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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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161/213

第161話 07と08

 平原にて両軍は、乾いた風の吹き抜ける平原で対峙していた。

 中央に布陣するユリウス軍の旗が風にはためき、鋼鉄の巨体プレゴンが唸るようなエネルギー音を立てながら砲口を旋回させていた。

 その後方には、金属光沢をまとったパワードスーツ部隊が整然と並ぶ。

 漆黒と紅の装甲が陽光を反射し、まるで鋼の軍神のごとき威容を誇っていた。


 対するルーデル軍は、広がる地平線の向こうに重厚な陣形を敷いていた。

 精鋭の騎士たちがルーデルの使う鋼覇こうはのスキルを受けて、魔素の波動が重ねられた盾を展開している。


「……始まるな」


 ユリウスが小さく呟いた瞬間、前線が割れるように開かれた。


「撃て!」


 砲兵隊長の号令とともに、プレゴンが咆哮のごとき轟音を響かせ、火焔と鉄の雨をルーデル軍へと放った。

 榴弾が空を裂き、地面を爆ぜ、爆煙が陣形の一角を呑み込む。

 直後、パワードスーツ部隊が突進を開始。

 地を踏み鳴らし、鋼の巨人たちが如く敵陣に斬り込んでいく。


「これが……ユリウス様の軍。魔導兵器と戦術の融合……」


 リルケットが見惚れたように呟いた。

 かつて帝国軍に属していた彼ですら、その完成された陣形と連携に息を呑んだ。


「見事な連携ね。まるで稽古のよう」


 セシリアは皮肉気に笑いつつも、その瞳は真剣に戦況を見つめていた。

 一方で、ルーデルは鋼覇の盾を展開し、全軍に防御を指示。

 猛烈な砲撃と突撃をなんとか凌ぎつつも、その眉間には明らかな焦燥が刻まれていた。


「くそ……予想以上だ。だがまだ、崩れるな……!」


 ルーデルの苦戦が続く。

 戦場の潮目が明らかにユリウス軍に傾き、誰もがその勝利を確信しかけた、そのときだった。


「……行きなさい」


 後方の丘の上、陣幕の中にいたヴィオレッタが、静かに命じた。

 彼女の傍らには、メイド服を纏った少女が立っていた。


 ヘカテー。


 その金髪は陽光を浴びて燦然と輝き、氷のような双眸は、戦場の中心を真っ直ぐに見据えていた。


「了解。対象:ヴァルトハイン軍。目標:破壊」


 無機質な声音が空気を震わせる。

 やがて、白銀の魔力がその背に展開され、少女は軽やかに地を蹴った。

 戦場へと、災厄が放たれる――。



 前線通信の報告が悲鳴に変わる。

 無音で迫る銀の閃光――それが、ARTEMIS08《ヘカテー》だった。

 その機体は黒銀に輝く細身のシルエットをしており、まるで舞うような動きで次々とパワードスーツ兵を切り伏せていく。

 打ち込まれるはずの弾丸は届かず、迫る槍は空を裂くだけ。銃撃も、火砲も、彼女には通じない。


「このままでは全滅します! リィナさん!」


 呼びかけに応じ、前線の上空から舞い降りた黒髪三つ編みの少女――ARTEMIS07《リィナ》は、鋭く戦場を見据えた。

 そしてその視線の先、銀色の戦乙女が歩を止める。奇妙なことに、敵性反応は攻撃を止め、リィナへとゆっくりと顔を向けた。


「おまえは……何者?」


 リィナの問いに、銀の戦乙女は音もなく口を開く。


「ARTEMIS08。コア識別名ヘカテー……起動認証、完了済み」


 一瞬、リィナの瞳が揺れた。


「――後継機種……」


 彼女の中で、どこか懐かしく、それでいて明確に敵対するべき存在が確立される。


「識別完了。敵性個体、ARTEMIS08。排除対象として認定。……迎撃を開始します」


 リィナの両脚に内蔵された加速魔導回路が唸りを上げ、一瞬で距離を詰める。

 彼女の拳がヘカテーの頭部に迫るが――その一撃は、届かなかった。




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