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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第195話 ミリの不覚

 病室の静寂を破るように、アルがぽつりと呟いた。


「……今回は、役に立てなかった……」


 いつも明るく、前向きなアルの声がかすかに沈んでいた。

 ユリウスがヴィオレッタに連れていかれるのを止められず、ミリの解毒もセシリアが行った。

 アルはベッドの脇にちょこんと座り、ユリウスの顔を見つめる瞳は曇っている。


「そんなことないよ、アル」


 ユリウスは優しく笑った。まだ完全には回復していない体で、手を伸ばしてアルの頭を撫でる。


「お前が無事でいてくれて、それだけで僕は助けられてるよ」


 その言葉に、アルの顔がぱあっと明るくなった。


「ほんと!? じゃあ、これからいっぱいお兄ちゃんのお世話する! 看病、頑張るね!」


 ぐいっと身を乗り出し、距離がぐっと近くなる。


「ま、待てアル! 近い、近い!」


「だってお兄ちゃんの匂い嗅ぎたかったんだもん!」


 くんくんと首元に顔を埋めるアル。その様子に、ベッドの隣でまだ横になっていたミリが眉をひそめた。


「ちょっと待てやコラ。あたしの看病はどうなってんだよ……!っていうか、婚約者の隣ですることじゃねーだろ!」


 ミリはムッとした表情で言ったが、まだ全身に力が入らないのか、呻きながら上体を起こそうとしてすぐに諦める。


「う……まだ動けねぇ……くそっ……!」


 その様子を見て、アルが勝ち誇ったようにニヤリと笑った。


「ふふーん、動けないならしかたないよね~? じゃあ、あたしが独占~!」


 そう言うが早いか、アルはユリウスの服に手をかけ始めた。


「さーて、お兄ちゃんの体をふいてあげよ~っと!」


「お、おい! それはちょっと!」


 ユリウスが慌てて抵抗するが、動きが鈍い。あっという間に上着のボタンが一つ外される。


「ちょ、ちょ、ちょっと!? そ、それは妹のすることじゃありませんっ!!」


 セシリアの声が裏返った。顔は真っ赤になり、口をパクパクと動かして言葉が出てこない。


「ばっ……かっ! 服を脱がすとか……あたしがやるに決まってんだろ!!兄貴の世話は誰にも譲らねえ」


 ミリは身を起こそうとして、結局またベッドに沈んだ。


「む、ミリさんはまだ起きちゃダメです。お兄ちゃんの衛生管理は妹が責任もってします!」


 にこにこと笑いながら、アルはタオルと水を手に取った。


「お兄ちゃん、覚悟です!」


「いや、待って!? 心の準備が――」


 その後、結局セシリアが気絶しかけ、ミリが枕を投げ、アルが無邪気に笑う中、ユリウスの病室はどこか賑やかで、温かい空気に包まれていた。

 そして、騒がしいながらも、戦いの終わりを告げるような、穏やかな日常がそこにあった。


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