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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第199話 出兵の決意

 ヴァルトハイン城の政庁会議室。

 夕刻を迎え、窓から差し込む陽光が次第に赤みを帯び始める中、幹部たちは重い空気を纏っていた。


「──アーデルハイト侯爵が、ヴィオレッタの研究を引き継いでいるとのことです」


 アーベントが低い声で報告を始めた。彼の手には、シャドウウィーバから届いた暗号文が握られている。


「魔導錬金術を用いた兵器開発が、侯爵領の一角で進められています。現時点では完成には至っていませんが……放置すれば、いずれ我らにとって脅威となりましょう」


 ユリウスは唇を結び、黙って話を聞いていた。


「今の我々は、復興と安定によって周囲の信頼を勝ち取りつつある。だが、侯爵が実戦投入に成功すれば、状況は一変する」


 アーベントの視線が鋭くなる。


「彼が民衆を力で押さえ、古き帝国を模倣するような支配を望んでいるのは確かです。叩くなら今。まだ準備が整っていない今が、最大の好機と見ています」


「……急ぎすぎでは?」


 とユリウスが口を開く。


「こちらの豊かさや安全を見せることで、敵すら引き込めると考えていたが」


 その言葉に、静かだったリルケットが口を挟んだ。


「私も、アーベント殿の意見に賛成です。力なき理想は、戦場では通用しません。あの男は、そういう類の敵です。放っておけば、民を巻き込み、再び血が流れる未来が来る」


 会議室を沈黙が包む。

 ユリウスの心には、かつて荒野に来たばかりの頃に誓った「血を流さずに変える」という理想があった。だが──それは理想であり、現実ではなかった。

 今まで自分たちが積み上げてきた「希望」は、たった一人の野心家により踏み潰されてしまうかもしれない。

 誰かの役に立つ技術。

 それを実現しようとしているが、そのためにはまだ流した血が足りないことに、ユリウスは歯ぎしりする。


「……わかってる」


 ユリウスが、ゆっくりと目を閉じた。


「僕は、戦いたくない。けれど、このまま放置すれば、多くの命が失われる」


 言葉を区切って、再び目を開く。


「アーデルハイト侯爵の討伐を決定する。そのための大義を──帝都に囚われた皇帝の救出としよう。出兵は婚儀の後だ」


 驚いたように目を見開いたのは、セシリアだった。


「ユリウス……それは……」


「君と結婚する。君が皇帝の娘であり、僕の妻であるなら、皇帝を救出する正統な理由になる。そうだろう?」


 セシリアは何も言えず、ただゆっくりと頷いた。

 リルケットが小さく頭を下げる。


「……ご決断、感謝いたします。これで多くの者が救われます」


 アーベントも同様に深く頭を下げた。


「私も、この戦の成否に全力を尽くします」


 会議室の重たい空気はそのままに、静かに夜の帳が降り始めていた。


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