こちら“聖女”対策本部です!!
聖女それは人を癒し、豊穣をもたらし、天候を左右する大いなる力を持った選ばれし女性。
様々な書物にも記され、ある時は干ばつから人々をすくい、ある時は人々を癒したらしい。
おとぎ話では主人公として美しく描かれていることも沢山ある。
けれど実際は、同じくらいのトラブルが起きている。
聖女の力は制御できるものと自動的に発動するものがある。
自動的に発動するものは聖女の感情により大きく力が左右される。
要するに聖女が怒ったりするとろくでもないことになってしまう。
必然的に周りの人間は聖女をおもねるしかない。
自分の意思で発動できるものも、優先順位をどうするのか、聖女の判断で力を使い切ってしまった直後に重要案件が入ってきてしまった場合などの責任をだれが取るのか、実際トラブルばかりだったらしい。
雨ごいができると言っても過ぎれば豪雨災害となってしまう。
誰か一人に頼り切りになりすぎても、その後の治世に影響してしまう。
民は何故今まではできていたことが出来なくなってしまったのかと元に戻っただけなのに不満を募らせる。
そういった軋轢による様々よりも聖女に頼らない国づくりをしたほうがマシとなったのは今から五代前の国王の治世だったという。
それ以降聖女はこの国では活躍していない。
但し、処分してしまっているという訳ではない。
彼女たちの力は強い。
酷い目に合わせては恨まれる。
恨みの力でこの国を災禍に巻き込まれても困る。
そのために作られた部門が我々、聖女対策部なのである。
異界からきた落ち人が特殊な力を持っていた場合もこちらで管理することになっている。
少しの利益に目を奪われるよりも、大きな災禍を生まない事。
それが我々のモットーだ。
ちなみに、特殊な能力の持ち主が男だったら“勇者”と呼ばれそちらにも専用の部門があり、専用の人員が割かれている。
対策方法も微妙に違うらしい。
* * *
聖女の証である紋章を体に持つという少女が発見されたという知らせが宮中にもたらされる。
私たちの出番である。
ここで彼女が本物か偽物かという事は大きな問題ではない。
偽物だったとしても国を混乱に導くというトラブルをしょっている状態なのだ。
等しく対処せねばならない状況なのだ。
今回聖女の証が出たと報告があった少女は男爵家のご令嬢だった。
目を輝かして「これは本物ですよね!!私は王宮へ行けますか!!」と聞いてきた。
聖女が見つかった時のプランはいくつかある。
本当に小さな仕事のみを任せて、大きな仕事ができないと思わせるパターンA。主に幼いころに力が発現した者、異界より落ちてきた者に使われる手だ。
小さな幸せで喜べるものには穏やかな人生が待っている。
次にやる気がみなぎるタイプの者で特に力の強い者。
このタイプは下手に頑張られると滅茶苦茶になる。
雨が必要な植物があり、雨が苦手な植物がある場合でもがむしゃらに雨を降らせたり。
やたらめったらに結界を張りまくり魔獣の生息区域が変わり他国に迷惑をかけたり、そういうことになりかねないタイプだ。
この場合は連合諸国のどこにも属していない不毛の大地の開拓をお願いすることになっている。
世間的にはこの場所は最も貧しい者たちの住む場所になっている。
本当にやる気がみなぎる方であれば最高の働き場所だ。
実際は本当に不毛の土地で合法的に住んでいる者は一人もおらず魔獣ですら避けているそんな土地だ。
よしんばそれを劇的に変えるほどの能力であったならそれはこの世界のためになるだろう。
今回の”聖女様”はそのどちらにも当てはまらないタイプの様に見える。
実際こういう人は多い。
特殊な力に目覚めたことは嬉しいがそれを使うことに対した興味が無く、特殊な力に目覚めたという事で他の利益を得たいタイプだ。
この国には非公式にその手のための爵位がいくつか用意されているし、そのための予算も用意されている。
名誉と金以外、色を好むもののためにはきちんと訓練されたものとの、めくるめく恋も用意されている。
勿論、ハニートラップの様なものだけれどもね。
目の前の彼女はうっとりとした目で、聖女の力を鑑定している者に対して「ねえ、王子様ってどんな方?」と聞いている。
自分の力がどんなものかよりも王子様を気にしている彼女には偽の大恋愛をしていただきその力を使うことなく引っ込んでいていただく。
周りの同僚に目配せをすると皆同じ意見らしく、視線だけで頷きあった。
彼女にあてがわれたのは王家の血をひく貴族の一人だ。
真実を見抜く能力が発現したとしても大丈夫なように実際に彼は王家の血をひいている。
建国してから長い時を経て貴族の半分ほどは王家の血が少しながら入っているから嘘ではない。
彼女の「王子様」は勿論工作員だ。
聖力のかかりにくい家系の者で且つ恋愛には興味が無い。
ただ、真に愛するものが出来たときは死亡したとして悲劇的な別れからの次のドラマティックな恋愛を聖女様には準備する規則となっている。
彼女の聖力を安定させるとともに、彼女と釣り合う年代の高位貴族の婚姻を急がせる。
無いものは強請れないという状況に持っていく。
男爵家の彼女も、王都へ向かう途中聖女を襲撃する賊に遭遇した際、偶然居合わせた王家の血をひく貴族が助けるという劇的な出会いをはたして恋に落ちた。
もう彼女には彼しか見えていない。
それでも……。
こちらの準備した聖女様の楽しめるシナリオではご満足いただけず、情緒を不安定にして災害などを起こす場合どうなるのか。
長い長い聖女とそれにまつわる様々なトラブルの中。
我々の国が何もしてこなかったわけではない。
それに本当にどうしようもない飢饉なとがあった際には、今まで幸せな生活を送っていた聖女様にご助力いただくという事もないとは言えない。そのための仕組みだ。
ただ、その聖女が害をなすのみの存在と確定してしまった場合。
その時は……。
彼女たちは力を封印され、記憶を消され別の人間として生きることになります。
そう、この前も……。
「こんなの、シナリオに無かったわ!!!」
そう叫んだ聖女さま。
「我々のシナリオにもありませんでした。ですので仕方がありません」
聖女様の中には前世の記憶?とやらをお持ちの方も多い。
けれど基礎研究もなされないものが突然世にあらわれるのは最終的にはトラブルにしかなりえません。
アイデアはアイデアとして、存在さえ許されないとは思いませんがそれをばらまかれるのはとても困るのです。
自分で卵を浄化できるからと半生の卵を使ったオムライスと呼ばれる食べ物を流行らせた聖女様はその死後、沢山の食中毒者を出すことを想像していたのでしょうか。
聖なる力を持つものは別に神の使いという訳ではない。
異なる世界の精霊に愛されている訳でもない。
その事実がこの世界にとっては救いでした。
シナリオが!!としきりに叫ぶ聖女様に封印の腕輪を着け、記憶を消す魔法をかけました。
万が一腕輪が無くなり再び彼女が聖女の力を使えることになっても……。
その時はまた新たなシナリオを準備するだけです。
それが聖女対策本部の仕事です。
この世界が昨日と同じ普通であるように、私たちは活動していきます。
読んでくださってありがとうございます!!
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他にも中編等書いてますのでよろしければ!
【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話
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