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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第157話 鍵

 薄暗い石造りの礼拝堂。蝋燭の光に照らされ、壁に刻まれた旧い文字が揺れていた。


「……失敗、ですか」


 低くくぐもった声で呟いたのは、黒衣を纏った男――枢機卿ベルンハルト。祭壇の前で跪く伝令の報告に、男は眉一つ動かさなかった。


「シルヴァーナは死にました。神体の確保には……失敗を」


「そうか」


 一拍の沈黙。ベルンハルトの声には怒気も焦りもなかった。ただ、冷たく澄んだ水面のように静かだった。

 その場に現れたのは、濃紫の礼服を纏った女――ヴィオレッタである。黒髪を緩くまとめ、唇には微笑を浮かべている。


「まあ、あの子にしてはよくやったわ。命を賭けて夢を見た。悪くない最期じゃない?」


 嬉しそうなヴィオレッタの表情に、ベルンハルトの目つきが険しくなる。


「あら、怖い」


 ヴィオレッタはおどけて見せた。


「戯言はそこまでに。次の段階へ移る」


 ベルンハルトはヴィオレッタの相手をすることはせず、自分の話を進める。


「ええ。……代わりはいる、でしょう?」


「すでに次の候補地は絞ってある。いくつかの遺跡……その中のひとつに、より適した“鍵”が眠っている。そちらに手を伸ばす」


 旧律派が手に入れたアルケストラ帝国時代の遺跡。そこにある”鍵”がベルンハルトの目的であった。

 当然、ヴィオレッタもそのことを知っている。

 旧律派を再び歴史の表舞台に押し戻せる力を持った”鍵”。ヴィオレッタはそれに思いをはせる。


「ふふ。愉しみね。今度こそ、あの少女以上の――」


 ヴィオレッタは口元に指をあて、そこで言葉を止めた。目だけが妖しく輝いていた。


「……混乱の焔は、もう止まらないわ。ゆっくりと、確実に、全てを焼き尽くすのよ。そうよね、枢機卿?」


「我々は“秩序の回復”を望んでいるだけだ。旧き律法に従い、正しき姿へと世界を戻す……そのための“器”が必要なのだ」


 蝋燭の火が、揺れた。

 ベルンハルトは静かに立ち上がり、ローブの裾を翻して礼拝堂を後にする。

 その背中を見送りながら、ヴィオレッタは一人ごちた。


「“彼女”が目覚めれば、すべてが変わる……」


 闇の中に囁くように残されたその言葉だけが、意味深く、空間に漂っていた。


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