第200話 波乱の結婚式
ヴァルトハイン城の大広間。魔導灯がきらめく荘厳な空間で、ユリウスとセシリアの結婚式は盛大に行われていた。
帝国再興を象徴する政略的な婚姻――のはずなのだが、どう見ても当のセシリアは浮かれまくっている。
「このたびは皆さま、お集まりいただき感謝します! 本日は――私の勝利です!」
セシリアが堂々と宣言すると、参列者たちは微妙な笑顔を浮かべ、会場にどよめきが広がった。
ユリウスはその横で「政務優先のはずでは……?」と静かに首を傾げるが、銀髪の花嫁は耳まで真っ赤にしながら照れ笑いしていた。
「いいえ、今日は政務よりも大事な日です。だって、あなたの隣に立てるのですから……」
一方その頃――
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
隣の控室でアルの絶叫が響いていた。
「なんで、なんで、お兄ちゃんと結婚してるのが、セシリアちゃんなの!?」
床に転がってじたばたするアル。
ミリがため息をつきながら髪を整えてやっている。
「そりゃあんた、妹ポジションだからだよ。政略結婚に妹は入らないんだよ」
政略でなくとも、妹は兄とは結婚できないとは言わないミリ。
これで収まってくれるならという淡い期待から、全てを否定するのをやめていた。
「でも、アルだってお兄ちゃんとずっと一緒にいたのにぃぃ!」
涙をぽろぽろ流しながら、ふと視線がある物に止まる。
――セシリアの予備のウェディングドレス。
ミリが振り返るより早く、アルはドレスをひっつかんで控室の扉を開け放った。
「お兄ちゃあああああああん!!!!」
会場に響き渡る声。
全員の視線が、一斉にバージンロードの先に注がれた。
淡い茶色の髪をなびかせ、純白のドレスに身を包んだアルが、花嫁その2として登場したのだ。
「お、お兄ちゃん! アルも今から結婚するからねっ!」
「……え?」
「ええええええええええええ!?!?!?!?」
驚くのはユリウスだけではない。セシリアは目を剥いて、ドレスを握りしめながら震えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!? なんであなたがそれ着てるんですか!?」
「だって! アルはお兄ちゃんが好きだもん! だから結婚するの! 負けないの!」
「落ち着いてアルちゃん! これは政略結婚よ!? 国家運営の一環よ!? そのへん理解して!?」
「国家とか関係ないもん!! 愛だもん!! アルのお兄ちゃんなんだもん!!セシリアちゃんには愛がないって自白したじゃない!!!」
その一言でセシリアの中で何かが切れる音がした。
「この……この戦争狂ロリゴーレムがあああああああ!!!!」
大広間に絶叫が響く。どこからか「セカンドバトル開戦!」というミリの茶々も入る。
当のユリウスはというと――
「……ドレス、似合ってるよ」
その一言に、アルの顔は一瞬で真っ赤に染まり、ドレスの裾を持ってその場にへたり込んだ。
「うぇぇ……お兄ちゃん……それ……反則ぅ……」
こうして、グランツァール帝国史上、もっとも波乱に満ちた政略結婚式は、記録的な混沌の中で幕を閉じたのだった。




