第2話 面接
「「…え?」」
ペリーの言葉を耳にしたロイとセシルは一瞬頭が真っ白になると反射的に声が出た。
「え、あの…今なんて…?」
思いがけない発言に気が動転しながらもロイは声を振り絞る。
「人は殺せるのかって聞いたんだ」
ペリーは表情を変えずに同じ科白を繰り返した。
「「!?」」
二人はようやく言われた事を理解し驚愕する。
(この人…何言ってるんだ…?)
突然の予期せぬ出来事にロイとセシルは非常に当惑している。驚いた表情の二人を余所にペリーは淡々と話を続けた。
「さっき、ほぼ家事代行しか依頼がないって言ったでしょ?でもねその依頼も多くはないんだ。だから "そういう" 仕事もしないと食べていけないんだよね」
今までの口調のまま悪気無く話すペリー。
「そういう仕事って…」
セシルが険しい顔で問いただす。それに対してペリーは微笑を浮かべはっきりと答えた。
「うん、いわゆる裏稼業」
「「…」」
「最初は軽めの犯罪からだけどね。ゆくゆくは殺しもお願いしたいんだけど、どう?できそう?」
世間話でもしている風にペラペラと流暢に話すペリー。彼は目を細めニコニコしながら平然ともう一度二人に訊ねる。
「…それ本気で言ってます?」
ロイは湧き上がる怒りを内に抑えながら渋面で言い放った。
「もちろん」
やはり悪怯れる様子のないペリーはニコリと笑った。
「できるわけないでしょ…!」
ロイは声を張り上げ異議を唱える。それにセシルも首を縦に振り強く頷いた。
ロイとセシルの反応に、ペリーはフッと口角を上げる。
「…ん〜そっかそっか、うん普通そうだよね〜」
ペリーは右腕をゆっくり上げその手を後頭部へ持っていき軽く頭を掻く。もう片方の手は白衣のポケットに入れると、おもむろに席を立ち上がり歩きながら口を開いた。
「じゃあしょうがないけど…」
ペリーは後頭部を掻く手を止め、それを下に降ろすと首筋を覆った。続いて歩みを停止させるとロイとセシルの方へ顔を向け言い放つ。
「消えてもらおうか」
「「……!?」」
まるで喜ばしいことでもあったかのような清々しい満面の笑みで、ペリーは信じがたい言葉を告げた。
「ごめんね?首を縦に振ってくれたらこんな事言わなかったんだけど…」
微笑を浮かべながら冷然と語るペリーからは勿論申し訳なさなど感じるはずもない。
「事情を知られて生きて帰すわけにはいかないんだ」
口角を上げ不敵な笑みをしている彼の目の奥は笑っていなかった。
「「!!」」
そんな目をしたペリーと視線が交わったロイとセシルは身の危険を感じ矢庭に立ち上がる。殺伐とした静音の空間にガラッと椅子の引いた音が鳴り響いたが、瞬きするより先にペリーは口を切った。
「リーズ、やれ」
「はい、ペリー様」
ペリーは声のトーンを落として女性に指示を出した。女性は返事をするとロイとセシルの方へ向きを変える。
「ロイ様、セシル様申し訳ございません」
様子を伺っている二人に対して頭を下げ謝意を示す女性。しかし、
「消えてください」
謝罪とは裏腹に相対した言動を女性は見せる。言葉を発したと同時に片足を頭上に上げ、下着が見えるのも気にせずかかとを思い切りテーブルに落とした。
ガシャーンッ!!!
