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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第196話 セシリアからの提案

 陽の光が差し込む城の一角、医務室から執務室へと場所を移したユリウスは、まだ本調子ではない体を労わりながらも、徐々に日常へと戻る準備を整えていた。

 テーブルにはアルがいれてくれたお茶が湯気を立てている。


「やっぱりアルの紅茶はうまいな」


 ユリウスが微笑みながら口にすると、隣に座るミリも頷く。


「おう。変に高級な茶葉より、アルのいれる方が落ち着くな。……って、兄貴。今日も顔色いいじゃねぇか」


 穏やかな空気が流れるなか、扉がノックもなく勢いよく開いた。


「ユリウス、結婚しましょう」


 ズバンッと。まるで魔導バリスタが放たれたような一撃。


「――ぶっ!?」


 ミリがお茶を盛大に噴き出した。飛び散った液体はユリウスの顔と服に直撃し、アルが慌ててハンカチを持って駆け寄る。


「お、お兄ちゃん! 大丈夫!? こぼれたところ、すぐ拭くからねっ!」


「い、いや……だいじょ――ぶ。ミリ、喉に詰まらせるなって……」


 ユリウスが咳き込みながらも苦笑いを浮かべる。その間もアルはユリウスの胸元に顔を突っ込む勢いで、ぴったりと拭いている。

 そしてもう一人の張本人、セシリアはというと――まったく動じず、涼しい顔で一歩踏み出してきた。


「驚かせてしまいましたか? でも、これは必要なことなんです」


「せ、セシリア……君、今なんて……?」


「ですから、結婚です。ユリウス。あなたと私が夫婦となることは、帝国再建の鍵になるのです」


「ちょ、ちょっと待て!」


 ミリが口の端を拭いながら立ち上がる。


「意味がわかんねぇぞ! 結婚って、何の話だ!?」


 セシリアはアルの手からハンカチを受け取り、ユリウスの隣に座りながら、真剣な目で語り始めた。


「先日、アーベントとリルケット、それに私で話し合いました。――いえ、話し合いというよりは、帝国という亡霊を、どう整理するかという政治的な試算です」


「……政治の話?」


「ええ。いずれ傀儡の皇帝は退位します。帝都も混乱するでしょう。そのとき、私――セシリア・フォン・グランツァールが皇帝を継承すれば、正統性を得た政権が生まれます」


「ふむ……それは、わかる。でも僕が結婚する必要が?」


「あなたが私の夫として側にいれば、政治的にも軍事的にも反対勢力に口実を与えません。そして建前としては、あなたが“皇帝の夫”という形で帝国を支えれば、民衆の反感も受けにくい」


「……なるほどな。でも……それで君はいいのか?」


 セシリアは一瞬、黙った。そして、わずかに顔を赤く染める。


「私は……あなたと過ごした時間の中で、本当に変わったんです。愛する人と結婚できて、しかも

、帝国を復興できるんですよ!」


 言い終えると、彼女は真っ直ぐにユリウスを見つめた。

 その気迫に、ミリが思わず視線を逸らす。


「くっそ、真面目に言われると何も言えねぇ……でも、でもな、結婚ってのは――」


「私も!」


 割り込むように、アルが手を挙げる。


「アルもお兄ちゃんと結婚する! お兄ちゃんの子供を産んで、帝国の未来をつくるの!」


「アルは黙ってて!!」


「ちょっと!? なにその発言!!」


 ミリとセシリアの声が重なり、執務室が一気に修羅場のような空気に包まれた。


 一方、ユリウスはというと――紅茶のカップを手にしたまま、静かにため息をついていた。


(……やれやれ。まだ、本当の日常は……もう少し先になりそうだな)


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