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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第119話 救出準備完了

 野戦陣地の一角、魔導帷幕に守られたテントの中。外では風が草を揺らし、兵たちの足音と物資の積み下ろしが微かに聞こえていた。

 コックピットユニットの中に身を沈め、ユリウスは静かに息を整えた。片手には魔導ペン、もう一方の手は震えを抑えるように布で包まれている。

 セシリアの作ってくれた衝撃緩衝魔導回路は、未完成のままだった。だが、今は彼女の助けはない。自分でやるしかなかった。


 「ここに補助コイル……いい、リィナ、角度は十五度。回路の流れを詰まらせないように」


 「了解しました、ユリウス様」


 リィナは手際よく魔素ケーブルを整え、ユリウスの指示通りに差し込んでいく。

 その動作に無駄はなく、戦場での修復を幾度もこなしてきた手だった。淡く青白い魔力光がコックピット内に灯る。


 「……ごめんな。君まで戦わせる羽目になった」


 不意に呟かれた言葉に、リィナの手が止まる。


 「私は……ユリウス様の部下です。護衛ゴーレムですから」


 「いや、それでも。僕を救うために、爆発に巻き込まれる危険を冒した」


 ユリウスは回路盤に視線を落とし、わずかに笑った。


 「雷撃を受けて君の声が聞こえなくなったとき、本当にダメかと思った。でも……君が来てくれた。ありがとう、リィナ」


 リィナは黙っていたが、ほんのわずかに視線を逸らした。


 「それが私の存在意義です。ですから……礼を言われると、少し困ります」


 魔導回路の端子を差し込みながら、リィナは口元を小さく動かした。


 「でも……いえ、なんでもありません。動作確認、お願いします」


 「……うん」


 ユリウスは回路に魔素を流し、警告音が鳴らないのを確認した。

 不完全ながら、何とか衝撃を吸収する機構は働くようだ。セシリアの精密さには及ばないが、これで命をつなぐことはできる。


 「セシリアが戻るまで……僕がなんとかしなきゃな」


 その言葉に、リィナは黙ってうなずいた。

 夜風が、テントの布をわずかに揺らした。


 夜の帳が野戦陣地を包み込み、周囲が静寂に沈んでも、アテナのコックピットでは灯火の明かりが揺れていた。


 「……これで、回路の繋ぎ直しは終わりです、ユリウス様」


 リィナが最後の導線を慎重に固定し、工具を置いた。魔導石が小さく脈動し、即席ながら衝撃緩衝回路が命を得たことを告げるように光を放つ。


 「ありがとう、リィナ。これで……セシリアを助けに行ける」


 ユリウスの声には、安堵と決意が混ざっていた。だが、その言葉を聞いても、リィナは視線を逸らさなかった。


 「行くんじゃなくて、“行こうです”。私も一緒に」


 「……そうだったな」


 「セシリア様は私にとっても、大切な人です。ユリウス様だけに行かせるつもりなんて、ありません」


 その目は、揺るぎない意志をたたえていた。


 「三人で帰りましょう。誰一人欠けずに。アテナが壊れても、敵に囲まれても、絶対に、戻るって決めましょう」


 ユリウスはわずかに驚いたように目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。


 「……ああ、約束する。絶対に三人で、戻ってくる」


 リィナはほっとしたように息をつき、少し微笑んだ。


 「なら、準備は万全です。アテナも、私たちも」


 深夜の野戦陣地、アテナの静かな内部に、二人の決意が静かに刻まれた。


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