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Profession!  作者: 如月ニコ
2/7

第1話 旅立ち

 

 光が眩しい空間に二人の子どもが向き合って座っている。一人は黒い髪、一人は赤い髪で歳は5、6くらいと言ったところだろう。顔ははっきりとは見えないが、楽しそうに会話しているのが分かる。

 不意に赤い髪色をした子どもが黒髪の子どもに問いかける。

 「ねえねえ!…ロイくんは将来何になりたい?」

 その子どもは明るい声色で無邪気に質問した。この質問をされたもう一人の子どもは待ってましたと言わんばかりに元気良く答える。

 「んーーっとね!」

 黒髪の子どもの口元はにこやかに口角が上がっていた。

 「お医者さん、学校の先生、漫画家さん、ケーキ屋さん、お花屋さん、消防士さんにパン屋さん!他にもたっくさんやりたい!!」

 

 彼がそう答えると、光はさらに眩しさを増し二人は包み込まれるように見えなくなってしまった。



 

───── 少年は小鳥のさえずりで目を覚ます。


 「…夢か」

 壁も床も天井も全て木で作られた六畳ほどの部屋で少年は独言した。丸太でできた一人用のベッドの上に、少年は片腕を頭上へ上げながらぼんやりした顔で天井を見上げている。少年は目覚めてすぐ、先ほどの子ども達の会話が自分の夢であったことを理解したようだ。そして同時に、嬉しそうになりたい職業を語っていた子どもは過去の自分だったことを思い出した。


 「そんな時期もあったな…」

 少年はぼそっと呟くと気怠げにベッドから起き立ち上がった。ゆっくりと足を動かし床に置いていたリュックを持つとドアを開け部屋を後にした。



 ─────身支度を終えた少年は家の外へ出ると、敷地にある畑をクワで耕し始めていた。


 暖かい陽気の中、心地良い風が吹くこの場所は、オクフー大陸にあるディマーク(こく)のライムギ(とう)

 人口は決して多くない。自然豊かで一年を通して気候が安定している為作物が育てやすく、ほとんどの島民は作物を自給自足している。

 

 少年が無心で耕していると、家である丸太小屋のドアが開き女性が出てきて話しかける。

 「ロイ~、そろそろ時間よー?」

 腰くらいまであるだろう黒い髪を一つで横に結びエプロン姿で出てきた彼女は少年の母親の「ユラ」である。

 「え?もうそんな時間?」

 少年は驚き畑を耕していた手を止めた。

 少年の名前は「ロイ」。歳は15。母親と似た黒髪は無造作で襟足まで伸びている。左目の目尻下には星形のようなほくろがある。白いTシャツに首には青いバンダナを巻き、ジーンズのオーバーオールは左肩にだけかけて着ている。

 「うんもうそんな時間。あと10分くらいで船出ちゃう時間~」

 「え、待って?ここから船場(ふなば)まで10分かかるの知ってるよね?え?なんでもっと早く教えてくれないの?」

 「あら、そうなの?でも走れば間に合うわよ~」

 ロイは早口でユラを問い詰める。ユラは自身の頬に片手を当てながら、大丈夫、大丈夫ーと焦るロイを気にもせずマイペースだ。しかしすぐに彼女は自身の意思を伝えた。

 「というかなんで母さんが時間教えてくれるって思ってるの~?これから島を出るんだからそれくらい自分で把握しなさい?いつまでも甘えられちゃ困るわよ?」

 ユラは問い詰めたロイにつらつらと説き聞かせた。笑顔で話しているが少し殺気なるものを感じる気がする。とにかく圧が凄い。

 「はい、すいません…」

 その殺気に圧倒されロイはすかさず謝った。ユラは普段穏やかなのだが、たまに恐さが垣間見えることがあるのだ。だがこれがこの親子の日常らしい。


 ロイは切り替えて話題を変える。

 「じゃあとりあえずこれだけ終わらせちゃうから!」

 ロイはそう言うと、持っていたクワを両手で思いっきり縦に回すように投げた。クワは回転しながら畑を耕していく。先ほどよりも綺麗に土がすくい上げられ、全て耕し終わるとクワは地面に突き刺さり止まった。

