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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第190話 目覚まし時計

 その朝――否、正確には“その昼前”だった。


 ヴァルトハイン城の廊下を小走りする足音がひとつ。スカートの裾をひらひらさせながら、アルが寝室へと急いでいた。


「お兄ちゃん、会議は朝一番だって言ってたのに、もうとっくに朝の鐘、三回目……!」


 その手には、魔導式の携帯時計。針は、もうすぐ九時を指そうとしている。

 焦る表情のアルが扉をそっと開けると、そこにはまだ眠るユリウスの姿。だが、ただの寝坊ではなかった。


「……スキャン開始」


 彼女の瞳が淡く輝き、ユリウスの身体を魔導波で走査する。


「……やっぱり。深夜三時まで書類整理……さらに魔素変換炉の設計図修正……睡眠時間、わずか三時間未満……っ!」


 アルの目が潤む。


「これじゃ、お兄ちゃん……倒れちゃうよ……」


 そして、決意する。


「――アルが、目覚まし時計になるしかないねっ。疲れがとれるまで寝かせてあげる」


 ふわり。

 小さな身体がベッドの隣に潜り込む。ユリウスの背にそっと抱きつき、心音に耳を傾けながら、ぴったりと体温を重ねる。


「お兄ちゃん、アルはここにいるよ……少しだけ、一緒におやすみしよ?」


 ほんのり赤く染まった頬。ユリウスのぬくもりを感じながら、アルは至福の表情で静かに目を閉じた。


 だが――


バンッ!!


「ユリウス!もう時間ですわよ!」


「兄貴ー!また徹夜してんじゃねーだろうなぁ!」


 セシリアとミリが、いつものように寝室に飛び込んできた――その瞬間。

 ふたりの目に映ったのは、ユリウスのベッドの上。そこに、頬を染めながら抱きついて眠るアルの姿。


「……」


「……」


 時間が止まった。

 そして、


「こ、これはちがっ……ち、ち、違いますのよ!? 決して下心とかそういうのではなく、あの、そのっ!」


 セシリアが湯気を出しながらわたわたと口元を覆い、顔を真っ赤にして後ずさる。


「なにを添い寝してやがる!! しかも、なに、腕っ!? 腕に脚っ!? 密着しすぎじゃねぇの!? てか裸足だし!!」


 ミリは鼻息荒く、ユリウスの枕元に乗り出した。


「う……ううぅぅ……アルは、アルはお兄ちゃんの健康のために、医学的判断で、だ、抱きついていたんですぅぅ……!本当は目覚まし時計なんですぅぅ」


 アルは涙目になりながら、寝起きでぽやぽやしたまま言い訳を始める。

 だが、まだユリウスは寝ている。


 ミリが怒鳴る。


「目覚ましになるなら、声で起こせーっ!」


「うぅぅ、声じゃ起きないんです……だから、心音と体温で――っ!」


「それはっ! 恋人がやるやつだろうがーっ!!」


 それを聞いたセシリアは、恋人でもやらないと思うが、ミリの勢いに押されて口にはしなかった。


「妹でもしますっ!しますったらしますぅっ!」


「じゃあ、あたしも兄貴に添い寝する!!」


「それはだめです!順番抜かしっ!」


 セシリアが真っ赤な顔で一言。


「ちょ、ちょっと……あなたたち、人の寝室で何言って……わたくしも……その……許されるなら……い、いえっ、なんでもありませんのっ!」


 そして、ようやくユリウスがむくりと起き上がった。


「……何の騒ぎ?」


 三人の視線が、同時にユリウスに突き刺さる。


――朝から修羅場の始まりだった。


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