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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第12話 自己紹介

「貴方は?」


 銀髪の少女の問いかけに、ユリウスはわずかに手を止めた。


「僕の名前はユリウス。出身は――ヴァルトハイン公爵家だよ」


 その名を聞いて、セシリアの目がかすかに見開かれる。

 ヴァルトハイン。その名は、帝国の南方でも有数の名門貴族のものだった。


「……公爵家の人が、どうしてこんな砦に?」


 セシリアの当然の疑問に、ユリウスは肩をすくめ、レンガの積み上がった炉を見上げた。


「追い出されたんだ。僕のスキルが“使えない”と判断されてね。【工場】なんて、戦にも貴族の政にも役に立たないってさ」


 冗談めかして言うその声に、にじむような自嘲が混ざる。

 それを聞いていたミリが、ふんっと鼻を鳴らした。


「けどな、ひとつだけ“情け”をかけられたんだ。『ノルデンシュタイン砦から北はやる』ってさ。何もない荒野を、まるごとな」


 セシリアはその言葉を受け止めるように、小さくうなずいた。


「それで……ここを?」


「ああ。僕の領地だよ。何もないけど、自由がある」


 言いながら、ユリウスは小さく笑った。その表情には、追放者ではなく“開拓者”の覚悟が滲んでいた。


「道も人も何もないけど……ここから始めるさ。技術と、知恵と、スキルと――あと、仲間と一緒にね」


 ミリが照れ隠しのように石ころを蹴る。セシリアは静かにその光景を見つめていた。


「それから、こっちは――ミリ。僕の仲間だよ」


 ユリウスが隣に立つドワーフの少女を軽く顎で指すと、ミリは腕を組んでそっぽを向いた。


「仲間って……兄貴、照れること言うなよ。あたしは、ちょっと手伝ってるだけだっての」


 ぶっきらぼうな声とは裏腹に、その耳の先がほんのり赤いのをセシリアは見逃さなかった。


 そんなふたりの様子をしばらく眺めたあと、セシリアは自分のローブの裾を正し、ほんのわずかに頭を下げた。


「私はセシリア。遺跡の調査のために、この砦を訪ねてきたの」


「遺跡?」


 ユリウスが首を傾げると、セシリアは頷いた。


「この荒野には、かつて“アルケストラ帝国”という古代文明が存在していたという記録が残ってる。だけど、詳しい調査はほとんどされていない。私はそれを確かめに来たの」


「まさか……一人で?」


「ええ。一応、魔法は使えるし、錬金術協会にも籍があるから、身を守る手段は持っているわ。見た目は地味だけど、意外とやれるのよ?」


 そう言って、セシリアは少し得意げに微笑んだ。

 銀の髪が風に揺れ、表情がほんの少しだけ柔らかくなる。


「地味って、自分で言うか?」


 ミリがぽつりと呟き、ユリウスは笑いをこらえるように咳払いをした。


「ま、とにかく。君がこの砦に来たのは偶然でも、遺跡を調べたいなら協力できることもあるかもしれない。今は砦の復興中だけど……よければ、しばらくここに滞在してみないか?」


 セシリアは少し驚いた顔を見せたあと、静かに、でも確かに頷いた。


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― 新着の感想 ―
とても面白くて一気読みしてしまいました。 これからこの場所がどうなっていくのか楽しみです。 続きを楽しみにまってます。
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