 と思えば今度は作物の苗を20本ほど抱きかかえ、力を溜めながら独楽(こま)のようにぐるぐる回り始めた。

 「…っうりゃあ!」

 思い切り力を溜めた両腕を上に開くと、苗たちは先ほど耕した土へと綺麗に整列して()わった。



 ロイは『農家:アマチュア(レベルアマチュア)』である。


 世界には数えきれないほどの職業があり、それぞれ職種毎に「レベル」というものが割り振られている。「レベル」に関して多様な定義や名称があるのだが、その話しをするのはもう少し先にしよう。



 「最初からこうすればよかった、体力使うから嫌だけど!ユラごめん、あとやっといてくれる?」

 ロイは急いで家の隅に置いてあったリュックを背負い、その場で駆け足をしながらユラに言った。

 「ええ。残りは母さんやっとくから、ロイは早く行きなさい」

 「うん、ありがと。じゃあ行ってくる」

 「ロイ…無理しないでね」

 そう言ってユラは不安そうな顔をしながらロイの頭を撫でた。

 「いってらっしゃい…」

 「…いってきます!!」

 ロイは照れながらも大きな声で挨拶をし、船場まで走って向かって行った。


 段々と遠くなっていくロイの後ろ姿を見ながら、

 「気をつけてね、ロイ…」

 悲しげな声で気遣わしげにユラは呟いた。



───── 乗船場(じょうせんじょう)

 船が出発するまで残り1分のところで走るロイの姿が現れた。

 乗り場で待っていた一人の赤髪の少年が走るロイに気がつく。

 「あ、ロイー!こっちだよー!」

 赤髪の少年は大きく手を振りながらロイを呼んだ。

 「セシル―!ごめんな、待たせてー!」

 ロイも手を振り返しながら少年に向かって走っていく。


 ボーーーッ

 ここで船の出航の合図の汽笛(きてき)が鳴り始めた。

 「あ、待って待って!」

 ロイは慌ててスピードを上げる。赤髪の少年は船へ乗り込む一歩手前でロイを待ち呼び上げた。

 「ロイ、行くよ!」

 「おお!」

 赤い髪の少年の元へロイが到着し横に並ぶと、二人は掛け声を合わせた。

 『せーのっっ!!』

 ロイとその少年は一緒に勢いよく船へ飛び乗り、無事に島を出発できた。



 二人が乗った船は汽笛を鳴らしながらゆっくりと動き出した。

 「はあーー危なかったーー!」

 ロイは船に飛び乗ると走って来た疲労でそのまま立ち止まった。両手を両膝に当て下を向きながら息を切らした。

 「ロイ、大丈夫?」

 赤髪の少年は心配してロイの顔を覗き込む。

 「あ、あぁ大丈夫大丈夫、ハハハハハ…」

 そう述べたロイの足はもうフラフラだ。赤髪の少年もロイの心情を汲み取って、同じようにアハハ…と作り笑った。

 「フフッ、ロイ寝坊でもしたの?」

 赤い髪の少年は優しい顔で微笑みながらロイに質問をする。

 「違うって、最後に畑仕事手伝ってたら遅刻したんだよー」

 「アハハッ、ロイらしいね」

 ロイの話を笑顔で楽しそうに聞くこの赤髪の少年の名は「セシル」。ロイと同じく歳は15歳。美しい赤髪と顔立ちが特徴的だ。その赤髪は肩くらいの長さで前髪は斜めにカットされている。少し緩めのシャツをボトムスに入れ、バッグは紐を長くし肩から斜めにかけている。ロイとセシルの二人は幼少期からの幼馴染だ。


