ジョンの気持ちを受け止めたい
ビートルズとして発表されてしまったジョン・レノンの未発表曲のフリー・アズ・ア・バードもリアル・ラヴもナウ・アンド・ゼンも頭を冷やして冷静さを取り戻してから聞くとだね、ビートルズ・バージョンは不完全バージョンの曲だったという事に気付かされてしまうね。
ジョン・レノンは1977年に日本に滞在していた時にフリー・アズ・ア・バードを作ったんだけどもね、あまり思い入れがないのか、その後、まったくフリー・アズ・ア・バードは手を加えていないんです。
リアル・ラヴはジョンがミュージカルを作るために作曲した曲だったから力の入れようが半端ではなかった。確か、僕は昔、リアル・ラヴをテイク8か9くらいまで聞いた憶えがあるよ。(個人的にはリアル・ラヴのデモテープが1番優れていると思うね)
ナウ・アンド・ゼンについてはね、やっぱりね、Bメロを、削除したポールに対して、結構、怒りがあるんだよね。Bメロを、ナウ・アンド・ゼンをビートルズとして発表するならばだ、ビートルズが、どうBメロを仕上げて来るのかが非常に凄く楽しみだったんだよ。Bメロこそがドラマチックで映画的で壮大なメロディーだったのにさ、結果的には全部が骨抜きにされたような生温い印象は今も変わらないんだよね。
Bメロを削除した理由はポールの性質を考えなければならないことに気づかされる。
ジョンが亡くなる2ヶ月前のインタビューでジョンは「ポールは僕の曲に勝手に手を加えたり、余計な事ばかりして実験ばかりするんだ。奴はいつも僕の曲を台無しにするんだ」と言っていたんだよ。
例えばストロベリー・フィールズ・フォーエバーなんかが、いい例だ。大分、ポールに無残な形にされてしまい、ジョンは諦めの境地で仕方なく歌ったとも言っている。サイケデリックを象徴する音楽とし輝くストロベリー・フィルーズ・フォーエバーだけども、ジョンが意図していた完成形とは全くの正反対だとジョンも言っている。
ジョンが亡くなる少し前なんだけど、ビートルズのプロデューサーのジョージ・マーティンがダコタハウスに訪ねてジョンに会った事があるんです。
ジョージ・マーティンは久しぶりに会ったジョンを見て「昔のように優しくて温かいユーモアに溢れたジョンが戻ってきたような印象を受けました」とジョージ・マーティンは言っていました。ジョージ・マーティンが会った時のジョンは、いよいよミュージシャンとして復活する直前のジョンだったのでジョンからポジティブなエネルギーを受け取ったようです。
「ジョンと話していると『ビートルズの曲は全部ダメだ。1から録音をやり直したいね』とジョンが言ったので、私はかなり驚いて、慌てて『ジョン、ストロベリー・フィールズ・フォーエバーも?』と聞いたんです。そしたら、『そうだよ。ストロベリー・フィールズ・フォーエバーが1番ダメだ』とジョンは言ったんです。私は、もの凄いショックを受けました」とジョージ・マーティンは言っていました。
ストロベリー・フィールズ・フォーエバーはね、ありえない曲なんだよ。もの凄く凄い曲。誰も作れない最高峰の超絶技巧の奇跡的な曲なんだよね。絶対に他のミュージシャンでは作れない素晴らしい最強の曲なんです。それをジョンがやり直したいというのはね、ちょっとね、怖いくらい凄い。本当に凄い話です。さらにジョージ・マーティンの話は続きます。
「私はショックを受けましたが、確かに、初めてジョンがアコースティック・ギターで皆の前でストロベリー・フィールズ・フォーエバーを披露した時のファースト・テイクを聞いた時の衝撃ほど素晴らしいものはありませんでした。今にして思えば……、ファースト・テイクを録音してレコードにしたかった。あのファースト・テイクこそが最高だったんです。あれほど聞き惚れた素晴らしいストロベリー・フィールズ・フォーエバーはなかった」とジョージ・マーティンは言っていました。(う〜ん、僕も幻のファースト・テイクを聞いてみたい)