「うわあ!!」
ロイとセシルはそれぞれ左右に飛び出し間一髪で攻撃を躱した。
テーブルは真っ二つに壊れ、脚はバラバラになり、紅茶の入っていたティーカップなども全て床に落ち割れてしまった。
「えぇぇ…」
変わり果てたテーブルの姿を見てロイは呟く。予想だにしない出来事にセシルもまた焦燥感に駆られていた。
「リーズを止められたら雇ってあげるよ、まあ無理だと思うけどね」
そう言いながらペリーは再び歩を進め、そのままカウンターの裏へと回り込むと置かれている椅子に腰を下ろした。
「頑張ってね〜」
ペリーはにこやかに手を振り二人へ言い残すと、カウンターに置いてあった雑誌を取り読み始めた。
「いやいや、ちょっと待ってくださ…」
─────ヒュンッ
ロイがペリーの方を向いて話をしようと言葉を発した瞬間、勢いよく何かがロイの顔の前ギリギリで飛んできた。それは先ほど割れたティーカップの破片。リーズと呼ばれる女性が投げたものだった。
一瞬の出来事にロイは動けずにいる。硬直する身体とは対照に心臓の鼓動は確り早くなっていく。大きく目を見開いた彼の面貌にはじわりと汗が流れ落ちた。
「命乞いをしても、無駄です」
冷淡無情に言い放つ女性の目に光は無かった。ただならぬ空気に、本気で自分たちを始末する気なのだとロイは決意を固める。
「ハッ…アハハッ」
恐怖に打ちひしがれて笑い始めるロイ。だがすぐに笑いが治まると顔を伏せて女性の方へと向きを変える。少しの沈黙の後、冷や汗をかきながら闘争心を燃やしニヤリと口角を上げて彼はこう言った。
「…上等だよ!」
鋭くさせた目つきで相手の女性を睨みつける。もうやるしかない。やらなきゃやられるのだ。そう覚悟を決めたロイは力強く拳を握りしめた。
女性に立ち向かおうとするロイの姿を見たセシルは、気後れしながらも足元に転がるバラバラになったテーブルの脚を両手で持ち、剣のように構え抵抗しようとする意思を見せた。
ロイは深く呼吸をすると突として女性の方へ走り出す。走る勢いに身を任せ、そのまま女性に跳び蹴りを仕掛けた。
「…ふっ!!」
───── が、いともたやすく女性は足を使い攻撃を止めてしまった。
「くっ…!」
止められたことによってロイの身体は床へ落ちる。そこを狙い、再びかかと落としをしようと女性は足を上げたが、ロイは即座に気が付き回避し立ち上がった。しかしその後も女性は幾度となく攻撃を繰り返す。一方的に攻められ、避けたりガードする事しかできず手も足も出ない状況の最中、遂にみぞおちに蹴りを入れられロイは後ろに吹き飛ばされた。
「…う゛っっ」
「ロイ!!」
「痛…ってぇ…」
セシルは張り上げた声でロイの名を叫んだ。ロイはあまりの痛さに顔を歪め蹲る事しかできない。女性はロイの状態を見て起き上がらない事を確認すると、そのままセシルへと攻撃を移した。セシルは精一杯抵抗する。
鈍痛で動くことのできないロイは、腹を抱えながらただその様子を眺めることしかできなかった。
(くっそぉ…俺たちこのまま…やられるしかないのか?…)
(あの女も本気だし…どうやったら止められるんだよ…店長も何考えてるか分かんないし、この店やばい…)
(…はぁ…今思えば"なんでも屋"なんて怪しすぎるよな…なんで紹介所で何とも思わなかったんだろ…)
セシルと女性の争闘を見詰めながら、ロイは頭の中で考えを巡らせる。
(なんだよ…"なんでも屋"って…)
そう思いながらロイは虚ろな目でペリーを見た。ペリーはぼーっと雑誌を読んでいる。開いている紙面を読み終えた彼は次のページをめくると、今度はその手で自分の口元を触り始めた。
口元に手を当てるペリーを目にしたロイは、ある情景を思い出す。それはリーズと呼ばれる女性がペリーの口についた紅茶を優しく拭き取った場面。女性がペリーの紅茶にシュガーを入れかき混ぜた場面。女性がペリーの手を取りお手拭きで拭き始めた場面。次々と頭に浮かんでくる光景にロイの中で一つの考えが生まれた。
(はっ…!もしかしたら…!)
