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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第116話 異母姉

 冷たい石の壁に囲まれた地下牢の奥で、セシリアはひとり膝を抱えていた。

 軋む扉の音とともに、誰かの足音が近づいてくる。


「こんなところで会うなんて、皮肉ね。まさか皇女閣下が捕まってるなんて。それとも、可愛い妹と言い換えたほうがいいかしら?」


 聞き覚えのある、柔らかいのにどこか嘲るような声。セシリアは顔を上げ、鉄格子越しにその姿を見た。


「……ヴィオレッタ」


 白銀の髪、気品ある身のこなし、美しい容姿。だがその瞳には、情など一滴もない。

 以前とは髪の毛の色は違うが、その顔は見間違うはずもない。

 唾棄すべき異母姉。


「あなたが来るとは思わなかったわ。混乱を好むあなたには、牢獄なんて退屈でしょうに」


「だからこそよ。妹が囚われたと聞いて、どんな顔をしているか見に来たの。心の中には混沌が広がっているでしょう。それとも愛しい人を思って、自らの手で慰めていた?」


 ヴィオレッタは微笑む。だがその笑みには、毒がある。


「絶望してる? それとも、まだ希望を捨ててない?」


「……黙っていてくれる?」


 セシリアはプイッと顔をそむけた。


「ふふ、冷たいわね。せっかく忠告に来てあげたのに」


 セシリアは立ち上がり、鉄格子に近づく。


「あなたの忠告なんて聞く気はない。あなたの“混乱こそ正義”なんて理屈、私は認めない」


「理屈じゃないわ、真理よ。安定は腐敗を生む。瓦解してこそ、新しい秩序が生まれるの。あなたのように“救う”だの“治める”だの夢見てる人間には、一生わからないでしょうけど」


 幼子を諭すかのような口調。しかし、セシリアはそれを素直には受け取らない。


「ええ、わからない。私は、壊すことしか知らないあなたが怖い。……だから嫌いなの」


 一瞬、ヴィオレッタの微笑みが止まる。だが次の瞬間、楽しげに肩をすくめた。


「それでいいのよ、セシリア。あなたには綺麗なままでいてもらわなきゃ。私とは違うって、誰もが思い込んでくれていた方が都合がいい」


 そして、ヴィオレッタはくるりと背を向けた。


「また来るわ。……次は、あなたの“理想”が壊れる瞬間を見にね。あなたの愛しい人は私の理想には邪魔なの。そのうち消えてもらうわ。あら、これじゃあ忠告じゃなくて予告ね」


 ヴィオレッタはくすくすと笑う。

 そして、冷たい足音が遠ざかり、地下牢には再び静けさが戻った。

 セシリアは拳を握りしめたまま、唇を噛んでいた。


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