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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第165話 安価な武器

 ヴァルトハイン城の執務室。重厚な扉を閉じた静けさの中で、ユリウスは分厚い予算帳を前に眉間を押さえていた。


「……どうしてこう、全部高いんだ……」


 彼の視線の先には、サジタリウス、プレゴン、パワードスーツの配備コストが整然と並んでいる。

 どれも国家の防衛には欠かせないが、それぞれが一台で村一つを建て直せるほどの予算を食う。


「ため息が深くなってきてるわよ、ユリウス」


 背後から優しい声がした。セシリアが、湯気の立つカップを二つ持って入ってくる。


「ありがとう、助かる」


 ユリウスは受け取ったカップを口に運びながら、素直に愚痴をこぼす。


「サジタリウスにしても、パワードスーツにしても、プレゴンにしても……維持費も含めて金がかかりすぎる。数を揃えるだけでも破産する勢いだ」


「パワードスーツは装甲と魔導駆動の相性が限界に近いもの。あれ以上の簡素化は難しいと思う。でも――」


 セシリアは椅子に腰かけながら、書類を覗き込んだ。


「サジタリウスなら、簡素化できるかもしれない。魔導コイルの調整を極限まで落とせば、構造も単純にできるはずよ。連射は無理だけど、一発の威力なら保てる」


 ユリウスは考え込むように頷いた。そして、ふと顔を上げる。


「……待てよ。そもそも“魔素で加速”させるって前提を捨ててみたら?」


「え?」


「爆発の圧力で弾頭を飛ばすんだ。魔素じゃなくて、火薬的なものを使って。構造も、魔導回路も簡略化できるし、量産も可能だ」


 セシリアの目が一瞬驚きに見開かれ、すぐに知識と興奮の色が宿った。


「それって……アルケストラ帝国で使われていた“銃”ってやつ?」


「そう、前に資料で見た記録がある。古代の道具らしいが……魔導錬金術の力で火薬を生成できるなら、量産兵器にできるかもしれない」


 現代の知識ではなく、アルケストラ帝国に似た物があったのは好都合であった。

 ユリウスの説明を自然と受け入れるセシリア。


「小型化して、歩兵に持たせられるようにすれば……」


 二人は同時に顔を見合わせた。


「……これなら、プレゴンやサジタリウスの代わりになり得るかも」


「やってみる価値はあるわね。火薬の安定化と、素材の強度、それと――暴発対策も」


 ユリウスはほっと微笑みながら、カップを掲げた。


「セシリア、やっぱり君がいてくれて助かるよ」


「……そう言ってもらえると、嬉しいけど。喜んでる場合じゃないのよ、これから仕事増えるんだから」


 にこやかに告げたセシリアの笑顔には、しかし確かな使命感が宿っていた。


 そこからの開発は早かった。既に試作が終わって、試射となる。

 試験場の空気には、焼けた金属と魔素の独特な匂いが漂っていた。


「じゃ、始めるわよ」


 ミリが肩に担いだ試作銃は、12.7ミリの大口径弾を使う一本。

 全長は短く、銃身の厚みと魔導符の補強が目立つ。

 見た目のわりに重量はあり、彼女の小柄な体には少し大きすぎたが、構えに迷いはなかった。


 後ろで見守るユリウスに、セシリアが説明を始める。


「今回の試作銃は、12.7ミリ弾を使う対装甲モデルよ。弾頭を撃ち出すのは、魔素変換炉で精製された《爆導素》。魔素を圧縮・固定化して、爆発圧力に変える素材ね」


 ユリウスが頷くと、セシリアは続けた。


「サジタリウスの魔導砲は、魔素を錬金術で制御して加速させる。あれは、物理じゃなく“魔導錬金術”の成果。でも、こっちは違う。爆発の圧力で物理的に押し出す――純粋な技術兵器よ」


 ユリウスは唸る。


「威力は?」


「105ミリのサジタリウスに比べればずっと低いけど、12.7ミリでも対人・対鎧なら十分よ。貫通力は、帝国軍の軽装騎士なら胸まで抜ける」


「それで十分だな」


 標的は分厚い鉄板と、古い鎧をかぶせた模擬人形。ミリが銃を構えると、試験場の空気が緊張で張り詰めた。


「点火装置、動作確認。魔導炉圧……正常。撃つよ!」


 彼女の指がトリガーを引いた。


「――発射!」


 乾いた爆音が大地に響いた。銃口から閃光が走り、魔素の火花が尾を引いた弾頭が、一直線に標的を撃ち抜く。

 金属音と衝撃波。鉄板に空いた穴の先には、人形の胸部がえぐれ、砕けていた。


「命中確認! 貫通成功!」


「やったぁ!」


 ミリが跳ねるように笑った。セシリアは頷きながら、メモを取っている。


「反動制御も問題なし。射撃姿勢にさえ慣れれば、量産可能ね」


「これが歩兵に配備されれば……従来の剣や弓とは桁違いの力になる」


 ユリウスはつぶやくように言い、青空を見上げた。


「これが……魔導錬金術じゃない、新しい“力”か」


 魔導錬金術ではなく、技術による破壊。戦場が変わる音が、静かに響いていた。



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