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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第15話 美味しいパン

 扉を開けると、ふんわりと温かな空気と甘く香ばしい匂いが三人を包み込んだ。


「……兄貴……この匂い、なんか幸せな気分になるな……」


 ミリが鼻をくすぐる香りに目を細め、真っ先に工房の中へと足を踏み入れる。


 そこには、焼きたてのパンが棚にずらりと並び、石窯からはまだ湯気が立ち上っていた。作業台の上には丸められた生地、すぐそばには小麦粉や塩、こね棒などの道具が整然と並んでいる。


「……すごい……見た目も香りも完璧。まるで職人の手仕事みたい」


 セシリアが呆然と呟き、焼き上がったパンに手を伸ばす。ユリウスもそっと一つ取ってちぎってみると、内側はふわふわで柔らかく、指で押せばゆっくりと戻る弾力があった。


 ミリがかぶりついて、目を見開く。


「な、なにこれ!? 柔らかいし甘みもあるし、これがパンか!? パンってもっと歯が折れそうなもんじゃなかったのか!?」


 セシリアも恐る恐る一口食べて、瞳をきらりと輝かせる。


「ん……! しっとりしてて、噛むたびに小麦の香りが広がる……これ、王都の菓子より美味しいわよ!?」


 ユリウスはどこか気まずそうに笑った。


「……まあ、僕のスキルで作った工房だからね。色々と、工夫はしたつもりだよ」


「それで済まされるレベルじゃないでしょ、これ!」


 セシリアがパンを抱えながら詰め寄り、ミリは夢中でもぐもぐしながらも何度もうなずいている。


 工房の片隅には、まだ焼かれていないパン生地が休んでおり、ふっくらと発酵していた。そこに漂う香りと、こもれ日で温まった木の壁と石窯のぬくもり――


「兄貴、これ……砦の飯、全部このパンでいい!」


「僕は……反対しないよ」


 そんな冗談めいた会話の中、三人は木の椅子に腰を下ろし、それぞれのパンを頬張る。


 荒野の真ん中で生まれた、小さな奇跡の味に。


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