第4話 レベル
───── 翌日の朝。
「え?よく分からずにレベルアマチュアになった?」
意表を突かれ驚くセシルの声がキッチンから聞こえてきた。
「うん、気づいたらアマチュアだって言われて」
ロイは椅子に座りながらダイニングテーブルへ両手で頬杖をつきそう答えた。セシルはキッチンで朝食を作りながら会話をしている。フライパンには目玉焼きとソーセージが二つずつ置かれて火を通されており、その横の小鍋ではスープが温められている。どうやら二人は職種の"レベル"について話をしているようだ。
「だ、誰に…?」
「島長のじいちゃん。俺が畑仕事してた時に、「おぬしはもう農家のレベルアマチュアじゃな、認定しよう」ってカードくれたんだけど、なんでくれたかよく分かってないんだよな」
ロイの記憶には島の長である老人がカードを手渡してホッホッホッと笑っている姿があった。
「ハハハ、そうだったんだ…」
セシルは眉を八の字にして空笑いをした。ソーセージをひっくり返しながら彼はそのまま話を進める。
「じゃあもしかして、"レベルの定義"もあんまり知らない…?」
「定義…あーていぎね、うんあれだテーギテーギ」
「待って、一旦整理しよう」
誤魔化すロイにいち早く気付いたセシルは手のひらを出し会話を止めた。
「世界には色んな職業があって、職種毎に個人の能力差を示す階級がある。それが"レベル"なのは知ってるよね?」
「おう、それは常識だからなー」
セシルはコンロの火を止め、皿に料理を盛り付けながら具体的に話を始めた。
「で、この"レベル"は3つの階級に分かれてるんだけど…」
「あ、それは知ってるぞ!"アマチュア"、"プロ"、"マスター"だろ?」
セシルの説明を遮り、ロイは右手の人差し指、中指、薬指の順に上げながら自信ありげにレベルの階級を答える。
「うん正解。えっと簡単に説明するとね……」
いつのまにか朝食の盛り付けを終えたセシルは、料理をテーブルに並べると自身も席に着き説明を続けた。
「"アマチュア"はその職業で使用する道具や物を自由に操れるようになると認定されるんだ。ロイは農業で使用するクワや苗だったりを自在に操れるでしょ?だから認定されて農家のレベルカードをもらえたんだよ」
セシルは身振り手振りを交えてロイと目を合わせながら声を穏やかにして説明を始めた。
「ほぉ〜〜〜。え、でもさ今さらだけど、レベルの認定って誰でもできるのか…?あんな感じで良いの…?ちゃんと認定された…?」
セシルの説明を聞き納得したが、いや納得したからなのか今度は逆に不安になってしまいロイは焦り出した。
「"レベルアマチュア"はその職種のプロ以上の人なら渡す事ができるんだって。島長さんは確か農家の"レベルプロ"って聞いた事あるから問題ないと思うよ」
「あ、そうなんだ…よかった」
ロイはセシルのこの言葉でホッとした。
「はっ!セシルさん!せっかくだからこの機会にプロとマスターの定義も教えてください!」
閃いたかのように目を輝かせながら、姿勢正しく挙手をしてロイはセシルに懇願する。
「もう…調子良いんだから…いいよ、でもその前に、朝食をいただこう」
意欲に満ちたロイに頼りにされ満更でもないセシルは、右手でスプーンを持ち軽く微笑みかけた。
───── そうして二人はあっという間に朝食を平らげた。
ロイとセシルはすでに食器を洗い終えて再び席に座り話し込んでいる。
「じゃあ次は"レベルプロ"について教えてくださいっ」
ロイは自身の顔の前で両手を勢いよくパシッと合わせセシルに頭を下げた。
「うん。レベルプロはレベルアマチュアの定義に加えて、職種毎に決まっている技術を習得する事でプロになれるんだ」
「技術…?」
ロイは片手で顎を押さえしかめ面で聞き返す。
「技術は仕事で使う技みたいなものだよ。僕もあまり詳しくはないんだけど……例えば農家だったら何もない所からスプリンクラーを出せたり、作物を一気に収穫できる技術があるって聞いた事があるなぁ」
「なにそれすげぇ…そんな便利な技があるのか…」