思い立ったロイはセシルと女性の様子を確かめる。セシルの抵抗もあり二人の戦闘は続いている。女性がこちらを見ていないことを把握すると、ロイは密かに立ち上がり痛む腹を支えながらある方へ移動した。
女性は必死に抵抗するセシルを制圧している。セシルも奮闘していたが、ここで持っていたテーブルの脚がリーズの蹴りにより吹き飛ばされ手から離れてしまった。
そこを狙いすぐさま女性が止めを刺そうとしたその時。
「待て!!!」
その声で女性は攻撃を止めた。女性の蹴りはセシルに当たる寸前。叫んだのはもちろんロイである。
女性が声のした方向を見ると表情の無かった彼女が初めて目を僅かに見開いた。
「ペリー様…!」
そこには後ろから回り込み左腕で身体を抑え、右手でペリーの首元にティーカップの破片を突き立てているロイの姿があった。だが人質に取られているペリーはその事に気にも止めず涼しい顔で雑誌を読み続けている。
「この人がどうなってもいいのか…!」
威勢の言葉を放つロイの声とその右手は微かに震えていた。
「ロイ…!」
「…」
「…ロイ様、おやめください」
ロイの無謀な所業にセシルは喫驚と憂心の気持ちでロイの名前を呼んだ。ペリーは黙って雑誌を見つめ、女性はロイを落ち着かせようと冷静に宥めた。
「だったら!俺たちを解放してください…!」
一心不乱にロイは思いの丈を唱える。その表情には恐怖と怒りと不安が入り混じっていた。
「…」
リーズはまたも真面目な顔つきで黙り込んでしまった。
ロイは女性とじっと目を合わせながら思いを凝らす。
(あの感じからして、女は店長に相当な忠誠心がある…これなら要求に応じるはず…)
(さあ、どう出る…?)
ロイは真剣に考えながら女性を睨みつけた。
すると─────。
「フッ…ハハハハッ…!」
今まで口を一文字に結んでいたペリーが高らかに笑い始めた。
「!?」
急に口を開いたペリーに戸惑うロイ。仮にも人質という立場であるのだから、相手を刺激するような言動はしないのが一般的だ。ロイが衝撃を感じるのは至極真っ当である。
ペリーは笑い終えると余裕のある笑みで発言した。
「いいね面白い、合格」
そう言うとペリーは後ろにいるロイの方へ顔を向け、端正なルックスが際立つ妖しい面立ちで綻んだ。
「君たち、採用」
「……へ?」
ロイは思考が停止した。
───── 店内には夕方の日差しが差し込んでいる。
「ごめんごめん、驚かせちゃったよね〜」
ペリーは右手を頭の後ろに回し、きまりが悪そうに詫びた。
「いやまじで死ぬかと思った…!!」
「終わったと思いました…」
腹から声を出してロイは心境を吐き出し、セシルは疲れ切ったように不平を漏らした。
ロイとセシルはカウンターの前に座り気が滅入った様子だ。ペリーはカウンターの裏にもたれかかり、女性はその横で背筋を正し起立している。
「言ったでしょ?リーズを止められたら雇ってあげるって」
「あの状況で信じるわけないでしょ!揶揄われてると思ったわ!」
ペリーの信じ難い主張にロイはしっかりと厳しく指摘した。
「リーズさんも本気で襲ってくるし!」
怒りのままに本音をぶち撒けるロイの耳に、またしても愕きの一言が飛び込んでくる。
「え?本気じゃないよね?」
「はい、3割ほどの力を出させていただきました」
((あれで3割…))
ロイとセシルは彼女の発言に驚き二の句が告げなかった。
「ロイ様セシル様、恐ろしい思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。ロイ様には痛い思いまでさせてしまい…謝っても謝りきれません」
女性は深々と頭を下げながら謝罪した。
「あ〜大丈夫です!今も吐きそうだけど全然気にしないでください!」
ロイは口元と蹴られた腹を押さえながらニコニコと明るく答えた。吐き出しそうなロイへペリーはどこから出したか分からないエチケット袋をサッと微笑んで差し出す。女性はそれを心配そうに見守っていた。
そんな中セシルが苦しげに切り出す。
「でも…本当…凄く恐かったな…生きた心地がしなかったです」
少々微笑んではいるが晴れない表情のセシルは、誰とも目を合わせずに複雑そうだった。
「うんちょっとやりすぎちゃったね、申し訳ない」
そんなセシルの言葉を聞いたペリーは、真剣な目で反省し謝罪した。だがまだセシルはすっきりしない顔である。
「いやマジですよ。やりすぎっす。こんなの俺たち一生トラウマですからね?正直今あなた達の信用ゼロなんで。雇われるのも本当に大丈夫なのかって感じっすよ。まじで責任取ってほしいっす」
感情が爆発しつらつらと饒舌に捲し立てるロイ。
「はい!本当にすみませんでした!雇わせてください!」
女性と一緒にハキハキと土下座で謝罪をした後、もうやらないから許して許して…と縮こまり、ロイにくっつきながらペリーは懇願した。
「確認ですけど違法な店じゃないですよね?」
不信の視線でジロッとペリーをねめつけるロイ。
「うん大丈夫、合法合法〜。ね〜?リーズ〜」
「はい、合法でございます」
ペリーは女性に話を振ると、女性も調子を合わせて答えた。二人はなぜだかふわふわした雰囲気である。
(合法って言い方やめて…!)
