奪った代償は大きい
ヘッドリー子爵家に新たに生まれた女の子サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。
魔力が吸収できなければ魔力枯渇となり、生死を左右する。
自分自身で魔力を吸収できない者は、他人から譲渡してもらうことで生き延びることができる。
サーシャは両親や兄姉から魔力を分けてもらい、すくすくとは言えないがなんとか十五歳まで育った。
そんなサーシャに七歳年上の婚約者ができた。
婚約者の名前はアラスター。
アッシュフィールド伯爵家の嫡男でサーシャの兄の友人。さらに言えば、生まれたときからの付き合いでもある。
アラスターは魔力枯渇で苦しみつつも、それでも精一杯に生きるサーシャをこの手で守りたいと密かに想っていた。
その想いを叶えるため、アラスターは最年少で王宮魔法使いに上り詰め、様々な研究に着手した。
その結果、周囲の魔力を吸収し、登録者に魔力を供給する魔道具を生み出すことに成功した。
アラスターの生み出した魔道具はサーシャが着けることを想定したものであるため、ネックレスの形をしている。
魔道具の動力源となる魔石をアラスターの瞳の色と同じ色にして、サーシャへと贈った。
こうしてアラスターから贈られた魔道具を身に着けることでサーシャは他人から魔力の譲渡を受けずとも普通の生活を送れるようになった。
***
定期的に魔力を譲渡してもらわなければ魔力枯渇状態に陥ってしまうサーシャは、学院に通うことを諦めていた。
しかし、アラスターがくれた魔道具のおかげで普通の人と同じ生活ができる。
「学院に通ってみてはどうかな?」
両親や兄姉の勧めもあり、サーシャは学院へ通うことになった。
家庭教師から勉強を教わっていたこともあり、授業に困ることもなく、隣の席の令嬢とも仲良くなった。
順風満帆の学院生活を送っていたのだが、サーシャの婚約者が王宮魔法使いのアラスターだと知れ渡ると態度がよそよそしい者が増えた。
王宮魔法使いは国の誰もが憧れる職であり、アラスターの顔はとんでもなく整っている。さらにアッシュフィールド伯爵家の嫡男なので、職を辞しても将来安泰……。
以前からアラスターに好意を寄せていた者たちは、すぐにサーシャに陰湿ないじめを始める。
サーシャは学院内で孤立させられ、ない者として扱われ……、婚約破棄するまで続けると脅され、ついにアラスターがくれたネックレス型の魔道具を奪い取られた。
「あんたなんかがアラスター様の瞳と同じ色の物を持ち歩くなんて……! 身の程を知りなさい!」
普段であれば、相手は高位貴族であるためサーシャは我慢するのだが、奪われた魔道具はサーシャの生命線である。
「返してください! それがないと死んじゃうんです!」
サーシャの叫びはすべて無視された。
魔道具を奪われたことで魔力の供給が止まり、だんだん具合が悪く……魔力枯渇になりつつあると気付いたサーシャは急いで家へと帰った。
家族から魔力を譲渡してもらったが、しばらく安静が必要な状態に陥る。
連絡を受けてアラスターがサーシャの元を訪れた。
「魔道具を失くしてごめんなさい」
ベッドから起き上がれず、そのままの状態でサーシャがアラスターに謝罪する。
「大丈夫だ。また用意する」
アラスターはそっとサーシャの頭を撫で、ついでに魔力を供給した。
優しい魔力が流れてくる感覚にサーシャはほっと息を吐く。
「どこで失くしたのか予想はついているかい?」
「えっと、その……」
失くしたのではなく、奪われたのだとは言えず黙り込むサーシャ。
「サーシャに贈った魔道具は特別なものでね、君以外の者が触れると魔力を吸われて大変なことになるんだよ」
「え?」
サーシャは慌ててアラスターに魔道具を奪われたことを伝えた。
その後、アラスター率いる王宮魔法使いの調査によって、サーシャの魔道具を奪った者が判明したのだが……。
魔道具を奪った令嬢は、魔道具に魔力を吸われて干からびかけている状態で発見された。