ロイはしみじみと感心しているがセシルは構わず話を続けた。
「うん、それで、その技術を更に個人で生み出してオリジナルの技術を習得する事ができると一番上の階級、"レベルマスター"に認定される。この"レベルマスター"の独自で習得した技術は、"私が手にした二つとないもの"って呼ぶみたい」
「へ〜…え、今個人で生み出すって言った?技を?え…?無理じゃね?」
「う、うん…凄く難しいからマスターなんだよ…」
ロイの勢いと発言にセシルはたじたじだが、説明に力を尽くした。
「ちなみに認定された時に貰える"レベルカード"、プロカードとマスターカードはアマチュアカードとは違ってきちんと"レベル協会"で試験を受けて合格しないと貰えないんだ」
「レベル協会とは…なんぞやぁ」
ロイは眉間に皺を寄せ質問する。薄々お気付きだろうが、彼はあまりにも"レベル"の事を知らなすぎるようだ。自身は"レベル所有者"だというのに。セシルが説明してくれた大半は世界では常識的な事ばかりだ。ここまで職業の分野において無知なのはなかなかの逸材だと思う。もちろん褒めてはいない。
「レベル協会は世界にある全ての職業の中からレベルが必要な職業を選定している団体だね」
「ふーん、レベル協会…そんなのあるんだな」
レベルについて多くの知識を得たロイは少々くたびれてしまったらしく、気の抜けた返事をした。
「他にも"レベルアマチュアの無い職業"とか色々あるんだけど…今日はここまでにしよっか」
疲弊したロイの様子を伺いセシルは気を配る。
「ああ…ごめんな、頭使いすぎてちょっと疲れちった…でもとりあえず"レベル"がどういうのか何となく分かった、ありがとなセシル!」
「どういたしまして」
ロイは素直に自分の状況を認め詫び、その倍のお礼の意を満面の笑みと共にセシルへ示した。その感謝の気持ちを受け取ったセシルは優しく微笑み返した。
「…よし、俺決めたぞ!」
一点を見つめながら少し考えてロイは発する。
「決めた?」
はてなマークを浮かべたセシルにロイは気合いが入った様子で答えた。
「俺、なんでも屋のマスター目指す!頑張って働いて技術習得していつか必ずなってみせるぜ!」
熱い眼差しで拳を握り遠くを見つめながらロイは語った。
───── 「嬉しい事言ってくれるね〜」
そう言いながらゆっくりとペリーが奥から現れた。
「店長!」
「でも残念…」
ペリーは考え込みながらダイニングテーブルの椅子を引き180°回転させると背もたれに腕を置いて座った。そして驚愕の事実をニコリとした笑みで述べる。
「なんでも屋、レベル無いんだよね」
!!!!
「な、なんだと…!?」
雷に打たれたようにロイは激しくショックを受け崩れ落ちた。
「レベルが無いってつまり…」
セシルは上目で恐る恐る質問をする。
「そっ、レベル協会様に認めてもらえてないんだよね〜」
「くそぅ!レベル協会め!!」
ロイは拳に全怒りを込めて床に叩きつけた。
「ロイちょっと静かに」
ロイの挙動にセシルは冷静に叱りつけた。いつも温厚なセシルに怒られたロイはすっかり肩を落としてしまった。
「ミトメラレテナイ…レベルモラエナイ…マスターナレナイ……」
ロイは部屋の隅で小さくなりながらカタコトでボソボソと呟いている。そんなロイをよそにセシルとペリーは会話を続けた。
「なんでも屋にはレベルは不要という事でしょうか?」
「んー、って言うよりもレベルが付けづらいんだって。なんでも屋って色々なお仕事するじゃない?業務が定まってないから認定するのが難しい…って昔言われた〜」
「そういうことですか…」
ペリーの返答にセシルは顔を下げた。やばりセシル自身も、なんでも屋でレベルを取得できない事に失望している様子だ。
「じゃあやっぱりニートしかないか…」
ペリーとセシルの真剣な話を部屋の片隅で静かに聞いていたロイが、口を開けてハッキリ言葉にした。
「ロイ、そこからは一旦離れよう?」
「やだ!俺にはもうこれしかないんだ!世界一のニートになってやるんだ!マスターニートだ!」