 二人は場を変えて船のデッキで海を見ながら改めて会話を始めた。

 「着いたら就職活動頑張らないとね」

 セシルが遠くを見つめ言う。

 「そうだなー。あーでもやだなー。働きたくないなー」

 船の手すりにもたれかかりながらロイは項垂れた。

 「うん…。でもしょうがないよ、僕らのいたライムギ島じゃ15になった子どもは島を出ないといけない決まりだから」

 セシルは話しながら浮かない表情を見せた。

 そう。彼らが住んでいたライムギ島では齢15になると、一年以内に島を出なければならないという慣わしが昔からあるのだ。

 「それなんでなんだろうな?まあ俺はあの島から離れたかったからちょうどいいけど」

 ロイは曇った表情で言った。その言葉を聞いたセシルは心苦しそうにロイから目を逸らした。



 「あーーでもほんと働きたくない。かと言って進学する訳じゃなかったから就職を選んだけどあてがあるわけじゃないしなあ。あーあ、だれかニートとして雇ってくれないかなー!」

 ロイは徐々に声のボリュームを上げながら思いの丈を述べた。

 (ニートで雇うって何…?)

 セシルは思ったが口には出さず胸の内にしまい込んだ。

 「それは無理だと思うよ、ロイ…」

 ロイの発言にセシルは少々困り顔だ。

 「でもさ、ロイはなんでもそつなくこなすから色々できると思うけどなあ。手伝いだけで農家のレベルアマチュアになれるなんてすごいよね。15歳でレベル持ってる人なかなかいないよ?」

 セシルは素直にロイの凄さを称賛した。

 「別にすごくないって、たまたまだよ」

 だがロイは即座に否定する。しかし、

 「はいはい、ロイ君はいつも自分を卑下(ひげ)するからね〜」

 セシルはそんなロイの発言もお見通しのようで得意げに笑顔を見せた。

 「…な!」

 図星を突かれ言葉が出なくなってしまったロイ。

 「でもそういうとこ僕は嫌いじゃないよ」

 「なんだよそれ〜」

 セシルにそう言われロイは恥ずかしながらも嬉しそうだった。



 「んーーでも俺やりたい事とかないしなあ。セシルはなんか夢とかある?」

 船の手すりに肘をつきながらロイは聞いた。

 「うん、僕はいつか…人を守る仕事に就きたいと思ってる」

 セシルは遠くの海を眺めながら真剣な目をして答えたが、その顔はどこか悲しそうで夢を語っているようには見えなかった。

 「そっか!昔から言ってたもんなー!俺めっちゃ応援してるから!」

 切ない表情のセシルを見たロイは、励ますように明るい笑顔で振る舞った。

 「ありがとう、頑張るよ」

 セシルは寂しそうに微笑んだ。

 「はあー俺もなにかやりたい事見つかるかなー」

 「大丈夫、いずれきっと見つかるよ」

 「…だな!」

 

───── 2日後の朝、船は港に着いた。

 

 【オクフー大陸(たいりく)/ディマーク(こく)首都(しゅと)コーゲン】


 船から降りると二人は見たことのない景色に驚愕した。目の前には赤や青、黄色といった色とりどりの四、五階建の家屋がずらりと港町に立ち並び、まるで童話の世界に迷い込んだような美しい街並みが広がっている。そして運河沿いには数多くの出店(でみせ)が並び市場が開かれていて、そこにはたくさんの人々が行き交い賑わっていた。