話を戻してポールはね、ジョン・レノンの存在感と才能に凄く嫉妬しているんだと思うんだよね。だからジョンに対して、すぐムキになるし、余計なお世話をするというか、余計なおせっかいをするというか、軽い嫌がらせか何かかは分からんけれどもね、ジョンの足を引っ張るというか、変に屈折した何かが現れる時があるんだよね。ジョンの曲に手を加えるという暴挙がいい例さ。ライバル心がポジティブな方向にいけば良いけどれもね、ジョンとポールの関係性というのはね、色々と難しい部分がたくさんあるという事なんだよね。
ポール、ジョージ、リンゴがビートルズの再結成を望んだとしても、ジョンは最後まで、断固「NO!」と言っていたしさ。
ビートルズの再結成は幻想だし絶対にありえないんだよ。いくらデモテープ上で他のメンバーが音を重ねてビートルズの新曲だと言ったとしても論点からしてズレているし、お門違いというか、要点が違うんだよね。結局は虚しいだけの話なのさ。だいたいジョン・レノンがいないんだから話にもならないしね。
では、ジョン・レノンが亡くなる2ヶ月前、1980年9月10日に受けたインタビューを書きます。スタジオでレコーディングを終えた直後のインタビューになります。
インタビュー「なぜビートルズの再結成はそれほど考えられないことなのですか?」
ジョン・レノン「ビートルズの再結成なんて幻想だよ。10年前のことなんだ。ビートルズは、映画、レコード、人々の心の中にしか存在しない。すでに存在しないものを再結成はできない。僕たちはもう、あの頃の4人ではないんだ。とにかく、もう存在しないと分かっている幻想を与えるために、なぜ僕が10年前に戻らなきゃならないんだ?」
インタビュー(インタビュアーは、それでも、しつこく聞いた)「幻想は忘れてください。ただ、なにか曲を一緒に作る可能性はどうですか?」
ジョン・レノン「君はまるで、愛憎入り混じったファンの典型みたいだな。『60年代に私達のためにしてくれた事に感謝します。お願いですから、もう一度見せてください。一度でいいんです。もう一度だけ奇跡を起こしてくれませんか? あの頃、十分な恩恵を受けられなかったんです』ってわけか。なぜビートルズがこれ以上、人々になにかを与えなければならないんだ? 10年のあいだにすべてを与えてきただろう? 自分自身すらも捧げてきただろう? すべてを捧げたじゃないか! 困るのはビートルズが自分たちのために再結成してくれるという発想だ。『私はまだ14歳でビートルズを体験できませんでした』などと絶えず手紙を寄こしてくるガキどものために再結成しろってか? そんなのは哀れだね。もう忘れてくれよといいたい。[ここでジョンは激しい感情を見せる]俺たちは、また大衆に魚とパンを分け与えなきゃいけないのか? また十字架にかけられないといけないのか? 大勢の間抜けどものために、また水の上を歩いて見せなきゃならないのか? それが奴等の要求なんだ。『十字架から降りて奇跡を見せてくれ。頼むから、もう一度だけ奇跡を見せてくれ』だと? お断りだ!! 同じことを2度もやれるか!! やって何になる? 元に居たところには決して帰れない! そんな場所は存在しない! わざと隠しているんじゃないんだ。持っていないから隠せない。ビートルズは終わったんだ。戦争は終わった。60年代も終わった。ビートルズは終わったんだよ! 僕はビートルズに興味がないんだよ! わかるか? もうビートルズはどうでもいい。本当にどうでもいい!」
なんだか泣けてきます。
ジョン・レノンの気持ちが全てだと思います。
皆、僕がビートルズよりも、断然、ソロのジョン・レノンの方が好きだという理由がさ、これでわかってくれるかい?
つづく
ジョン・レノンが亡くなる2ヶ月前のインタビューはとてもスリリングでシビアでした。これがジョン・レノンの本音であり、自分の気持ちを素直に正直に語った本当の言葉なんです。だからこそ、ビートルズの再結成も新曲も幻想であり、絶対にありえないのです。