第22話 魔素変換炉から出来た布
「縫製工場は……やっぱりやめましょう」
セシリアが言うと、砦の広場にいた全員がうなずいた。
「いくらなんでも、あの布の量はおかしい……。下着からドレスまで量産体制って、戦争でも始める気かよ」
ミリが顔を引きつらせながら呟く。
「では、魔素変換炉を用い、基礎素材から繊維を再構成してみてはいかがでしょう」
すっと手を上げたのはリィナだった。いつものように無表情ながらも、わずかに光る瞳には確信がある。
「布って、魔素で作れるものなのか?」
「可能です。アルケストラ帝国では〈セルリア繊維〉という人工繊維が実用化されていました。魔素と植物性構造因子を組み合わせて生成します」
「……なんか、すごそうだな」
セシリアもミリも目をぱちくりとさせる。
「理論上は、純度の高い魔素があれば問題ありません。ただし、レシピは私の内部データベースに記録されている情報を参考に、現地素材に適応させる必要があります」
「お、おお……わかんないけど、任せるわ、リィナ!」
ユリウスの合図で、魔素変換炉が再起動される。リィナは手際よく炉に魔素流路を接続し、石版のような制御盤に指を滑らせた。
「材料投入。魔素変換開始。分子構造展開……開始しました」
光が走り、炉の内部で何かが編まれていくような音が響く。
十数分後、変換炉から排出されたのは、やわらかな光沢を持つ、真っ白な布だった。
「おぉぉ……」
「すげぇ、ほんとに布になってる!」
セシリアとミリが駆け寄って触れると、それはまるでシルクのようになめらかで、しかも丈夫だった。
「これは……下着からワンピース、フード付きのコートまで、用途に応じた布地が生成可能です」
「なにその万能ぶり!? 優秀すぎない!?」
ミリが叫ぶが、リィナはほんの少し、得意げに胸を張っていた。彼女の中のアルケストラ帝国の技術が、いま再び形となったのだ。
「これで、ようやくちゃんとした服が……!」
「……もう、デザインはリィナには任せないけどね」
セシリアが小声で付け加えたが、誰も聞いてはいなかった。




