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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第160話 リィナの夢

「ルーデル伯爵軍が、東部領境を突破しました。また、シャドウウィーバからは、ヴィオレッタが観戦武官として随行しているとの報告もあり」


 緊張感の漂う報告が、戦略室に響く。


「……馬鹿な」


 ユリウスは目を細め、地図上の赤い印に視線を落とす。そこは、元領主が軍事統帥権を返上したばかりで、軍の再編が不完全な地域であった。


「狙い撃ちか。戦力の空白を見抜いたうえでの侵攻……」


 セシリアが呟く。鋭い視線が、すぐにヴィオレッタの名をとらえた。


「観戦武官? ただの傍観者じゃないわね。やはり、裏で糸を引いてる」


「ちっ、やっぱり裏にいたか。兄貴、早く動こうぜ。このままだと、あいつらに南部が食われちまう!」


 ミリは工具を鳴らしながら、歯噛みするように言った。


「ユリウス様。自走砲プレゴンと量産型パワードスーツ部隊、すでに整備完了。侵攻ルートの予測も済んでおります」


 リィナが冷静に情報を重ねる。ユリウスは深く息を吐き、リルケットに視線を送った。


「我が軍は?」


「準備万端。あとは命令を待つだけです」


「よし――アーベント」


「ここに」


「城と後方の運営を任せる。頼りにしている」


 アーベントは静かに頷き、拳を胸に当てた。


「ヴァルトハインの守りを、必ず」


 ユリウスは立ち上がり、皆を見回す。


「ヴィオレッタ……奴の狙いは、混乱を起こすことだ。だが俺たちは、もう引かない。出陣する。侵略には、力で応える」


――扉が開かれる。


 魔炎を纏う自走砲プレゴンが先陣を切り、量産型パワードスーツ兵が整然と続く。

 セシリアが魔導書を抱え、ミリが工具を揺らし、リィナはユリウスのすぐ背に従う。

 リルケットは最後尾で、小さく呟く。


「これは、東への第一歩にすぎない。まだ、始まったばかりだ」


 その瞳は東の空に向けられていた。


 戦場へ向かう途中の行軍中、馬車の揺れが次第に激しさを増す。

 瓦礫の多い古道を進む一行の中、ユリウスはパンの切れ端を噛みしめながら顔をしかめた。


「……これはパンというより、兵器じゃないか。歯が折れそうだ」


 ぼそっと零すと、隣にいたリィナがくすりと笑う。


「お口に合いませんでしたか、ユリウス様?」


「いや、栄養補給にはなる。だが……せめてもう少し、柔らかくてもいいだろう」


 リィナは手にしたパンを見つめ、そっと呟いた。


「……戦いが終わったら、パン工房をもう一度、ちゃんと動かしたいです」


「パン工房?」


「はい。パン作り、ずっとしてみたかったんです。古代の製パン機構を応用して、ユリウス様のためだけの――特別なパン、焼いてみせますから」


 そう言って微笑む彼女の目は、どこか遠い未来を見つめていた。


「……食べてくれますか?」


 ユリウスは一瞬言葉に詰まり、そして笑った。


「ああ。楽しみにしてる」


 馬車は再び揺れた。砂埃が舞い、遠くに黒い煙が立ち上る。

 それでもリィナは、その先の穏やかな日々を信じるように、そっとパンの切れ端を懐にしまった。


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