セシルがロイの手を引っ張りこちらに連れてこようとするが、ロイはやだやだやだとジタバタし反発している。
「あんまり雇い主の前でニートになりたいとか言わないほうがいいよー」
ペリー自身、ロイの発言に一ミリも感情は動かなかったが一応本人へ呼びかけた。
「はいはい、落ち込むのはその辺にして。裏庭で洗濯物でも干してきてくれるかい?」
「すぐ干してきます!ロイ行くよ!」
暴れるロイを制止させようとするセシルは、ロイの背後で彼の両腋の下から自らの両腕を通し羽交い締めのような状態になっていた。そんなところにペリーから家事の指示を出され飛び付くように返事をすると、ロイも強制的に連行した。
「うぅ…はーい」
セシルに手首を引っ張られながらロイは重い足を動かした。
───── 裏庭
店舗の後ろにはささやかではあるが裏庭が設けられている。整えられた芝生が敷き詰められており、庭の中央辺りには竿が掛けられた物干しスタンド、壁側にはベンチが設置されている。キッチンの勝手口から裏庭に出る事が可能だ。
ロイとセシルは言われた通り洗濯物を干しだした。洋服を干しながらロイが口を開く。
「なぁ、セシル。俺たちこれから大丈夫かな」
手にした洗濯物を見つめながらロイは憂鬱そうにしている。
「大丈夫って…仕事の事?」
「仕事もだし…この街でちゃんと生きていけるのかなって、なんか急に不安になってきてさ」
ロイは心細そうに本心を口にする。だが、セシルはきょとんとした顔をした後で微笑みをこぼした。
「フフッ、ニートになるんじゃなかったの?」
「うっ!それはぁ…」
核心を突かれ徐々に言葉が切れていくロイ。
「ロイも心配するんだね」
「し、仕方ないだろ!?島出るの初めてなんだから!」
セシルからの言葉にロイは赤面しながら反論した。
「一度も島から出た事無いんだぞ?俺だって心配の一つや二つするわ失礼な!」
「アハハッごめんごめんっ」
ロイはプンスカと冗談混じりで腹を立てた様子で、ポカポカとセシルを叩くフリをした。そんな彼をセシルは笑いながら宥めた。
「でもさまだ始まったばかりだし、何かが起こる前からそんなに考えこまなくてもいいんじゃない?それにもし何かあったとしても大丈夫だよ。ロイには僕がいるから」
洗濯物を干し進めながらセシルはロイに語りかけた。最後に優しく微笑む彼の瞳はとても儚く美麗であった。
「あ、あぁありがとう…」
セシルの最後の表現に照れたロイは、その温かい眼差しから目を逸らし動揺を隠せずにいる。いやもう何なんだこの二人は。絆が凄すぎるぞ。
「…ん?あれ待てよ…?」
しかしロイはふと思い返して考える。
「俺…もうすでに色々あったな」
ロイはじとーっとセシルを見ながら自分の額やみぞおちを強調する。
「あ、そうだね…ごめん…」
しまった事をしたとセシルも気重に謝った。
「まあでもセシルの言う通り、あんまり考えてもしょうがないか、やるしかないんだもんな」
セシルの励ましに勇気づけられたロイは、気持ちを切り替えて少し前を向く事ができたようだ。
「うん、一緒に頑張ろう」
ロイが普段通りに戻りホッとしたセシルは、安らぎある顔で元気づけた。
───── キッチン
ロイとセシルが裏庭へ出た後、ペリーは紅茶を淹れる為に湯沸かしでお湯を沸かそうとコンロに火を付けた。そして湯沸かしを眺めたまま、一人のはずのペリーは誰かに対して喋り出した。
「そろそろこっちへ来たら?…ララ」
キッチンに入らず影に隠れていたララがドキッと驚いた。どうやらロイとセシルが居た時から身を潜めていたらしい。
「店長、気づいてたの?」
ララは恐る恐るにゆっくりと姿を現した。居た堪れない相形で彼女はペリーに尋ねる。
「まあね」
ペリーは北叟笑む。ペリーの一言を聞いてララは随分恥ずかしそうだ。そんなララを見かねてペリーは口を開く。
「あ、ララちゃんも紅茶飲むー?」
ティーバッグの入ったカップを持ちながらペリーは軽く首を傾けた。
「ううん…私は大丈夫」
「あら残念」
