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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第189話 朝の戦争

 朝。ヴァルトハイン城の食堂には、焼きたてのパンと香ばしいスープの香りが漂っていた。

 ユリウスは椅子に腰を下ろし、まだ湯気の立つカップを手に取る。


「今日のスープ、ミリの新開発か。香辛料の配合が絶妙だな」


「ふふん、だろ? これでも毎朝試行錯誤してんだぞ」


 誇らしげなミリに、ユリウスは素直に頷いた。

 セシリアも隣でコトコトとスプーンを動かしている。対面には、アルがパンをふわふわちぎっては口に運んでいた。


 その時だった。


 ユリウスがスープを口に運ぼうとした瞬間――

 ぷちゅっ、と勢いよく跳ねたスープが口元に飛び、彼の頬に一筋の金色の滴を残した。


「あっ、お兄ちゃん」


 アルがスッと立ち上がったかと思えば、

 目の前までつつついっと歩いてきて――


ぺろっ。


「!?!?」


 ユリウスの頬を、アルの小さな舌が優しくなぞった。


「……っ」


 セシリアは目を見開き、スプーンを落としかける。

 そして顔がパッと赤くなり、口をパクパクと開いたまま言葉を失う。


「な、な、な、な、な……!?」


 ユリウスは石化。

 ミリは椅子を蹴るように立ち上がる。


「お、おま……! なにを感情込めて何度もなめてんだよおおおおッ!!」


「え……だって……妹として当然のことを……」


 アルは涙目で、しょんぼりと呟いた。


「妹ヒロインは、お兄ちゃんの顔についたスープを、ぺろりとやさしく、ちょっと照れながらなめ取るのが……テンプレートで……」


「テンプレやめろ!! 拭けばいいだろ普通は!!」


「うう……でも、なめて拭き取るのが、妹の常識……」


 アルの目に涙が溜まり、潤んだ瞳でユリウスを見る。


「お、お兄ちゃん……やっぱり迷惑だった……?」


「いや、あの、迷惑っていうか……その……!」


 ユリウスは慌てて手を振る。


「ちょ、ちょっとだけびっくりしただけで……泣かないで……!」


 と、アルの頭をなでていたその瞬間――


「な、なめるのが妹の常識なら……婚約者だって、なめて当然だよな!?」


「いや、それはちょっと待て」


 ミリが目をギラつかせて立ち上がった。


「兄貴、お前のスープ、もう一回跳ねさせる方法ないか!? ほら、もっと豪快にすすれ!」


「落ち着け! というか目的が変わってる!」


 セシリアは真っ赤な顔で目をそらしながら、


「……わ、私は……スプーンで、ちゃんと拭ってあげる……」と小さく呟いた。


 誰も聞いてなかった。

 朝の食堂には、戦争の気配が漂いはじめていた。


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