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似たもの兄妹(義理)

「妹、ショウ君の?言われて見れば目元とか似てるような……。あ、やっぱごめん全く似てないや」

頑張ってショウとの共通点を探そうとしたが、外見はこれっぽっちも似ていない。ショウの顔の良さはせいぜい中の上ってところなのに対して目の前のヒメカはぶっちぎりで上の上だ。雰囲気も顔立ちも似ているところは皆無だ。

そもそも髪色からして違う。ヒメカは黒髪なのに対してショウは日本人の若者とは思えない真っ白な髪だ、父方母方で偏っていたとしてもそれでも流石に似てなさ過ぎる。

強いて言えば少し会話しただけで伺える理知的なところだろうか?それにしたってあくまで表面的な部分でしかない、ショウの事すらキチンと理解できていないのにまして初対面の人間のことを判断する材料になどなりはしないだろう。

「あはは、似てなくて当然だよ。私とお兄ちゃんに血のつながりはないから、物心ついたころからその距離感で過ごしただけ。幼馴染って言った方が分かりやすかったかな?妹でも間違ってはいないんだけどね」

「あ、そういうことか。そういえば苗字もちがうもんね、変に考えて損しちゃった。何か匂いが似てるかもって思ったところだったんだけど、やっぱり気のせいだったかな」

それは特に何か考えた言葉ではなく、ただ思ったことをそのまま口に出しただけのものだったが、ヒメカにとっては予想外のものだったのか目を瞬かせた後、さっきまでの薄い微笑みを崩してクスクスと品を保ちながらも間違いなく笑った。

「フフフ、そっか匂いか。なるほどね、確かにそれは盲点だった。うんうん。吸血鬼って凄いね、ちょっと想像以上かも」

何故評価が上がったのかは分からないが、彼女の心にどこか引っかかったのか頷きながらそう呟く。そこまで匂いが似ている、というのが意外だったのだろうか?


「まあこのまま貴女のことを沢山教えてほしいけど、ちょっとここじゃ話しづらいだろうし場所移そっか」

そう言ってヒメカは首を動かさず視線だけツイと横に向けたので、釣られてそちらを見ると先ほどよりも更に数倍ほどの人数の群衆が壁に隠れて(いるつもりの様子で)こちらの様子を伺っていた。

「ひえっ!」

軽く二十は超える頭が集まってこちらをじっくりと見ている様に思わず悲鳴が漏れてしまう。ただでさえイアの顔を見ただけで騒いでいた連中だったので、イアに勝るとも劣らないヒメカと並んで座っているのを見逃すわけがなかった。

声は恐ろしくて聞きたくないが、よだれを垂らして目を爛々に光らせている者、頬を紅潮させてうっとりとしている者、鼻血を流している者もいて自分の体が性的な目で見られた時のような不快感と恐怖が腹の底から湧き上がってくる。

内容がバレるかもしれない、などという現実的なリスク以前に一刻も早くこの場から離れたかった。しかしここで離れるとなるとどうしても問題が発生してしまう。

「ショウ君に言わなくても大丈夫なの?勝手にどっか行っちゃったら会えなくなっちゃうんじゃ……」

「うん?大丈夫大丈夫、もうとっくに連絡は貰ってるから。合鍵もあるし早く家向かっちゃお、ここにずっといるのは嫌でしょ?何か話すにしても内容がアレだから外だと難しいしね」

こちらをずっと覗いている人たちを見ても慣れているのか軽く微笑みながら気にしてした様子もなく、しかしイアの心情を気にかけて即座に行動に移そうとするのは血のつながりがないにも関わらず、ショウととても似ていた。

手を引かれてずいずいと先導されていくそれが今までにない感覚で、少し心臓がはしゃいだ。今までの吸血鬼生を虚しいものと考える気は毛頭ないが、それでも誰も信頼できず自分の正体を隠しながら生きていくのは決して愉快なものとは言えなかった。