ララはペリーから目を逸らし暗い表情で俯く。ペリーはそう返ってくると分かっていたかのような態度で応答した。
しばらくして湯沸かしのお湯が沸き上がった。ペリーは沸いたお湯をカップへ注ぐ。段々と湯が飴色に変わる時、彼はゆるりとララの方を向いて一言発した。
「洗濯物」
「え?」
壁にもたれながら深く考え込んでいたララは我に返った。
「ロイ達だけじゃ心配だからさ。ララちょっと様子見てきてくれる?」
「…!」
ララは率直に驚く。どうしてこの人は私の考えている事が分かるのだろう。そう彼女は感嘆と不可思議さを感じた。二の足を踏んでいるララに最後のひと押しとしてペリーはこう促す。
「ついでに話したい事話しておいで」
「…うん」
ペリーの後押しに腹を据えたララは、ロイとセシルの元へ向かった。
───── 裏庭
ララは言われた通りに裏庭へ出ると、ロイとセシルは話しながら洗濯物を干していた。意を決してララは二人の側へ歩み寄り声をかけた。
「あっあの…!」
「ララさん!おはようございます」
「お、おはよう、ございます…」
セシルはララに気が付くと笑顔を浮かべ挨拶をした。恥じらいながらもララはそれに返事をする。
「その…手伝ってもいい…?」
ララは思い切ってロイに話しかけるが、彼女を見ることもなくロイはそっぽを向いて聞き流した。相手にされず悲しい表情をするララにセシルは頼みを受け入れた。
「お願いします」
「…うんっ」
ララは表情を少しだけ明るくすると、セシルから洋服を受け取りロイの隣で洗濯物を干した。そして心強く再度会話を試みる。
「あの…この前はごめんなさい」
ララは持っていた洗濯物をじっと見つめながらロイに謝罪した。しかしロイからの返事はなく数秒時が経った。ララが恥ながらわずかに目を潤ませ諦めかけていると、突如ロイは口を開いた。
「この前って?」
「!」
ララはロイが口を聞いてくれた事に動揺と喜びを感じながら、パッとロイの方へ顔を向けた。
「えと!ドライヤー!…ぶつけちゃった事と、あなたが謝ろうとしてくれてたのに話を聞こうとしなかった事……本当にごめんなさい」
「…」
思ったままの事を素直に言葉にしたララにロイは少々考えて発言する。
「…ドライヤーは人に投げちゃダメだぞ」
「…っ!」
「俺も…ムキになって悪かった、ごめん」
ロイは謝罪と同時に照れくさそうにララの方を向く。ここでようやく二人の視線が交わった。ロイの言葉を聞いてララの表情は晴れ晴れとした面持ちに変わった。
「ううん、いいの!私が悪いんだし…!」
ララは頬を赤く染めると両の手のひらを正面に向け、素早く左右に振りながら否定した。
「い、痛かったよねほんとごめんね!」
「超痛かった」
「え、今も痛い…?」
「痛い。頭クラクラする。もう何もできん」
「…いやさっきまで元気だったの知ってるよ」
「なんで知ってるんだよー…ははーん。さてはこっそり聞き耳立ててたな?」「そ、そんな事ないし!」などとロイとララが会話を続けている中、セシルは二人を見て安らいだ面差しで微笑んでいた。
まもなくすると、ララがチラチラと横目にしながらセシルへ話をかけた。
「あ、そうだ…あとね、敬語じゃなくていいよ…私たち同い年だし…」
組んだ手をもじもじさせて、ポッと頬を染めているララを構わずロイは会話に加わってくる。
「え、同い年?15なん…?」
「うん。だからその…呼び捨てで大丈夫…」
ララは紅潮したまま上目遣いでセシルを確認した。
「同い年なんだ!嬉しいな。でもいきなりはあれだから…慣れるまで"ララちゃん"でもいいですか?」
自身の名前にちゃんを付けて呼ばれた瞬間、ララの瞳に映るセシルはより一層強く輝くオーラを放った。一段と格好良く映るセシルを認識したララは、色づく頬をさらに赤面させた。
「う、うん!いいです良いです!」
ララは危うく思考が停止するところであったが、どうにか会話を続ける事ができた。セシルがありがと〜と感謝を口にしているが、もはやララには聞こえてはいない。
(ララちゃん呼びやばい!!)
