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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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136/213

第136話 裏切りの効果

 決戦当日──

 空はまだ青黒く、夜の名残をわずかに残していた。冷たい風が野を吹き抜け、剣や甲冑に触れるたび、金属音がひそやかに鳴った。


――ライナルト


 ヴァルトハイン城の城壁上、冷えた石の上に立つ男がいた。雷帝のスキルを帯びたその身体には、重厚な軍装と漆黒のマントが揺れている。

 かつては誇りだったこの城も、今では最後の砦に過ぎない。背後に控える兵士の数は半減し、幾人かは目を逸らしていた。


「……ついに来たか、兄上」


 つぶやくその声は低く、鋭かった。


 敗北の兆しがあるわけではない。いや、むしろスキルの優位では自分のほうが勝っているはずだ。だが、心のどこかが冷たい。


──なぜ、あれほどの人間が、あれほどの支持を得る?


──なぜ、俺の怒号には怯える顔しか返ってこず、あいつの言葉には希望が宿る?


 牙をむくように唇を歪めた。


「今日こそ証明してやる。俺の方が、上だと」


■ユリウス


 対峙するは、荒野の果てから立ち上がった青年。

 陣幕の最前に立つユリウスは、深く息を吸い込んだ。


「……ここが終着点か。それとも、始まりか」


 ヴァルトハインの城は、かつて自分が育った家。幼き日に見上げた城門も、騎士たちが稽古に励んだ中庭も、全てが記憶の底にある。

 それでも、迷いはない。

 後ろを振り返れば、ミリが無言でうなずいていた。短い手には工具ではなく、小さな戦斧が握られている。あの炎のような赤毛は、今日も逆立つように勢いを帯びていた。


「この戦いが終わったら、新しい工房を建てましょう」


 と言ったセリシアもまた、魔導杖を構えている。淡く光る銀髪に朝日が差し、彼女の影は長く伸びていた。

 リィナはユリウスの肩にそっと手を置いた。


「ユリウス様。貴方は、たった一人ではありません」


 その言葉に、静かに頷く。


「……ああ、わかってる」


 見上げた空は、東から紅を帯びはじめていた。太陽は昇ろうとしている。

 そして、かつて同じ母から生まれた二人の兄弟が、ついに剣を交えるその瞬間を待っていた。



 ついに開戦の火蓋が切って落とされた。


 雷鳴と共に、空を裂いて飛来する無数の雷槍投爆。その全てが、魔導回路の共振によって爆裂し、炎と衝撃がユリウスの陣を呑み込まんとしていた。

 ヴィオレッタがもたらした支援兵器は、どれも破格の性能だった。連動する魔導砲、機動投槍車、そして魔法障壁を貫くための新型術式――それらは本来、圧倒的な火力差をもたらすはずだった。


 だが。


「――無効化された、だと……!?」


 砦の前線で戦況を監視していたライナルトの表情が引きつる。


 雷槍が炸裂するはずの空間に、何かが起こった。空間が歪み、雷のエネルギーが逸れてゆく。そして着弾の瞬間、光も音も吸い込まれたように消え、爆発は霧散した。


「これは……吸収結界か!? いや、熱でも魔力でもない……これは何だ……!」


 混乱する敵兵たちの間を、音もなく滑空するユリウス側の飛翔体。先端に固定された魔導回路が、雷槍の術式を瞬時に読み取り、迎撃や中和を行っている。


「間違いない。あれは、逃げ出した技官たちの技術だ……!」


 ライナルトは悔しさに歯噛みする。


「俺が、育て、選び、鍛えた技官たちが……ユリウスの下で……!」


 自身の命令に怯え、目の光を失っていた彼らが、今や輝く瞳で最前線の技術を操っている。


「ふざけるな……! 俺の物だったはずのものが、なぜあいつの元で……!」


 怒りと屈辱が胸を焦がす。


「閣下!」


 副官が駆け寄る。


「各部隊、進軍が止まりつつあります。士気が……」


「黙れ!」


 ライナルトの叫びが響く。彼の背後で、兵たちが次第に後退を始めていた。


「……やはり、俺が出るしかないか」


 ライナルトはゆっくりと立ち上がり、重厚な雷帝の甲冑を纏う。


「俺が、奴を叩き潰す。それで全ては元通りになる……!」


 雷光が指先に走る。天空がざわめき、大地が震えた。

 ライナルト――“雷帝”の名を冠する男が、戦場に降り立とうとしていた。


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