 「…おおおーー!」

 「…わあ〜」

 ロイとセシルは自分達の住んでいた島とは対照的な街並みがキラキラと輝いて見え思いがけず感嘆した。

 「着いたーーー!」

 ロイは高ぶる心に忠実に両手を高く上げ声に出して叫んだ。

 「すげえな、セシル!これが都会か!」

 「うん…人がたくさんだね…!」

 セシルは街路を歩く人々を眺めながら、その多さに圧倒されていた。

 「よっしゃ!早く行こうぜ!」

 ロイは急きたてられるように真っ先に街の方へと走り出す。

 「あ、うん…!」

 はぐれる事がないようセシルはロイの後を急いで追いかけた。



 二人は辺りを見渡しながら人の行き来が盛んな市場を歩いていく。新鮮な果物や野菜を売る八百屋、食用の魚類や海産物を売る魚屋、色鮮やかな切り花を販売している花屋、マグカップやプレート、ポットといった美しい陶磁器が陳列されている食器屋などさまざまな店があり、どれも目新しいロイは周囲の店を見ながらわあ〜と声を漏らした。

 「はっ!ところで…最初はどこに行けばいいんだ?」

 夢中になっていたロイはハッとして、指で頬を掻きながら困惑顔でセシルに尋ねる。それとは対比的にセシルは平然として答えた。

 「まずは職業(しょくぎょう)紹介所(しょうかいじょ)に話を聞きに行こう?宿や食事の確保はその後にできるしね」

 「そうだ職業紹介所!ユラに言われてたの忘れてた」

 ロイは頭の中でユラに言われた事を思い出す。「港に着いたらまず職業紹介所に行って仕事を紹介してもらうのよ」とユラは釘を刺していたようだ。その時のロイは「…しょくぎょーしょーかいじょ?」とさっぱりな様子であった。

 「も〜ロイしっかりしてよ〜」

 「アハハ、ごめんごめん」

 可笑しげにそんな会話をしながら二人は職業紹介所へと向かった。



───── 職業紹介所

 港から離れ人通りがやや落ち着いた場所に、浅緑色のレンガで造られた四角い建物があった。入り口の前には「職業紹介所」の看板が立っている。

 その中でロイとセシルは椅子に腰掛け順を待っていた。


 「お次でお待ちのお客様どうぞー」

 中年の男性受付員が案内の声掛けをする。呼ばれたのはロイとセシルだ。二人は呼ばれた受付員の窓口へ向かう。窓口は五つほど並列して配置されており、事務机を挟んで利用者と受付員が対話できるようになっている。窓口と窓口の間には仕切りである衝立が設置され、利用者の腰掛けはおおよそ二名分は座れるであろう長椅子が設置されていた。

 ロイとセシルは案内のあった窓口の長椅子へ着座すると担当の受付員が問いかける。

 「はい、本日はどのような職種をご希望で?」

 中年男性の受付員は、眠たそうな疲れきった目で二人を見ながら抑揚無く尋ねた。担当する受付員の中年の男性は緩んだカッターシャツを羽織り、首から下げたネームプレートを胸ポケットへ入れている。よくよく見ると男性の下顎にはまばらに無精髭が生えており彼から倦怠を感じるのが分かる。

 「すぐ働けるところはありますか?俺たち働き口を探しに島から出てきてて」

 受付員の問いに対してロイが答えた。

 「島から…?うーん…君たち何歳(いくつ)だい?」

 受付員は腕を組むと片方の手で自分の顎を触りながら眉を顰めた。

 「15だよ」

 「15歳か…なかなか厳しいねえ」

 受付員はロイから年齢を聞くとそのままさらに眉間に(しわ)を寄せた。

 「あの、アルバイトとかも難しいですか?」

 受付員の顔色を上目で見ながらセシルは問いかける。すると受付員は二人の方を真っ直ぐ向き、机の上で手を組むと落ち着いた態度で話を始めた。

 「んーこの街ではね基本的に働き方問わず、18歳から仕事をする事になっているんだ。まあー自分で責任を取れるようにだね。正直15歳で雇ってくれるところなんてそうそう無いんだよ」

 「え…まじで?」

 受付員の思いがけない言葉に、ロイは鳩が豆鉄砲を食ったように驚きあっけにとられた。セシルも多少意表を突かれた顔をした。「うぅそんなぁ…」と落胆しているロイの姿を見るに見かねてセシルが口を開く。

