2話
よろしくお願いします。
「名を轟かせる、ですか?」
「ああ、有名な傭兵になれば仕事が沢山来るだろ?俺たちは自分たちだけで生きていくために、仕事をしたいんだ。それでいっぱい稼いで、みんなで楽しい生活をするんだ。」
これはリーダーが教えてくれたことだ。ここにいる奴らはみんなリーダーの考えの元に集まった。俺たちを足蹴にした奴らを見返すために、ここにいる奴らだけで這い上がってやると決めたのだ。
ユカリはそれを聞いて、何か考えているようだった。
俺は今日1日何も出来なかったので、みんなが直したところの確認だけやって作業を終了した。
そして夕飯の時間になると、噴水広場に全員で集まって、火を囲む。周りには廃工場から引っ張ってきたエネルギーを使って、街灯を一部復旧させてある。こうすることで夜も安心して活動することが出来る。
今日はユカリがディアーナに入った記念なのでいつもより豪華な食事になっていた。缶詰だけじゃなくて、狩猟してきた獣の肉もあった。今日はおなかいっぱい食べることが出来そうだ。
みんなに料理が行き渡ったのを確認してからリーダーが話始める。
「今日も1日ご苦労だった。エンジニア班からの報告で駆動騎士の修理もあと一歩のところまで来ている。これもみんなが頑張ってくれてるおかげだ。ありがとう。そして、今日からディアーナに加わる仲間を紹介したい。」
リーダーから立ち上がるように促されてユカリが立ち上がる。
「ユカリといいます。よろしくお願いします。」
「ということで今日から仲間になるユカリだ。みんなよろしく頼む!」
「「「おおー!」」」
みんながわいわい騒いでいる。珍しい白髪に目を奪われている奴らもいた。
「じゃあ前置きはこれくらいにして飯にするか!」
「「「イエーイ!」」」
リーダーの掛け声とともにみんなが料理にがっつき始める。
「じゃあ俺達も食うか。」
「そうですね。頂きましょう。」
俺が缶詰のご飯を食べようとした時、ユカリが手を合わせて目を閉じる。
「いただきます。」
俺はそれを見て食べようとしたスプーンを止める。その言葉が気になりユカリに聞いてみる
「なにかのおまじないか?」
「いえ、私がいたところだと食事の前にこういうのが決まりなんです。食べ終わった時はご馳走様といいます。」
「へぇー。じゃあ俺も。いただきます。」
こうして新しい概念を知ることがあるのも、新人が入ってきた時の醍醐味みたいなものだ。
俺はちょっと賢くなったのを嬉しく思いながらシイラ達が作った料理を食べることにした。
食事をしている間、ユカリはみんなと楽しそうに話をしていた。俺はエンジニア班の奴らと残りの修理箇所について話したりして過ごした。残りは1週間もあれば直せるだろうとということだった。
設計図に描かれているフレーム、アーマー、メインリアクター、メインカメラ、メインコンピューター、スラスター、そして、武器。残った問題の中でどうしても解決できないのが武器だった。現在俺たちが持っている武器はブレードが1本と残弾2発のバズーカだけ。武器だけは近くに落ちていなかった。いや、バズーカが2発手に入っただけまだマシだと言った方が正しいかもしれない。
俺たちは車でよくナーシアまで買い物に行っている。山で採れる肉や山菜以外の缶詰とかの食料を買いに行っているのだ。お金は売り払った駆動騎士のパーツが財源だ。その辺に放棄された機体も解体して部品を取り出せばまだまだ使えるものはたくさんある。
だが俺たちの僅かなお金では駆動騎士の武器なんて買うことは出来ない。こればっかりはどうしようもなかった。
「シューヤ何とかできないの?」
エンジニア班の中の1人が質問してくる。
「そうだなぁこればっかりはどうしようもないな。ちょっと待っててくれ近いうちに何か考える。」
「「はーい。」」
エンジニア班の連中は基本的に頭がいい。学校に通っていた奴らを集めて作ったのがエンジニア班なのでディアーナの頭脳とも言える。とはいえこんな子供達だけではどうしようもない問題だ。
