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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第211話 アルのお願い

 戴冠式からしばらくが過ぎ、政務にもようやく落ち着きが見えはじめたある日。

 ユリウスは書斎で資料を整理していた。

 そこへ、静かに扉が開き、アルがそっと入ってくる。


「お兄ちゃん、少し……いい?」


「もちろん。どうしたんだい?」


 アルはほんの少しだけ、いつもより遠慮がちに言った。


「その……お兄ちゃんのスキルって、すごいでしょ。工場も、プラントも、なんでも作れちゃうし……。」


「うん。だいぶ応用もできるようになってきたよ。最近はゴーレム関連の精密な構造まで再現できるから、研究も進んでる」


 アルは嬉しそうに笑ったが、ふと真面目な顔になった。


「じゃあ、ね――もし、あたしをもう一人……作れたら。倍、お兄ちゃんと一緒にいられるよね?」


 ユリウスは、その言葉に思わず動きを止めた。


「……もう一人、アルを?」


「うん! ね? あたしと同じ構造で、同じ記憶じゃなくてもいいから……あたしがお兄ちゃんといないとき、もう一人のあたしがいてくれたら、きっとさみしくないと思うの。お兄ちゃんのスキルであたしのいたプラントを再現してくれたら、そこにあたしがもう一人いると思うのよね。……変なこと、言ってる?」


「いや……違う。むしろ……その発想は……!」


――雷に打たれたような衝撃がユリウスを貫いた。


 もう一人のアル。構造を再現できるのであれば……。


「リィナ……!」


 呟いたその名に、アルが瞬きをする。


「リィナさん? お兄ちゃん……?」


「そうだ……リィナもまた、ARTEMIS07――プラントで作られたゴーレム。あのとき僕が見つけた遺跡の記録、構造の再構成。あれが可能なら、僕のスキルで“完成品”として再現できる……!」


「……! つまり、それって……!」


「リィナを……復活させることが、できるかもしれない」


 ユリウスは立ち上がると、机の引き出しを開け、あの日のパン工房地下で記録したアルケストラ帝国時代のゴーレム設計データを取り出した。

 それはただの記録ではない――“起動条件と構成要素を満たせば、製造が可能”な、ユリウスのスキルに適応できる仕様だった。


「すぐに準備を始めよう。……リィナに、もう一度――会うんだ」


 その言葉に、アルは少し不安げに視線を下げたあと、にっこりと笑った。


「うん。あたしも……リィナさんに、会ってみたいな」


 そして静かに囁いた。


「……ちゃんと、お姉ちゃんって呼びたいから」


 こうしてリィナの復活計画が始ることになる。


 直ぐにセシリアとミリを呼んだ。公務の全てをキャンセルさせて。

 それだけユリウスの中では最優先のことだったのである。

 ユリウスは重たい扉を閉めると、部屋の中に深いため息を落とした。彼の前には、セシリアとミリが並んで座っている。


「……ふたりに、相談がある」


 その声には、いつになく躊躇いがあった。けれど、覚悟を決めた瞳が語っていた――これは彼の中で避けられぬ決断だと。


「僕は……リィナを、もう一度、作ろうと思ってる」


 言葉が落ちた瞬間、部屋には一瞬の沈黙が流れた。


 セシリアはまばたきをして、すぐに目を伏せた。ミリは小さく息をのんだが、それきり何も言わなかった。


「アルに言われたんだ。僕のスキルで、もう一人アルを作れないかって。そのとき――思ったんだ。もしかしたら、リィナも……って」


 思い出したように、彼は拳を握る。


「彼女は命をかけて僕たちを守ってくれた。だけど、最後の瞬間、彼女は確かに……人間のように、泣いていた。怒っていた。笑っていた。もし、彼女に“心”が宿っていたのだとしたら……その魂を、今度こそ生きる世界に返したい」


 セシリアは、ゆっくりと顔を上げた。


「私は……賛成よ、ユリウス」


 静かで、それでいて確かな声。


「リィナはもう、ただのゴーレムじゃない。あれは、もう一人の仲間――私たちの家族だった。そうでしょう?」


 ミリもこくりと頷く。


「……あたしも、いいと思う。リィナが戻ってきてくれたら……また、四人で笑えるかもしれないって、そう思ったから」


 ユリウスは二人を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。


「ありがとう。二人がそう言ってくれるなら……やっぱり、僕はやるべきなんだと思う」


 そして、視線を上げる。


「今度こそ、彼女に“生きて”もらいたいんだ。人としての心を手に入れた彼女に、この世界で、僕たちと一緒に生きてほしい。笑ってほしい。泣いてほしい。そう願ってる」


 窓から差し込む夕陽が、三人の決意を包み込んでいた。


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