第20話 着替えが無い
砦に戻った三人は、さっそくリィナの部屋――という名の空き部屋に案内しようとしたが、ふとセシリアが口を開いた。
「……そういえば、リィナの着替えってどうするの?」
その場に妙な沈黙が流れる。
「兄貴、まさか……服、一着しかないとか言わねぇよな?」
ミリが不安げにユリウスを見上げる。
「……僕、用意してない。っていうか、今発見したばかりだよ」
「するわけないよなあああああ!」
全員の視線がリィナに集まる。
「替えがないというのは、問題なのですか?」
「そりゃそうだ! 服ってのは毎日着替えるもんだぞ!」
「洗濯したら乾くまで何着るのよ……」
ミリとセシリアが同時に説得を始めた。
リィナは一瞬だけ静かになり、目を閉じた。
「――了解。起動前にインポートされたアルケストラ帝国の生活様式データに、標準女性用衣類の情報があります。参照中……表示可能です」
「表示って、どうやって――」
その瞬間、リィナが手元の紙とペンを手に取り、さらさらと迷いのない手つきでデザイン画を描き始めた。
「これは、標準的な就寝用衣類および下着の設計図です」
出来上がった一枚を見て、ミリとセシリアは凍りついた。
胸元が大胆に開いたネグリジェ。
スリットは太ももどころか腰まで達している。
レースにリボン、極細の紐が妙に主張している下着セット。
「おい……これ、本当に標準か?」
ミリが震える声で言った。
「機能性、装着性、審美性の最適バランスに基づいた設計です」
「ぜってー違う! 帝国どうなってたんだよ!」
セシリアも小声で、
「これはちょっと実用には……いや、むしろ誰向け……?」
と頬を赤らめる。
ユリウスはというと、さりげなく後ろを向いて壁に向かっていた。
「と、とにかく……もうちょっと布の多い服、提案してくれるかな?」
「了解。では次に“高機動時の運動着”デザインを表示します」
「いらんわー!!」
ミリのツッコミが、砦に響き渡った。