 「で、でも"そうそう無い"と言う事は少しはあるんですよね…?」

 セシルが質問する。それを聞いたロイは泣き出しそうになりながらもうんうんうんと横で頷いた。

 「そうだね、色んな事情の人がいるからゼロではないけど…そういう求人が出るのは年に数回かな。まあ一応調べてみるけどあまり期待しないでよ…?」

 ちょっと待ってな〜と言い残し、受付員は側にあるコンピュータに手を伸ばすと募集がかかっていないか働き口を調べ始めた。



 「「…」」

 ロイとセシルは求人情報を探す受付員の顔を凝視しながらわずかに沈黙する。


 「なあこれ大丈夫かな…俺めっちゃ不安なんだけど」

 居ても立っても居られず、ロイはセシルの服の袖を掴むと体を寄せながら小声で話を切り出した。

 「うん僕も…ダメだったらどうしようね…」

 セシルも周りに配慮し同様に小声で喋り出す。

 「ていうか18からしか働けないってなんで誰も教えてくれなかったんだ!?何か一言あってもいいよな?」

 ロイは感情を抑えられず先程より声のボリュームを上げた。

 「いやもしかしたら誰も知らなかったのかも…就職を選んだの僕らが初めてみたいだから」

 セシルは考えを巡らせながらさりげなくロイに一驚の事実を告げる。

 「え、そうなの?え、なにそれ俺知らない…」

 思わぬ言葉を耳にしたロイは自分の無知さにショックを受けた。

 「でも…ちゃんと下調べしなかった僕たちも悪いよね…」

 セシルは視線を自らの足元へ向け自己省察する。

 「…そうだよな。自分達の事なんだし他人(ひと)のせいにしちゃダメだよな」

 一呼吸置き思い見たロイはセシルに共感し反省した。二人は各々自身らの行動を振り返り猛省すると、自責の念に駆られ、はあ…と切ない溜め息をついた。

 二人が嘆息を漏らしたその時、突として受付員が声を発した。

 「おっ、1つあったぞ──」

 「ほんとですか!!」

 ロイは事務机にダンッと両手をつき前のめりになりながら、受付員の男性が言い終わる前に食い気味に反応した。あまりの応答の早さに受付員は「お、おう…」と戸惑いを見せた。時を移さず男性は本題を切り出す。

 「これだ、アルバイトで募集が出てる」

 受付員は印刷をした求人票を机に置き二人に見せる。ロイとセシルは求人票を覗き込み確認すると声を合わした。


 「「………なんでも屋??」」




───── なんでも屋『ペリーズ』

 ロイとセシルの二人は求人のあったなんでも屋の前に到着した。建物は二階建て、入り口のドアの上にある看板は若干傷がつき劣化しているが「Perries」と赤文字で書かれており、それをまた白と青で囲み強調しているのが分かる。

 ロイは職業紹介所で受け取った求人票を手に持ち見返した。印刷された求人票には店の写真も載っている。白黒でインクも薄れてはいるが、目の前にある店と同じ店だという事が理解できる。

 「なんでも屋ペリーズ…ここだよな」

 ロイとセシルは看板を見上げると同時に息を呑み込んだ。

 「よし入ろう…」

 「うん…」

 そう言ってロイは顔をこわばらせながら店の扉を開き、二人は店へと足を踏み入れた。中は20平米弱ほどの広さで奥にカウンターがあり、隅にはテーブルとチェアが四脚置いてある。店の中は薄暗く人の気配は無い。

 「すみませーん。求人票を見て連絡したものですー」

 「どなたかいらっしゃいませんか?」

 ロイとセシルが順々に呼びかけると、間を置いて店の電気が点き奥の方から女性が姿を現した。すみれ色の長い髪に気品ある美しい顔立ち。髪色とよく似た色のスカートスーツを着用しているが、豊満なボディの為に胸元ははち切れそうだ。