ロイは率直に思った。
「いやでもほんとごめんね、ちょっと試したくなっちゃってさ」
ペリーは切り替えてもう一度謝罪し語り出す。
「試すって…俺たち一体何を試されたんですか」
「んー、人として大切なものがあるか…かな?」
「大切なもの…?」
セシルが気遣わしげな表情で呟いた。
「うん、嘘でも人を殺せるなんて言う子、信頼できないからね」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
ロイの辛辣な発言は特大ブーメランとしてペリーの胸に突き刺さった。
「うっ…!」
ダメージを受けたペリーの背中を女性が優しく摩っているが、そんな事には鼻にもかけずロイはありのままの気持ちを伝えた。
「でもあれはほんとに、この人頭おかしいのかなって思いました」
「…ロイは素直だね…。でもリーズに立ち向かったのはびっくりしたよ…」
正論を突かれ意気消沈しているがペリーは何とか会話を続ける。
「あの時は…本気で殺されると思ったから…やるしかないって勝手に体が動きました」
「そうか。素晴らしい事だけど、これからは少しだけ冷静になろうね…本物の悪人だったらさ、本当にやられちゃうから」
「…き、気をつけます」
(なんで俺怒られてんの?)という感情と、(まあでも確かにな…)という感情を抱いたが、それは口には出さなかった。
「でもどうやってリーズを止めるのかと思ってたら、まさか僕を人質にするんだもんな〜」
「…リーズさんが店長の事を凄く慕ってそうに見えたから、店長が危険な目にあってたらやめてくれるかなと…」
ロイは女性へチラチラと視線を向けながら気恥ずかしそうに答えた。
「うん、短時間でよく分かったね、良い観察力だ」
(…いやあれは誰でも分かると思うけどなぁ…)
ロイは喉まで出かかった言葉をグッと堪え飲み込み内心に留めた。
「それとセシルの身のこなしは大したものだね、手加減してたとはいえリーズと互角に戦うなんて」
「うん俺もびっくりした!」
思わぬペリーの評価にセシルは動揺を隠せない。
「…僕もとにかくなんとかしなきゃって必死だっただけです…誰かと戦うなんて初めてだったし…」
沈んだ表情のセシルは案の定嬉しいとは思っていない。
「へぇ、初めてであれだけできるってことはセシルにはきっと剣術の才能があると思うよ」
ペリーはセシルを真っ直ぐ見つめた。
「え、いやいやそんな…」
セシルは謙虚に否定し沈黙する。絶えず浮かない顔のセシルをロイは気がかりに見つめた。
そんなセシルの感情を察して、ペリーは俯く彼の手を両手で包み込むと顔を近づけ真意を伝えた。
「セシル、ごめん。やっていい事と悪い事があるよね。本当に申し訳なかったと思ってる。どうか許してほしい」
接近する眉目秀麗なペリーの顔立ちに思わず恥ずかしくなったセシルは、頬を微々に赤らめるとペリーから目を逸らした。
「…は、はい。もう大丈夫です…」
「ほんと!?」
謝罪を受け入れてもらえた事に喜びを隠せないペリーは、さらにセシルとの間合いを詰める。
「あ、あんまり近寄らないでください」
「えっ…」
許しを得たと思った矢先、即座に拒絶されたペリーはすぐに自信を失った。
(近いと緊張する…)
そんな事をセシルが思っているとはつゆ知らず、「やっぱりまだ嫌われてるんだ…」とぼやくペリーに女性はそっと寄り添うと無言で彼の頭を撫でていた。