ララは興奮をなんとか隠しながら悶えている。しかし完全には隠しきれておらず、ロイからは冷ややかな視線が送られていた。
「へぇー。タメだったのか、見えないな」
ロイは今一度洗濯物に取り掛かり会話を継続する。
「ん?それどういう意味…」
再度ロイの方へ顔を向けたララは言葉を止めた。彼女はロイの持っている物をじっと見つめフリーズしている。そんなララの様子に気づかずにあまりよろしくない発言を彼はしてしまうのである。
「年下だと思ってたわ、中身子どもっぽいし」
ロイはぼんやりした顔で平然と失礼な発言をする。決して馬鹿にしている訳ではなく本心での言葉なので厄介である。だがその不躾な発言はララの耳には届いていなかった。なぜなら彼女は違う何かに青筋を立て感情を露わにしていたからだ。
「あんた…それ…」
「え?」
ララはロイを睨みつけながら、彼の手にする物を指で差す。
「私の…パ、パ…」
ララの挙動にロイはようやく自分の手にしている物が何なのか理解した。目を奪われるような純白の夢。それはララの下着、いわゆるパンティーであった。
「…はっ!」
ロイはハッと息を呑んだがもう遅かった。
「最低ーー!」
ララは手近にあった洗濯物のタオルをロイに投げ飛ばした。タオルが勢い落とさずにバサッとロイの顔のみを覆うと、全員は微動だにせずそのまま立ち尽くした。
・・・。
「ご、ごめんって!返すから!」
ロイは顔を覆ったタオルを慌てて剥がし、ララへ下着を差し出す。
「なによ…やっぱ変態じゃない!!」
しかしララはすぐには受け取らずロイを罵倒した。
「はぁ!?違うって!気付かなかっただけだし!お前のパンツなんか興味ないわ!」
彼女の謗り言に憤慨したロイはララに向かって下着を放り投げる。
「ちょ、普通に渡してよね!もー!」
急いで投げられた下着を掴み取ると、ララは怒りの感情を昂らせた。そんなご立腹の彼女を気遣ってセシルが様子を伺おうと彼女へ声を掛ける。
「ララちゃん、大丈夫…?」
「わーー!セシル君は見ないでー!」
セシルに呼び掛けられたララは、一瞬青褪めた顔をしてから早急に手の中にある自身の下着を見えぬように隠した。しかし安心してほしい。幸いにもセシルは、ロイが手にしていた時もそれを視認しておらず、二人が言い争っているのも何が起きたのか分かってはいなかったのだ。
「…?」
なので今もこうして不思議そうな顔で疑問符を浮かべている。よってララの尊厳は守られたのでセーフである。心惹かれている人に自らのパンティーを目撃されるなど、愧死するのではないかと思うほど恥ずかしいだろう。目視されず本当に良かった。
───── キッチン
そして、外から耳に入るロイ達の会話を聞きながらペリーは紅茶を一口飲み、うんうんと頷いていた。
ティリリリリリンッ
そこへ店の電話がベルを鳴らし始める。ペリーは時を移さず反応した。
「あ、電話だ。リーズー…は買い出しか。しょうがない、僕が出ますよー」
一度リーズを呼びかけるが、彼女が外出しているのを思い出し自らが応対する事を決める。トットットッと軽足で電話へ駆けつけると、ペリーは丁寧に受話器を取った。
「お電話ありがとーございます。なんでも屋ペリーズでーす」
自然体の慣れた口調でペリーは応答する。
「はい、はい、あ〜なるほどなるほど…」
相槌を打ちながら、電話横にあるメモ用紙に通話相手の要件を書き留めていく。
しばらく電話の相手とやり取りをしている最中、ロイ、セシル、ララの三人が勝手口のドアを開け裏庭から戻ってきた。
「ていうか見られたくないなら一緒に洗濯するなよな〜」
「あんたが干すなんて思わないでしょ?仕方ないじゃないっ」
ロイとララはまだ揉めていた。勝手口が開くなり、言い争いの声がガミガミと耳に伝わる。二人を落ち着かせようとセシルは後方でまあまあと宥めているが、内心たじろいでいるのが見て取れる。
「はーい、ではまた明日よろしくお願いしまーす。失礼しまーす!」
───── ガチャッ
ペリーはそう言って受話器を置きキッチンへ戻ると、ロイ達に気付くや否や口を挟んだ。
「おっちょうどよかった。ロイとセシル〜」
ペリーは両方の白衣のポケットに手を入れながら、ロイとセシルを指名した。それまでぐちぐちと言い争っていたロイとララは、ペリーの一声で小競り合いを中断した。
「ん?何ですか?」
ララとの口論が嘘だったかのように、ケロッとしてロイは答える。
そしてペリーは首を少し傾けて妖艶に笑いこう答えた。
「初仕事だよ」




