第198話 言い間違い
城の執務室を離れ、久しぶりの夕食の時間。
テーブルにはユリウス、セシリア、ミリ、そしてアルの四人が並んでいた。
豪華すぎず、だが温かみのある料理が並ぶ、いつもの食卓。だが今夜は、どこか空気が違う。
「ふふふ……♪」
セシリアはさっきから妙に上機嫌で、口元には絶えず笑みを浮かべている。グラスを持つ手がほのかに震え、頬が赤い。
(……なんかテンションおかしいぞ)
ユリウスが訝しげに視線を送ると、ミリがすっと顔を寄せてきて、ひそひそ声で耳打ちした。
「兄貴、あいつ……やばくね?」
「やばいって、なにが?」
「なんか……乙女モードっていうか、もう一周回って壊れてるぞ」
その瞬間、
「ユリウス……これからは、ますます忙しくなりますねぇ」
セシリアがぽわぽわした表情で声をかけてきた。
「まぁ、政務も増えるだろうしね」
「そうじゃなくて……こ、こ……子作りが忙しくなりますねっ!」
「……えっ」
「…………えええええっ!?」
グラスを持っていたミリが思いきりお茶を噴き出し、テーブルの向こうのユリウスに直撃。
アルが
「わぁっ、服が!」
と慌ててナプキンで拭き取りにかかるが、その横でミリが真っ赤な顔で立ち上がる。
「こらセシリアァァァァ!!」
「は、はいっ!?」
「先に婚約者になったのはあたしだぞ!? なのにっ……あたしだって……戦争が終わるまで、我慢してるのに……! ううっ……ずるいぃぃ……!」
「ま、まってミリ! 私だって本気で口を滑らせただけで!」
「口が滑って子作りって出るかー!?」
ユリウスはタオルで顔を拭きつつ、気まずく視線をそらす。
セシリアは手をバタバタさせながら赤面。
ミリは鼻をすすって怒り泣き。
アルは一人ナプキンを持って真顔で反復作業。
「お兄ちゃん、またお茶がかかったね……大変だね……」
「う、うん……ありがとうアル」
和やかな、いや、騒がしいながらも、どこか平和を感じる食卓だった。
なお、この時ユリウスの中でアルだけ好感度がアップしたことを、セシリアとミリは知らなかった。
誰にも気づかれず、アルの目がネコ科の猛獣のように光る。
(計画通り……)