「何かお困りですか?」
俺がぼーっと星空を眺めていると、横にユカリが座ってくる。
「武器が足りなくてな…ブレード1本じゃあできることはかなり限られる。」
「そうなんですね…」
「まあ、なんとかするさ。今までだって何度も無理だと思ったことを乗り越えてここまで直してきたんだ。」
実際これまでも行き詰まることはたくさんあった。パーツがデカすぎて運べないこともあったし、大雨で廃工場が浸水してコンピューターがダメになったこともあった。でも、その度にみんなで知恵を出し合ってなんとかここまで漕ぎ着けた。今度だってなんとかして見せる。
その日は結局何も解決策を見つけることが出来ず、解散になった。
そこにいた子供たちは等しく貧しかった。ボロボロの服を着て、少ない食料を分け合って慎ましく暮らしていた。大人に頼ることなく生きるその姿はかっこよくも悲しくも見えた。
この子達は大人に頼ることを知らないのだ。彼らと話をしていく中で大人の話になると急に口を閉じる子もいた。その理由は虐待やネグレクトや様々だったが共通して辛い過去がを持っていた。
この中において私は今までとても恵まれた生活を送っていたことがわかった。
私はここに来るまで毎日おいしい食事を取れるありがたさも、ふかふかのベッドで眠れる安らかさも知らなかった。
そう、何も知らなかったのだ。
ユカリが来てから数日が経った時だった。1日の作業を終えてみんながそれぞれの寝床に帰る中、俺とユカリは廃工場に向かって歩いていた。俺が考え事をしながら歩いていると後ろにいるユカリが話しかけてくる。
「シューヤ。どうしても駆動騎士で戦わなければいけないのですか?何か他の仕事じゃいけないんですか?」
「どうしたんだ急に。」
「駆動騎士で戦うということは死ぬことだってあるはずです。シューヤはそれをどのように考えているんですか?」
俺はユカリが何を言いたいか大体察することが出来た。
「…ユカリは死ぬことがあるくらい危険な仕事なら稼ぎは少なくても他の仕事をした方がいいって言いたいのか?」
「はい。お金を稼ぐだけなら他の方法もあると思うんです。稼ぎは少なくても生きていけるならそれでいいではないですか。」
俺はそれを聞いてユカリがいままでどういう暮らしをしていたのか想像がついた。
「昔、ユカリと同じことを言ったやつがナーシアに働きに行ったよ。結果は奴隷として捕まって、そのままどこの誰とも知らない奴に売り飛ばされた。結局これが現実だ。子供がいくら働きたいと言ってもそれが叶う環境っていうのはほとんどない。」
「そんな…」
俺は振り返ってユカリの方を見る。
「力がないとダメなんだ。生きていくためには力がいる。だから俺達には駆動騎士しかないんだ。」
俺はそのまま黙って再度暗い道を歩き出した。
「まだ見つからないのか!!」
大声で怒鳴った男は酷くイラついていた。
「申し訳ありません。フィリップ大尉、今取り急ぎ捜索しているところです。」
「絶対に他国の手に渡る前に確保するんだ!他の国に取られるくらいなら殺した方がマシだ!」
せっかく教会よりも先に巫女を確保出来たというのにみすみすそれを逃がすことになるとは。
巫女というのは稀に現れる祝福という特別な力を持った者のことだ。聖王国は巫女を複数人囲いこんでおり、その力で大国になっていた。
巫女を確保したと軍の上層部に報告出来れば昇進は間違いない。せっかく自分の輝かしい未来が約束されていたというのに煮え湯を飲まされてる気分だ。
フィリップがイライラしていると、ドアがノックされる。
「今度はどうした!?」
「ほ、報告します!ナーシア西部にて件の巫女を見たという目撃例があったとのことです。」
「よくやった!すぐに私の戦車部隊をナーシアに向かわせろ!私自ら指揮を執る!絶対に捕まえるんだ!」
「了解!」
フィリップはその報告を聞いてニヤニヤし始める。敵はただの小娘一人。ローラー作戦で炙り出せば必ず見つけ出せる。
(待っていろよ!私の昇進!)
読んでいただきありがとうございました。