 「こ、こんにちは!あの俺たち面接に来たんですけど…」

 肩に力が入りながらロイは女性へ話しかけた。

 「はい、ロイ様とセシル様ですね。店長を呼んでまいりますので少々お待ちください」

 「はい!お願いします!」

 女性は手を前で重ね合わせながら軽く一礼すると、店主を呼びに再び奥へ戻った。


 「緊張するね…」

 「すでに心臓バクバクよ…」

 ロイは苦い顔で自身の胸に手を当てた。二人が不安に思いながら待っていると、先ほどの女性がすぐに帰ってきた。

 「ペリー様、よろしくお願いいたします」

 女性がそう言うと後から物憂そうな雰囲気の男性が現れた。男性は羽織っている白衣の袖口と、下に穿いているボトムスの裾を捲り上げて着崩している。その黒い髪はウェーブがかかったような蓬髪をしており、左目の下にあるほくろは横に三つ並んでいる。男性の姿を確認したロイとセシルは背筋を正した。


 「ふぁ〜あ、やっときたね〜。ずっと待ってたよ〜」

 男性はあくびをしながら眠たそうにそう口にした。そしてその足取りで、カウンターに置いてあったペンと用紙のついたバインダーを手に取り、隅にあるテーブルへと向かって行く。

 「あっすみません!お待たせしてしまって!」

 「あ〜大丈夫大丈夫、ごめんね気にしないで」

 男性の振る舞いと発言に慌てたセシルはいち早く謝罪をした。しかし男性は事もなげな様子でケロリとし、そのまま背を向けながら手を挙げ気を配った。


 その間に女性は男性よりも先に回りテーブルのチェアを引く。男性がそのチェアに腰掛けるタイミングで頃合いよくチェアを戻し、無事に男性が腰を下ろしたのを確認すると女性は再び奥へと戻って行った。

 「ん、じゃーこっち座ってー」

 男性は手元のバインダーにある資料らしきものから視線を逸らさずに、ロイとセシルに呼びかけ手招きをした。

 「「はいっ」」

 二人は返事をすると急いで席に着いた。


 「あい、じゃあ今から面接始めるね。僕は店長のペリーです、よろしく〜」

 「「よろしくお願いしますっ」」

 男性は軽く自己紹介をすると顔を綻ばせた。ここで初めてロイとセシルの二人は男性と目を合わせる。間近に見ると男性が整った容姿をしている事に気がつく。彼の下まつ毛は長く、並んだ三つのほくろも相まってか神秘的な佇まいを感じさせた。

 男性の名はペリー。ここ、なんでも屋『ペリーズ』の店長である。


 「さてさてぇ、まず名前を教えてくれるかい?」

 ペリーはバインダーとペンを持ちながら、自身の腰掛けているチェアの背もたれに体重を預けた。

 「あ、はい!俺ロイです!」

 「僕はセシルと言います…!」

 「ロイとセシルねー。歳は15って聞いたけどどうして働こうと思ったのか聞いてい?」

 ペリーはバインダーの用紙にメモを取りながら、二人に質問した。

 「えと…俺たち島に住んでたんですけど、そこは昔から15歳になったら島を出ないといけないっていう決まりがあって」

 「そこで進学か就職かを選ぶのですが、僕たちなりに考え就職を選択しました」

 ロイとセシルは交互に経緯を説明する。

 「へぇー、めずらしいね。ちなみになんて島?」

 「ライムギ島です」

 「ライムギ島…うん、聞いた事ない☆」

 ほんの一瞬記憶を辿るも、島の名前に聞き覚えがなかったペリーはにっこりと笑顔を浮かべた。彼の返答にロイとセシルの二人はアハハ…と苦い笑いを見せた。

 「ふーん、そっかあ。でもうちくらいしか求人なかったでしょ?」

 ペリーがまたメモを取り会話を進めた拍子で、先ほどの女性が再度奥から姿を見せた。女性は三人分の紅茶とお手拭きを乗せたトレーを持ちながらこちらへ向かってくる。テーブルまで運ぶとペリー、ロイ、セシルそれぞれの座っている手前に紅茶とお手拭きを置き始めた。自分達の前へ置かれるとロイとセシルは軽く会釈をした。