その様子にロイは(え?え?)と一人困惑していると、ペリーが悲しみながらも新しい質問を投げかけた、
「あ、そういえば…君たち泊まる所はもう決まったのかい?」
「?、いえこれから探すところです」
ロイは不思議がるがそのままを答える。
「ならちょうど良かった、上の部屋が余っていてね、住み込みで働くのはどうかな?」
それを聞いたロイとセシル二人の表情は、憂鬱から曇りが取り除かれ輝きを取り戻した。
「え!いいんですか!!」
「迷惑じゃなければぜひ…!」
ロイは前のめりに、セシルは遠慮気味にペリーの提案に賛同した。
「いいね〜じゃあ決まり。流石に食事はつけてあげられなくてさ、自分たちで用意してもらう事になるけど…いいかな?」
「いや全然大丈夫です!住むところ用意してもらってるのに食事までお世話になれないですよ!な、セシル!」
「うん、贅沢すぎるよね…」
ロイのテンションに圧倒されながらセシルは控えめに笑顔を作った。
「そう言ってもらえて良かった〜」
二人の胸中を聞いて安心したペリーは、再度自己紹介をする。
「ではでは、これからよろしくね。改めまして僕が店長のペリーで、こっちは僕の助手のリーズだよ」
ペリーは手のひらで隣に立っている女性を指し示すと、女性は口を開いた。
「リーズと申します。ロイ様セシル様これからよろしくお願いいたします」
彼女の名前はリーズ。なんでも屋『ペリーズ』の店長の助手として、日々ペリーを支えている。傍から見ればペリーの事を大いに敬服しているようだが、彼女の胸の内は誰も知る由もないのである。
「あ、よろしくお願いします…!」
「……よろしくお願いします!」
多少タイミングはずれたが、ほぼ同時に二人は返事を返し軽く頭を下げた。
((助手だったんだ…))
頭を上げると二人は同じことを考えリーズを見つめた。
「気づいてると思うけどこの店は僕らの名前を合わせてつけたんだよ〜」
「…え?」
突拍子もない発言に反応出来ずにいると、そのままペリーとリーズは何やら姿勢をとりスタンバイし始め、高らかに声を張り上げた。
「アイムペリー!」
「アイムリーズ」
「二人合わせて!」
「「ウィーアーペリーズ!」」
「お困り事は当店に〜お任せあれ!」
ペリーとリーズはバァンッと得意げにポーズを決めて見せたが、ロイはしらけ顔で二人を眺めている。セシルもなんとか状況を理解しようと試みたが、苦笑いしか出てこなかった。
「え、いきなり何ですか…」
ロイとセシルの二人は対応に困っている。
「うちの決め台詞にしようと思ってさ〜、君たちにも使ってほしいんだ〜」
達成感に満ちた清々しい笑顔のペリー。
「絶対嫌です。やめた方がいいですよ、お客さん減りますよ。ていうかその台詞、店長とリーズさん限定じゃないですか。俺たち使えないでしょ」
満足げなペリーにロイは辛辣な言葉を投げる。相当お気に召さなかったようだ。
「そんなにダメ…?」
指を咥えながらペリーは悲しそうに聞く。しかしロイの答えは変わらない。
「ダメ」
「…ぐすん」
ロイに強く言われペリーは完全に心が折れてしまった。そんなペリーの頭をリーズはもう一度優しく撫でた。
───── 数分後。
「…じゃ、あとはリーズから色々説明があるから。僕は心に傷を負ったので先に休ませてもらいます…」
ペリーはそう言ってトボトボと奥へ歩いて行った。
(え〜!そんなに傷ついた!?)
