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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第140話 失言

 儀式の喧騒が過ぎ去った午後。ヴァルトハイン城の応接室では、ユリウスが肩を揉まれながら深くため息をついていた。


「ふぅ……リルケットにはもう書簡の手配を任せてあるよ。南部の貴族たちがどちらを選ぶか、見ものだね」


 彼の背後では、リィナが淡々とした手付きで肩を揉んでいた。


「ユリウス様、肩の筋が固まっています。無理はなさらないでください」


「ありがと、リィナ……ほんと、君の手は魔法だね」


 ユリウスが軽口をたたくと、リィナは無表情ながらもほんの少しだけ目を細めた。

 ソファに腰掛けていたミリが、湯飲みに口をつけながら黙って二人の様子を見ていた。その目はどこか落ち着かず、何かを言いかけては飲み込んでいるようだった。


 それに気づいたユリウスが、ふと問いかけた。


「ねぇ、ミリ」


「ん?」


「セシリアのこと、どう思ってる?」


 ミリの手がぴたりと止まり、湯飲みがわずかに揺れた。


「……どう、って?」


「君、時々セシリアのことを避けてるように見えるからさ。前より話さなくなったし」


 ミリは視線を逸らし、膝の上で指を組んだまま、しばらく黙り込んでいた。


 やがて、ぽつりと口を開く。


「……あたし、ドワーフの王族の末裔なんだ」


 ユリウスは、ぽかんとした表情でミリを見つめていた。


「……ドワーフの、王族?」


 ミリは居心地悪そうに頷く。だが、それ以上に困惑しているのはユリウスだった。


「待ってくれ……グランツァール帝国がドワーフの国を滅ぼしたのは、僕も知ってる。ということは……セシリアの……いや、帝国の血を引く彼女を、君は……ずっと……」


 自分の言葉が喉で詰まる。ミリがユリウスと共にいてくれたこと、セシリアを避けていた理由。全てが一本の線で繋がった気がして、ユリウスは心の奥底が痛んだ。


 そんな彼に、ミリは慌てて手を振った。


「ち、違う! あの子に……セシリアには、話したことがある。昔、砦を出ていこうとしてたときに、あたし、思わず言っちまって……」


 ユリウスは目を見開いた。


「……セシリアは、それを知っていた?」


「詳しくは言ってない。でも、あの子は気づいてた。あたしが何者か……そして、何に縛られてるかってことも」


 ミリは肩を落とし、吐き出すように続けた。


「あたしがセシリアを避けてたのは、きっとあんたが思ってるのとはちがう。あたしたちは帝国を再建しようとしてる。でも、それを公にするってことは……帝国を滅ぼされた側の同胞にはどう説明するのかって思ってた。人間以外を平等に扱うなんて言ってしまえば、支持を失うかもしれない。でも、言わなきゃ、あたしたちの存在は否定される」


 ユリウスは黙って耳を傾ける。


「今日、セシリアのやつが……あの継承の儀式で、帝国を変えるってはっきり言っただろ。あれで、あたし、わかんなくなったんだよ……ほんとに、これでいいのかって」


 彼女の瞳は揺れていた。


 ユリウスが視線を巡らせると、セシリアが静かにうなずいていた。何も言わず、ただその銀の瞳で肯定を伝える。


 ユリウスは小さく息を吐き、ミリの方へと向き直った。


「ミリ。……もし君が、ドワーフのための国を作りたいというのなら、僕はそれを支援する。無理にここに縛るつもりもない」


 ミリの肩が震えたかと思うと、彼女は目を潤ませながら俯き、ぽつりとつぶやいた。


「……ばか」


 それきり何も言わず、ミリはその場を飛び出していった。


 走り去る小さな背中を見送るユリウスに、セシリアが呆れたように一言。


「最悪」


 続けて、背後からはリィナの平坦な声。


「百点満点中、二点です。減点理由は、空気の読めなさと配慮の欠如」


「ちょっと待って、僕そんなにひどいこと言ったか……?」


 ユリウスが額を押さえたその横で、セシリアとリィナは、あきらめたように肩をすくめていた。


「早く追いかけて。それで、ミリを一生手放さないって言ってあげて」


 セシリアに言われてユリウスは慌ててミリを追いかけ、掴まえて抱きしめる。

 ユリウスは、ミリを抱きしめたまま、静かに語りかけた。


「……僕は、君が言ったことを重く受け止めるよ。人間だけの国にするつもりはない。むしろ、これから築くのは、人間もドワーフも、他のどんな種族も――力ある者が正当に報われる国だ」


 ミリはその言葉に目を見開いた。


「本当、に……?」


「もちろん。君がドワーフの王族だったことも、誇りにしてほしい。これからの僕の戦いに、誇りある種族として協力してもらいたい。ずっと隣にいて欲しい」


 ミリが唇を震わせる。


「……兄貴、ずるいよ……そんなふうに言われたら……」


「それに――」


 ユリウスはふと視線を上げた。


「ヴィオレッタを追う。混沌を広めようとする彼女の動きを封じるために、これから情報機関を立ち上げる。名は《影織シャドウウィーバ》」


 ミリが目を細める。


「名前、カッコイイね」


「適性を見て、人間に限らず各種族から選ぶ。戦うだけが戦争じゃない。知恵もまた、力になる」


 ミリは小さく笑った。


「そっちにリィナをスカウトしないでよね?」


「いや、きっとリィナはもう応募済みだと思う。採用しないけどね」


「えっ」


 二人が顔を見合わせ、くすりと笑い合う。

 その音は、吹き抜ける風の中で、穏やかに溶けていった。



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