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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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135/213

第135話 ヴィオレッタの支援

 ヴァルトハイン城・執務室。

 戦況図の上に重く肘をつき、ライナルトは苛立ちを押し殺していた。北のユリウス、南のフォルクシュタイン貴族連合――帝国は、彼にとってもはや牙を剥く獣と化していた。

 いっそのこと、ユリウスと一時的にでも停戦に持ち込めれば、フォルクシュタイン貴族連合に集中できる。エリザベートにも顔が立つ。そんな考えが頭をよぎった。

 実は今思いついたことではない。

 以前にも思いつき、エリザベートの前で口にしたことがあった。

 その時のエリザベートの顔が思い出される。

 そんな時、扉が静かに開く。白銀の髪に深紅のドレス、柔らかくも不敵な笑みをたたえたヴィオレッタが入ってきた。


「来るなとは言っていないが……貴様のような者に暇を割く余裕はない」


「ふふ。だからこそ来たのよ、ライナルト。今のあなたには“余裕”こそが足りないのでしょう?」


 ヴィオレッタは優雅に歩み寄り、机の上の地図に目を落とす。


「二正面作戦を強いられている今、あなたの戦力は明らかに過小。支援が必要だと思って来たの」


 ライナルトは目を細めた。


「……つまり、貴様はこのままでは“俺が負ける”と見ているわけか?」


 言葉の端に滲む怒気。空気が張り詰める。

 だがヴィオレッタは微笑を崩さない。


「違うわ、ライナルト。あなたは“勝てる”の。ただし――わたしの助けがあれば、の話だけれど」


「貴様……!」


 拳を机に叩きつけようとして、ライナルトは止めた。苛立ちに歯を食いしばる。


(……背に腹はかえられぬ)


 軍資金も、兵も、魔導資材も、限界に近い。敗北の兆しは、冷静に見れば誰の目にも明らかだった。


「……いいだろう。貸しを作る気はない。だが支援は受ける」


「ええ。約束するわ。あなたの“邪魔”はしない。いずれ、あなたが“勝者”として玉座に立つ日が来るなら――その隣に、わたしがいるだけ」


「戯言はいい。さっさと動け。兵と物資を寄越せ」


「了解」


 ヴィオレッタは一礼し、くるりと踵を返す。その背に、ライナルトは刺すような視線を送りながらも、声をかけることはなかった。

 彼女が去った後、しばしの静寂。


「……兄貴にだけでなく、あの女にまで、見下されるとはな」


 吐き捨てるように呟き、ライナルトは拳を固く握りしめた。


 そして、後にエリザベートはこのヴィオレッタの申し出が、ライナルトの背中を押したことを知るのだった。


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