ジョン・レノン&ポール・マッカートニー
※以前に連載して削除した『ビートルズが好きだ!』からです。2019年8月3日に投稿しました。物語のシーンやジョン・レノン、ミミ叔母さん、ポールの会話は想像で書いたものです。ただし、ミミ叔母さんが回想して語っている言葉は本人による本物の言葉です。歴史的な状況は丁寧に追って書いたつもりです。多少、芳しくない描写不足もありますが、改めて、宜しくお願い致します。
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『ビートルズの夢』
順序よくビートルズの歴史を語るには忍耐力が必要になってくる。膨大なビートルズの情報量から選択をするというのは、過酷な作業で非常にデリケートな問題にもなってきます。
僕の場合、ビートルズ熱が高くて興奮し出し、話があっちこっちに飛躍したり飛んだりして紹介したり説明したりする可能性や恐れが非常に高い(笑)。
例えば、エッセイを始めたばかりなのに、ビートルズの解散の真実を詳しく書き出したら、さすがに読み手は困るでしょう?
実際にそうしたい自分もいるので、こればかりは我慢しなくちゃならないと自制心を持たないといけないよね(笑)。その辺はグッと堪えます。
今回は1957年7月6日から始めます。
もしも、この日が存在しなければ、何も起こらなければ、世界はボンヤリしたままビートルズの不在のまま、世界は闇の中を回り続けてしまう事になっていたかもしれません。
ビートルズがこの世にいない世界。考えただけでも恐ろしい。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーが同じ街に住んでいたというのは、本当に奇跡だ。
音楽というのは選ばれた人と選ばれなかった人の境界線がはっきりとしています。宇宙に選ばれた特別な才能の持ち主だけが音楽を極められるのです。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーは、超が付くほど究極の才能を持つ天才です。その2人がイギリスのリバプールという同じ街に住んでいました。
いやぁ~、ちょっと、これは本当に信じられない話だよねぇ(笑)。同じ街で暮らしていたなんてね(笑)。(後にポールの紹介でジョージ・ハリスンがバンドに加入するわけですが、ジョージ・ハリスンも凄い天才なんです。時間を置いてリンゴ・スターもドラマーとしてバンドに加入するのですが、リンゴ・スターも天才なんですよ。
ジョンもポールもジョージもリンゴもリバプールにいた。4人の天才が同時にいたという神がかり的な奇跡を何と言って良いのやら…(笑))
友達は素晴らしい贈り物です。友達はいないよりいた方がいい。ビートルズの4人は友達だけど、厳密に言えば友達というよりソウルメイトだと思います。
最近、友達はいない方が良いと言うような内容の本が出回っているけどね、友達がいない人が書いた本なのでなんの説得力もなかったね(笑)
僕の考えとしては、友達はいた方が良いよ。友達がいた方が人生は豊かで幸せになれる。
ジョンもポールもジョージもリンゴもそう言っている。「友達は大事だよ」ってね。
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1957年7月6日土曜日の晴れた朝。16歳のジョンは自宅でミミ伯母さんと喧嘩をしていた。
ミミ伯母さんとは、ジョンの母親ジュリアの姉で、ジョンの両親が離婚した後にミミ伯母さんに引き取られて育てられてきたのだ。
母親ジュリアは、比較的近郊に住んでいたので、ジョンは頻繁に会うことができていた。
ジョンは友人たちと「クオーリメン」という名前のバンドを組んでいた。このバンドで仕事回りをしていたり、1か月前の6月9日にはキャロル・リーブス主催のコンテスト地区予選に出場し、クオーリメンとして初の公式ステージにも立っていた。
結果は散々だったが、ジョンは、初めて、少しばかりの手応えを感じていた。
7月6日の午後に、リバプールのウルートンにあるセント・ピーターズ教会で開かれるパーティーでクオーリメンは演奏することができる事になっていた。
