表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/213

第18話 リィナ起動

 地下の研究室に足を踏み入れた三人は、壁際の机に置かれた古びた日誌を見つけた。表紙には、かすれかけた文字で《ARTEMIS計画》と刻まれている。


「セシリア、これ……」

「ええ、間違いない。古代アルケストラ式の文字よ」

 慎重に魔封を解いたセシリアが、日誌を開いた。


 ページをめくるごとに、緻密な設計図と、生体ゴーレムに関する理論が現れる。そこには驚くべき記述があった。


『本計画は、失われた“人”を再現するための試みである。魔素と生体素材を融合し、魂の構造を模倣する。』


『私は、かつて仕えてくれたメイド――リィナを模して、ARTEMIS07を設計した。身分違いの恋だったが、彼女に想いを告げることもできず、病で失った。これは最後の試作個体。私の生命も、もう長くは持たない。』


『願わくば、彼女が誰かと出会い、生きる意味を見つけてくれることを――』


 セシリアがページを閉じると、静寂が研究室を包んだ。


「リィナ……って」


 ユリウスがそっとつぶやく。

 その時、ミリが壁の隅にある扉を見つけた。


「おい、こっち、まだ部屋があるみたいだ」


 三人は慎重に扉を開け、隣の部屋へと足を踏み入れる。

 そこは白い光が満ちた、清潔な小部屋だった。中央には大きなガラスのカプセルがあり、その中に一人の少女が横たわっていた。

 黒髪の少女。機械の接続部を持ちながらも、その姿はあまりにも人間らしく、穏やかな表情を浮かべて眠っていた。


「……彼女が、ARTEMIS07――リィナ」


 セシリアが静かに言う。

 ユリウスはその姿を見つめながら、なぜか胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 研究室の隣にあった白い小部屋。その中央、ガラスカプセルの中に眠る黒髪の少女――リィナ。


「……起動させてみる?」


 セシリアの問いかけに、ユリウスはしばらく黙ってから、頷いた。

 彼はカプセルの脇に設置された制御盤に目をやる。魔素の痕跡がかすかに残っている。


「魔素の代わりに魔力を流してみるか。……【工場】スキル、起動制御にアクセス。……魔力、流すよ」


 手をかざし、自らの魔力を注ぎ込む。

 次の瞬間、カプセルの縁に青白い光が走った。機構が唸りを上げ、圧力が抜けていく音と共に、カプセルがゆっくりと開く。

 黒髪の少女が、ゆるやかに瞼を開いた。

 着ているのは、黒を基調としたクラシカルなメイド服。白いフリルのエプロンが胸元から裾まで整えられ、首元には小さなリボンが結ばれている。まるで誰かを待っていたかのように、用意された装いだった。

 金色の瞳が、まっすぐにユリウスを捉える。


「起動確認――完了。ARTEMIS07、稼働状態へ移行します」


 機械的だった口調が、徐々に人の言葉に変わっていく。


「私は、リィナ。ご命令を……マスター」


 リィナはゆっくりと身を起こすと、柔らかな動作でカプセルから降り立ち、ユリウスの前に膝をついた。


「あなたが……私の、ご主人さまですね?」


 ユリウスは、ぎこちなく首を縦に振る。


「……あ、うん。僕はユリウス。ここで暮らしてるんだ」


「ユリウス様……了解しました。以後、忠実にお仕えいたします」


 そう言って、リィナは嬉しそうに微笑んだ。その微笑みは、まるで長い夢から目覚めた少女のように、どこか儚くて、あたたかかった。

 横で見ていたミリは腕を組み、むすっとしながら呟いた。


「……いきなりご主人さまって、ちょっと早すぎねぇか?」


 セシリアも同意するように眉をひそめる。


「この子、ほんとにゴーレムなの……?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