第166話 繋がり
ヴァルトハイン城・作戦司令室。
シャドウウィーバから届いた報告書は、黒封筒に入れられ、重々しく机の上に置かれていた。
「……繋がっていたか、やはり」
ユリウスは深く息を吐き、ページをめくった。
封筒の中には、数枚の報告と、地図、そして複数の遺跡に関する資料が綴じられていた。
「旧律派――かつて“人類至上主義”を掲げ、帝国の主流宗派から弾圧された教団。その残党が、ヴィオレッタと手を組んでいた」
ユリウスの視線が、報告書に記された名前に止まる。
「ARTEMIS08《ヘカテー》も、彼らが発掘したアルケストラ帝国の遺跡から回収した可能性が高いらしい。つまり、連中は……すでに複数の遺跡に手を伸ばしているってことか」
「……他にも同型の兵器が存在するかもしれないということですね」
セシリアが静かに言った。
表情は冷静だが、声の奥にはかすかな怒りがにじんでいる。
「現地の旧律派の動きも確認されています。次に発掘されるのは、北東にある《ノイシュトラータ遺跡》の可能性が高いと」
「なら……潰すか」
ユリウスはぼそりと呟いた。
誰に問うでもないその言葉に、部屋の空気がわずかに凍りつく。
「リィナを……同じような兵器に殺されたまま、黙っているわけにはいかない。放っておけば、第二、第三のヘカテーが出てくる」
セシリアは言葉を選びながら進言した。
「ユリウス。特務部隊を編成しましょう。魔素変換炉の小型化はすでに進んでいます。ミリが開発した12.7ミリ弾のライフルを、さらに短銃化できれば――小回りの利く市街地戦にも対応可能です」
「……銃を、兵士だけでなく、精鋭に持たせるってことか?」
「はい。特務部隊は火力と機動力を兼ね備えた小集団。旧律派の隠れた拠点を探知し、即座に排除できる運用を」
「ふん……いいじゃねぇか。あたしの銃は本来、手が小さいドワーフや女性でも扱えるように設計してる。量産前提の構造だから、今から改良を加えても間に合うよ」
ミリは両手を腰に当て、自信たっぷりに笑ってみせた。
「必要なら、銃剣モードや着脱式のマギバレルも付けてやる。近接戦にも耐えられるようにすれば、旧律派の信徒の不意打ちにも対処できる」
ユリウスは黙って二人の意見を聞いていたが、やがて目を閉じ、深くうなずいた。
「……わかった。セシリア、特務部隊の人選を進めてくれ。ミリ、試作銃の改良と生産ラインを整えてくれ」
「任せて」
「了解したぜ、兄貴」
二人が同時に答える。
ユリウスはもう一度、机の上の報告書に視線を落とした。
その最下段にはこう記されていた。
《旧律派の次なる目的地――ノイシュトラータ遺跡、推定座標東緯43.2、北緯65.8。遺跡内部には、アルケストラ帝国時代の兵器格納庫が存在した可能性あり》
ユリウスはそっと目を閉じると、胸の奥でリィナの声が聞こえたような気がした。
「……君の仇は、必ず僕が取る」
その声は、誰にも聞こえなかった。




