの声がどこからか聞こえた。

 こうして、砦にはまたひとつ、人類文明を超える洗濯技術が芽吹いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