 「はい、おっしゃる通りで…舐めてました…」

 ロイは半べそをかきながらがくんと頭を下げた。

 「ハハッ、しょうがないよそういう街だから。じゃあ次に仕事内容について説明するね〜」

 ペリーは持っていたペンとバインダーをテーブルへ置き、左足を上にして足を組み膝で両手の指を結ぶと説明を始めた。

 「うちはお客さんから依頼を受けて仕事をする"なんでも屋"。便利屋とか万屋(よろずや)とも言われてるね。名前の通りお客さんから頼まれた事は基本なんでもやるよ」

 「なんでも…ですか?」

 セシルはペリーの発言の気がかりな点を訝る。

 「うん、って言っても家事代行くらいしか依頼はないんだよね〜。たまーーに素行調査とかもやったりするけど」

 そうペリーが説明していると、女性がペリーの紅茶へシュガーを二つ分入れマドラーで優しく混ぜ始めた。女性が混ぜ終えるとペリーが口を開いた。

 「あ、遠慮しないで飲んでね〜」

 ペリーはロイとセシルに紅茶を飲むよう勧めた。

 「あ、いただきます」

 「いただきます」

 「どうぞどうぞ」

 二人は挨拶の言葉を述べると、お手拭きで手を拭き紅茶を飲んだ。

 ペリーも自身の紅茶を飲もうと手を伸ばすと、女性はその手を取りお手拭きで丁寧にペリーの手を拭き始めた。ペリーは慣れた様子で「ん、ありがとー」と呟く。

 女性が拭き終えると、ペリーはティーカップを持ち一気に紅茶を飲み干して「あ〜」と満足げな声を発した。すると今度はペリーの口についた紅茶を女性は手巾でそっと拭き取った。ペリーは当たり前かのように目を瞑りながら拭き取られている。


 (なんか…)

 ロイは紅茶を飲みながら上目で女性とペリーの姿をまじまじと眺めて思った。

 (すっごい尽くされてない…?)

 ロイは唖然とした。セシルもどんな顔をして良いのか分からないような表情をしている。

 「あ、そういえば」

 ペリーが思い出したかのように話し始めた。ロイとセシルはハッとする。

 「ちなみに二人は何か資格とか持ってる?」

 首を傾げながらペリーはロイとセシルへ問う。

 「…僕は特別な資格もレベルも持っていないです…」

 セシルは視線を下へずらしテーブルを見つめながらばつが悪そうに答えた。

 「ふんふん、ロイは?」

 「俺は一応レベルだけ持ってて、農家のレベルアマチュアです。えっと…これがそのカードです」

 ロイはリュックからカードを取り出しペリーに提示した。


 Profession : Farmer

 Level : Amateur

 Name : Roy


 カードにはこのように表記されている。

 「お〜すごいね〜その歳でレベル()ちなんだ」

 ロイにレベルを持っている事を確認したペリーは感心した。

 「いやいやすごくないです」

 称賛を受けたロイは気後れを感じ謙遜する。

 「頼もしいよ。でも資格は無くても全然大丈夫だから気にしないでいいよ。形式上聞いただけなのでね」

 ペリーはそう言ってセシルの方へ視線を向け軽く微笑みかけた。その破顔を見たセシルも安堵し表情を緩めた。

 「じゃあ最後の質問」

 ペリーが切り替えて言葉を発した。ペリーの発言にロイとセシルの二人は疑問を抱き不思議がる。

 ペリーはテーブルに肘を立て、片方の手の平で頬を支えるとこう続けた。





















 「君たち、"(ひと)"は…殺せる?」




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