第10話 工場見学製鉄所
翌朝。
ユリウスとミリは、まだ誰も使ったことのない巨大な製鉄所の正面扉を押し開けた。
ギギィィ……と重たく軋む音とともに、中からひんやりとした空気が流れ出す。
昨日ユリウスが魔力を使い切って建てたばかりの構造物。内部は静まり返っており、どこか神殿のような荘厳さがあった。
「……な、なんか……でっけえな……」
「自分で作ったんだけどな。正直、記憶があいまいだ」
二人は注意深く中を進み、炉のある区画の奥へと向かった。
すると、巨大な貯蔵庫のような空間の隅で、ミリが何かを見つけて目を見開く。
「……兄貴、これ……!」
彼女が指さした先には、赤茶けた鉱石の山が積まれていた。
光を受けて、ところどころに金属質の光沢がきらめく。
「これは……鉄鉱石だな。間違いない。しかも結構な量だ……!」
ユリウスがしゃがみ込み、手に取った石をじっくり眺める。
不純物は多いが、十分に精錬可能な品質だった。
「けど……」
彼は炉の方を振り返り、首をかしげた。
「この高炉、まだ動かしてないんだよな……。魔力も注いでないし、稼働用の人員もいないし」
「つまり、材料だけ作って放置ってわけか。なんて中途半端なスキルだよ……」
ミリが呆れたように言いながら、鉱石の山に手を当てる。
「でも、これだけあれば、精錬できりゃしばらくは困らねえな。……で、どうすんだ? このデカブツ動かすのか?」
「いや……」
ユリウスは少し考えたのち、ぽんと手を打った。
「まずは、砦の中に小規模な精錬炉を作ろう。手が届く規模で、俺とお前の手で動かせるやつだ」
「お、いいじゃねぇか。そっちのほうが性に合ってるぜ、兄貴!」
二人は笑い合い、鉄鉱石の山をひとまず袋に詰めはじめた。
その後ろで、稼働していない巨大な高炉は、静かに沈黙を守っていた――。