ジョンは自分の部屋で鏡とにらめっこをしてふざけていた。鏡に向かってエルヴィス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」を犬の遠吠えバージョンで歌ったかと思えば、バディ・ホリーの「メイビ・ベイビー」をしんみりと心を込めて歌ったりしていた。
ジョンの姿は上から下までテディ・ボーイのカッコをしていた。
「イカしている。いい男がここにいるぜ」とジョンは笑いながら鏡の自分に向かって言うと、リーゼントを直すためにクシで髪を上げ始めた。クシの通りが悪いのは塗りまっくたグリースによる所が大きいのに、「クソッ。やっぱり安もんのクシはダメだ」と呟いてベッドの上に放り投げた。
ジョンは手グシで髪を上手く整えると鏡に向かってポーズを決め込む。
「ジョン、ジョン」ミミ伯母さんが扉を強くノックをした。
「なんだい、ミミ?」ジョンは機嫌が悪くなり始めていた。ミミ伯母さんは扉を開けると目を丸くしてジョンを見ていた。
「ジョン、そんな不良みたいなカッコで外に出歩くのは許しませんよ」ミミ伯母さんは腰に手を当て、えらい剣幕で怒鳴り始めた。
「いいじゃないか」ジョンは最初は気持ちを抑えて言ったのだが。
「脱ぎなさい。学校からも色々と連絡が来ているのよ。『不良のカッコをして他の生徒に悪影響を与えて迷惑だから止めて欲しい』とね。他人に迷惑をかけたり、不快な思いをさせてはいけません」
「俺とミミの気持ちを不快にさせて、2人の関係に悪影響を与える先公の要らん告げ口の方が迷惑な話だと思うんだけどもね」
「ジョン、屁理屈はいいから、そのカッコを今すぐに止めなさい」
「嫌だ。ミミ、うるさいんだよ。少しはほっといてくれよ」
「胸ポケットのタバコを出しなさい」
「うるさいんだよ。もうガギじゃないんだから、俺をほっといてくれないか」
朝からミミ伯母さんの叱りや説教で、喧嘩になる一歩手前のところでジョンはギターを持って家を飛び出した。
ジョンは友人のピート・ショットンと合ってから、昼と夜にあるステージのために練習をする場所まで移動をした。
ジョンは一通り練習を済ますと、クオーリメンのメンバーを連れて背中にギターを担いでパーティー会場まで歩いていった。
天気の良い素晴らしい午後だった。
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ポール・マッカートニーは物憂げな気持ちになってギターを弾いていた。自分の部屋でコーラを飲みながら寛いでもいた。ギターを止めたり弾いたりしながら壁に貼ってあるエルヴィスのポスターを見つめた。
ポールは机の上に置いてある写真を見た。母親メアリーの優しくて可愛い笑顔があった。
ポールの母親、メアリーは、9ヶ月前の10月31日に、長い闘病生活の甲斐もなく、病気で亡くなっていた。ポールは悲しみに蓋をしてギターにのめり込んでいた。トイレに行くときも風呂に行く時もギターを持って弾いていたし、1日中ギターを弾きまくっていた。
ポールがギターを弾くのは、母親メアリーを喪った寂しさと悲しみを癒すことでもあったのだ。
ポールは友人のアイヴァン・ボーンに誘われて午後から教会のパーティーに行く約束をしていた。
最初はあまり乗り気ではなかったのだが『女の子がたくさん来るし、バンドの演奏もあるんだよ。面白くなるよ』という甘い言葉に誘われて、今朝になって、ようやく行く気持ちが固まってきたのだ。
ポールはリトル・リチャードの「ロング・トール・サリー」をスロー・バージョンでのんびりと歌い始めると、窓の外にいる鳥の姿に気付いた。鳥はポールの歌声に引き寄せられたみたいに首を傾げてポールを見ていた。
ポールはあどけない鳥の瞳に微笑みかけて時計を見ると慌てて立ち上がった。急いで身支度を済ませてギターを持つと部屋から飛び出した。
太陽が輝いていた。リバプールは曇り空が多いので一般的に休みの日などは家に籠りがちな人が多いのだが、この日は珍しく雲ひとつない快晴で、通りには人が多かった。
ポールはギターを背中に担いで自転車に股がると口笛を吹きながら軽快に走り出した。
近くでアイヴァン・ボーンと落ち合ってからパーティー会場まで行くことになっていた。
