第23話 洗濯機をつくろう
砦の片隅、簡素な作業台の前でリィナが黙々と布を縫っていた。完成したばかりの魔素変換炉で生成した白布は、肌触りもなめらかで上々の出来だ。
「縫製作業、進行中です。袖丈八十二センチ、裾まわりは調整中――」
手際よく針を進めながら、リィナがふと顔を上げる。
「ところで、洗濯はどうすればいいのでしょうか?」
問いかけられたユリウスとセシリア、ミリの三人が、なぜか一斉に固まった。
「……あっ」
「そりゃあ、汚れるよな……」
ミリが気まずそうに目をそらしながらつぶやく。
「洗濯は必要不可欠なメンテナンス工程です。布製品にとって汚染は深刻な問題です。食事の汚れ、汗、外気中の微粒子……」
リィナが冷静に分析を続けるのを、ユリウスが慌てて止めた。
「わかった、わかったから! えーっと、つまり……洗濯機が必要ってことだね」
「せんたくき?」
ミリが耳慣れない言葉に首をかしげた。
「うん、前にいた――いや、前に読んだ文献に……水流と回転を使って布を洗う装置があってさ」
セシリアが眉をひそめた。
「それ、もしかして……魔導錬金術の応用?」
「そう。魔素で水を循環させて、遠心力で脱水して……あとは簡単な回転機構を組み込めば……」
ユリウスの目がキラキラと輝き始めた。
「おい、兄貴。まーたすぐ機械つくる顔してんぞ」
「まさか……ここでまた、工場を?」
「いや、違う違う! 今度はちゃんと小さめに設計する! 砦の一角に置ける、家庭用……魔導洗濯機だ!」
ミリが頭を抱えた。
「うわー、またわけのわかんねえのが生まれる予感しかしねえ!」
「リィナ、洗濯機ができたら自動で洗うから、縫いながら汚れを気にしなくてもいいよ」
「それは非常に効率的です。実装が楽しみです、ユリウス様。報酬として私の体を自由にしてください」
「だからそういうのはやめてってば!」




