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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第177話 次の一手

 帝国東部、アーデルハイト侯爵領。重厚な石造りの城の一室にて、ヴィオレッタはカーテンの閉め切られた書斎で、燭台の火を静かに見つめていた。


「こちらが、ヴァルトハインの魔導錬金砲の配置図……そして、量産型パワードスーツの各都市の配備状況を簡略に起こしたものよ」


 木製のテーブルに滑らせた書類を、アーデルハイト侯爵は無言で手に取り、しばし黙読する。

 それは送り込んだスパイが持ち帰った情報だった。


「……見事なものだ」


 その口調は賞賛というより、冷ややかな分析に近かった。

 その威力はルーメン伯爵の敗北でよく知っていた。

 ヘカテーが無ければ一方的な敗戦となっていたのは確実。

 そして、今はそのヘカテーも失っている。


「このままでは、あと五年もすれば我ら東部は力で飲み込まれる。技術革新の速度が違いすぎる。農業、工業、そして兵器――すべてでな」


「その通り。あちらは魔導錬金術と機械工学を融合させ、魔素を原動力に文明を加速させている。あなたのような伝統的貴族の力も、十年先には時代遅れのものになるでしょうね」


 ヴィオレッタの言葉に、アーデルハイトは眉をぴくりと動かすが、怒りの色は見せなかった。


「では、我々に勝ち目はないと?」


「そうは言っていないわ。手っ取り早い方法がある。技術を……盗むのよ」


「スパイか。すでに移民として、南部には多くの亜人が入っている。奴らの中に混ぜ込むのは容易い。だが――」


「心配いらないわ。すでに"手配済み"。特にドワーフたちは有望よ。技術を愛し、職人として有能。そして――家族を人質に取れば、従順になる」


 ヴィオレッタの目は獲物を見つけた蛇のようであった。いや、その蛇は既に獲物を吞み込んでいる。

 アーデルハイトは腕を組んで深くうなずいた。


「ふむ。なるほどな。使い潰すには丁度良い……が、使えるうちは、丁重に扱わねばな」


「もちろん。"奴ら"には家族の自由と引き換えに、作業に没頭する環境を与えましょう。情報は自ずとこちらに届く」


 しばしの沈黙の後、アーデルハイトは立ち上がり、壁に掛かった地図を見やった。


「……時間を稼ぐ。その間に、同等の兵器を作り上げる。そして、五年以内に一撃を加える」


「理想的ね。ま、セシリアちゃんより優秀な私なら三年もあれば十分だけど」


 セシリアの名を口にしたとたん、ヴィオレッタの瞳の狂気は倍増したような気がした。

 しかし、アーデルハイトはそれに気づかぬふりをして続ける。


「だが一つ、確認しておこう。君は……旧律派を失って、次は我々を盾にするつもりか?」


 ヴィオレッタは微笑んだ。だが、そこには何の否定もなかった。


「あなたが勝てば、私はあなたの庇護を受ける。もし負ければ――その時は、次の"盾"を探すまで」


「ふふ……実に不愉快だな」


「でも、合理的でしょう?」


 アーデルハイトは口元だけで笑った。


「……まあいい。戦場で勝ちさえすれば、誰が裏切り者でも英雄になれる。そういう時代だ」


 炎の揺らめく書斎に、陰謀の気配だけが濃く残った。



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