ポールは約束の場所で手を振るアイヴァンの姿を確認すると自転車のスピードを落とした。
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ミミ伯母さんはジョンの将来に不安を抱いていた。ロックンロールとやらに夢中になりはじめてからのジョンは、どこか落ち着きを無くし始めたように見えたし、朝方まで家にも帰らない日も増えてきた。
『間違いを正すためには教育と躾を確りしなくてはならないわ』と心の中で何度も考えを反芻していた。
『それにしても、ジョンはこんな昼時の時間帯に何処に行ったのかしら?』ミミ伯母さんは首を捻りながら悩んでいたが、ピーターズ教会のパーティー会場でセール品の催しがあるので妹のジュリアと見に行く約束をしていた。
ミミ伯母さんは、時間通りに来たジュリアを家に入れると、少しばかり今朝のジョンとの揉め事の話をした後に家を出た。
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ジョンはトラックの荷台でクオーリメンのメンバーとリハーサルをしていた。ジョンは気分がナーバスになったのか、ふて腐れた顔をして小さな椅子に座ると「オー! ボーイ」、「レイルロード・ビル」、「メイベリーン」を軽く歌って喉の調子を整えていた。誰かがジョンにレモネードをくれたので、緊張を解すために「ありがとう」と言って一気に飲み干した。レモネードの味はしなかった。
ジョンはステージに立っていた。ステージの上から見下ろす観客の中には、クラスメートや近所の友達、それに顔見知りの人達が数人ほどいた。知らない人も含めたら、かなりの数の観客がいたので、ジョンはホッと安堵して胸を撫で下ろした。
ジョンは緊張のために味のしなくなったガムを噛み続けていた。マイクの位置を直したり、ギターのチューニングを直す素振りをしてみたり、一端のミュージシャン気取りの自分の立ち振舞いに、得意満面な自分の心境に興奮をしていた。ジョンはマイクを軽く叩いて反応を確かめた。
「皆さん、こんにちは。僕はジョン・レノンです。僕のバンドはクオーリメンと言います。今から演奏をするので聞いてください」と言って軽く会釈をするとバンドメンバーに合図を送って「カンバーランド・ギャップ」を歌い始めた。
観客は初めて見るロックバンド、クオーリメンに釘つけになっていた。特にジョンの物怖じしない歌い方に何か惹き付けられるものがあった。
1曲を歌い終えたジョンは汗を拭いて頭を下げた。惜しみない観客の暖かい拍手が嬉しくて幸せな気分になっていた。観客の声の中に聞き覚えの声があったがジョンは歌う準備で気が回らず観客の顔を確認していなかった。
続いて、ロニー・ドネガンの「プッティン・オン・ザ・スタイル」を歌い終えて、エルヴィス・プレスリーの「ベイビー、レッツ・プレイ・ハウス」を歌い始めた時だった。後ろの方にいる観客の中に、やたらとバカでかい拍手と声援をする人がいて前の方に移動してきた。
母親のジュリアだった。隣には、今朝、喧嘩をしたばかりのミミ伯母さんもいた。ミミ伯母さんは機嫌が悪い状態では無いみたいだと分かったジョンは次に歌う曲の「カム・ゴー・ウィズ・ミー」の歌を歌詞を変えてみた。
「何故かミミが来た♪ 喧嘩中のミミが拍手しているぜ♪ 仲直りして僕の傍においでよ♪ 僕と一緒に行かないか? ♪」と歌い出したのだ。ミミは笑顔を浮かべて拍手をしているしジュリアは「ジョン、行け! 行け! 何でもやってみろ! 歌が上手いな。あれは私の息子なんです!!」と大きな声で隣にいた婦人に叫んでいた。
ジョンは自分の口元にチャックの仕草をしてジュリアを嗜めたのだが、ジュリアは無視をして、「ジョ~ン、ジョ~ン。お母さんはここだよ~っ」とずっと手を振り続けていた。
ジョンはデタラメの歌詞と自分で作った歌詞を合わせて「カム・ゴー・ウィズ・ミー」を歌っていた。
「♪僕と一緒に来ないか? 素敵な良いところへ一緒に行かないか? ♪」とジョンは歌い続けて観客を盛り上げていた。
観客の中にいたポール・マッカートニーは、クオーリメンとかいうバンドで歌う存在感のある男の姿を、真剣な顔をして静かに見つめていた。
つづく
ありがとうございます。