背中を丸めながら歩くペリーの後ろ姿を見てロイは僅かに心配した。
「ではロイ様セシル様、ご説明させていただきます」
三人の様子など気にも留めず、リーズは話を切り出した。
「あ、あの、店長は大丈夫ですか…」
「ご安心ください。ペリー様は傷つきやすいですが立ち直りもはやいので気にしなくて大丈夫です」
ペリーへ過保護な対応をしていた彼女が、こうもあっさりしているということは本当にそうなのだろう。
「意外に傷つきやすいんですね…」
「発言には気をつけよ…」
正直毎度毎度ああなられては困るので、ロイとセシルは強い言葉を使わないよう注意しようと胸に誓った。
「ではお部屋へご案内します、こちらへどうぞ」
リーズに連れられ二人は2階へと続く階段を上がっていく。
階段を上がり終わると廊下は二手に分かれていた。リーズは先に奥から説明をし始めた。
「こちらの方にお手洗い、洗面、浴室がございます」
次にもう一方の説明へ。そこには扉が3枚並んでいる。
「この二部屋がお二人のお部屋になります」
リーズは奥の扉二枚を差し紹介した。リーズの説明にロイは信じられないような顔をして聞いてくる。
「一人一部屋なんですか!」
一人に対し一つの部屋という事に衝撃を受けたようだ。住み込みである以上贅沢などできない。相部屋などは至極当然、一人に一部屋ある方が珍しい。ロイの反応は妥当である。
「はい、よろしいでしょうか?」
「よろしいです!!」
ロイは当然元気に答えた。
「中の広さや家具はどちらも同じでございます。お好きな方をお選びください」
「ロイ好きな方選んでいいよ?」
即座にセシルがロイに委ねた。
「え、いいのか?」
「うん、僕どちらでも大丈夫だから」
「じゃあ俺奥がいいな!」
「うん、なら僕は真ん中だね」
「いぇーい!セシルありがと!」
ロイにお礼を言われたセシルの微笑みはとても優しく幸せそうだ。そして2人の様子をまじまじと見ていたリーズが口を開いた。
「本日はお疲れと思いますのでごゆっくりお過ごしください。お風呂などもご自由に使って結構ですので。また明日からよろしくお願いします」
「はい!ありがとうございます」
「では失礼いたします」
そう言うとリーズは階段を降りて行った。
「…んーーっ!にしても今日は疲れたー!」
両手を上に伸ばしうんと背伸びをしながらロイは声を発した。
「そうだね、今日はもう早く休もっか」
セシルも笑みを浮かべるも疲れた表情だ。
「セシル風呂どうする?先に入るか?」
「んー、ちょっと一息つきたいからロイお先にどうぞ」
「了解、ササッと入っちゃおー」
「上がったらまた教えて?」
「おっけ!じゃあ後でな〜」
会話を終えて二人は各々の部屋の扉を開け入室した。
「おお〜!」
ロイは部屋に入って感動した。窓際にベッドとデスクが置かれている。部屋はお世辞にも広いとは言えないが、この狭さが心地良さを醸し出している。
「今日からここで暮らすのか〜!うわぁ!なんか楽しくなってきたー!」
ロイはキラキラした表情で独り言ちるが、すぐに表情を改めた。
「あ、いかんいかん。"仕事"をする為に暮らすんだもんな。浮かれてる場合じゃない!」
そう言ってリュックを床におき必要な荷物を取り出した。
「よーし、お風呂入って早く寝よ〜」
ロイは部屋を出てお風呂場へ向かう。
「おふろっおふろ〜」
リズム良く独り言を言いながら向かうロイ。
「あ〜もうヘトヘトだぜ〜。店長もリーズさんもやりすぎだよほんと」
「めっちゃ汗かいたもんな〜シャワー浴びてスッキリするぞ〜」
ロイは洗面室の前まで来ると、閉まっていた洗面室の扉をガラッと開けた。
扉を開けロイは思わず固まった。そこにはロイ達と同世代くらいの女子が立っているではないか。
───── そう。
───── 裸の姿で。
ショートヘアで金色の髪の彼女は、素っ裸の状態にタオルを頭にかけ髪を拭いていた様で、今はその手は止まっている。タオルで大きな胸は隠れ、下は湯煙で目視できないがまあ裸と言う事は分かる。
二人は予想外の出来事に思考が停止し、お互いに数秒時が止まった。そして理解が追いついた時ほぼ同時に悲鳴をあげた。
「キ…キャーーーーー!!!!」
「わーーーーーーーー!!!!」
裸女子は体を隠しながら声を振り絞り叫んだ。ロイも顔を手のひらで隠しながら叫んだ。
「ごめんなさいごめんなさい!ほんとごめんなさ…」
ロイは顔を覆い目を瞑ったまま何度も謝ったが、
「出てってーーー!」
ゴンッッッ!!
遅かった。ロイの額には彼女が投げ飛ばしたドライヤーがクリーンヒット。
痛みを感じる前に天井が視界に入ってきた。
(はぁ……もう……)
ドライヤーが当たった勢いでロイはそのまま後ろへゆっくりと倒れ込み、視界は徐々にぼやけ、
(今日は一体…なんなんだよ……)
目の前が真っ暗になった。




