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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第176話 暗殺未遂

 ヴァルトハイン城・大広間。

 政務報告のため、ユリウスが多くの官僚たちを前に演説を行っていた。白い礼服をまとい、凛とした佇まいで壇上に立つその姿は、かつて追放された青年とは思えない威厳に満ちていた。

 セシリアとミリはその左右に控え、シャドウウィーバの幹部や各地の行政官が整然と並ぶ。まさに秩序と繁栄の象徴。だが、その裏で――破滅が蠢いていた。


「旧律派の残党が、ユリウス様を狙って動いています」


 数日前、シャドウウィーバの報告が上がっていた。  情報源は潜入工作員からの極秘連絡。

 ヴィオレッタが旧律派の一部残党を扇動し、ユリウス暗殺を企てているという。武器は不明。兵力は少数。しかし標的がユリウスである以上、わずかな油断も許されない。


「……」


 壇上の脇で、少女――ARTEMIS09《アル》はじっと佇んでいた。  膝上丈のゴスロリ風の白いドレスに、ふわりと揺れる明るい茶髪。ぱちぱちと瞬く瞳が、ふと遠くの扉へ向いた。


「……お兄ちゃん、あれ……おかしい、です」


 かすかな足音。誰にも聞こえないが、アルの聴覚センサーには確かに届いていた。衛兵の巡回とは異なるリズム。重心移動に無駄がなく、速度は戦闘訓練を積んだ者のもの。

 アルの瞳が蒼く光る。    


――排除すべき対象。接近中。


 その場に残って警護に徹するべきか、一瞬迷った。

 しかし、命令優先度において「お兄ちゃんの命を守る」が上位だった。


 アルは静かに扉の外へ走り出す。


 廊下を駆け抜けながら、上空の窓に設置された魔導通信機に指を伸ばす。

 リィナ譲りの高出力魔素が回路を走り、警戒音が無音で起動した。


 ――突入、十五秒前。


 別動隊が城内に潜伏していた。

 魔導式の小型炸裂弾。爆発すれば、大広間は瓦礫と化す。


「だめ……お兄ちゃんが……っ」


 扉を蹴破る。ちょうど起爆装置に手をかけたテロリストの手首を、容赦なく掴んだ。


 ばきっ。


 嫌な音が鳴る。骨が折れた。だが、アルの表情は無表情のまま。


「あなたたちは……悪い子です」


 もう一人が剣を抜く暇もなかった。

 アルの膝蹴りが喉元にめり込み、男は地面に沈んだ。

 起爆装置は踏み砕かれていた。

 細い足首が、その機械をぺしゃりと潰した音だけが、静寂に響く。


 間に合った。


 ゆっくりと、ユリウスの元へ戻ってくるアル。

 セシリアとミリが駆け寄り、事情を訊ねようとするが――


「お兄ちゃん……ごめんなさい。少し、暴れちゃいました」


 そう言って、胸元を押さえながら微笑んだ。

 ユリウスは驚きながらも、その頭を優しく撫でた。


「ありがとう。助かったよ」


 そのやり取りを見て、セシリアとミリが目を細める。

 また一人、大切な存在が家族になったのだと実感しながら。


 暗殺失敗、その報告を聞いたヴィオレッタの唇が、皮肉げに歪む――。


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