自身のことを吸血鬼だと理解していながら自らに触れるなど両親以外ではショウですらまだしていなかったこと、だからこそその衝撃で誤魔化されてイアは気づくことができなかった。そもそも何の躊躇いもなく触れられることを許可している事、たった数分前までの警戒心が既に消え去っている事を。

ショウと深い関係にあること、外見が飛びぬけて良いこと、辛い場面で助けに入ってくれたこと、要因は複合しているがそれでもイアの中でヒメカに対する好感度は既にショウに対するそれを超えている。

そしてイアはその事実に気づくことすらできていなかった。


*************

家に着くとヒメカは何を思ったのか特に鍵を使わずドアノブを捻ると意外にもドアは軽く開き、家の奥から光が漏れだしてきた。更にトントンと子気味良い音やこの一週間で嗅ぎ慣れた食欲のそそる良い匂いが届いてくる。

「やっほ、お帰り。悪いねイアちゃん、大体の事は八から聞いたよ。たった数分程度だし大丈夫だと思った私の油断だった、ごめんね」

「あ、いや帽子を押さえてなかったわたしのせいだから……。ハチ?」

「ん?ああ、こいつの苗字ヤエって漢字の8がついてるんだよ、で私のイチジクは九っていう漢字だからね。まあただのニックネームよ、そこまで気にしないで」

(ショウ君先に帰ってたのか。ヒメカちゃんいつの間に連絡とってたんだろ?まあただ単に見落としてただけかもしれないし、気にしなくていいか)

ショウの判断は本来ならば全く問題ないものだったのだが、明らかに失敗したのはイアなので謝られても寧ろ申し訳なさが湧き上がってしまう。わざわざショウが事前に用意したのが日傘ではなく帽子だったことをもっと思案するべきだったのだろう。

ただでさえ天気は曇ってて日除けなんて必要かどうか分からない時に、安定して持てて日光も防ぎやすい傘ではなく帽子を選んだ時点で何か考えがあると分かるところを、吸血鬼だからそれを隠すためかな?で思考を止めたのが全ての原因だろう。紅い目が吸血鬼の証拠だと、一体世界の中で何人が知っているのかすら分からない程度のものだというのに……。

その罪悪感も相まって朝の段階では脳内に存在していたいくつもの疑問は奥底に埋もれていってしまう。ショウの隠していること、ヒメカの人格、今までの生活で生じた違和感などショウには真正面からだと聞きづらいことがあったはずなのにそのほとんどを思い出すことができない。


「ひとまず今後の話だけど、八は週一、日曜日にうちに来てもらうってことでいいか?昨日の事を考えると三日四日に一回は吸血が必要になるだろうし、基本的に木曜日に私で八が日曜日って感じで回せばある程度安定させられるでしょ」

「きゃー、自分は四日の方を担当してくれるなんてお兄ちゃん相変わらず優しー。私は別に日曜は大抵開けてるから問題ないよ~、駄目だったら連絡するしそういうイレギュラーが起きたら次の木曜は私がやるってことでいいよね?」

「流石に二連続やられただけで破綻するほど鈍ってないしそれで問題ないな、イアちゃんもそれで大丈夫?」

「え、あ、はい。大丈夫、です」

事前に打ち合わせでもしていたのかと思う程トントン拍子に話が進んでいったせいでそんなぼんやりとした返答しかできずポカーンとしてしまう。ショウの案を即座に理解するだけでなくそこに込められている優しさも察した上で非常事態の対応もキチンと考えるヒメカもショウと同じくかなりの思考力が存在していることが伺える。

なのにも関わらずショウの時と違って不信感が湧いてこないのは、イア自身少しずつとはいえショウを信頼できているのもあるが、一番の理由はイアの不思議な魅力に盲目的になっている部分が大きかった。


*************

「そういえばイアちゃんの反応を見た限り、まだ教えてないんだ私たちのこと?」

「軽々に言うもんでもないし、向こうからの私への信頼がまだまだなのも考えると今は早すぎると思ってね。話すときは私にも相談入れろよ、お前はともかく私の場合ちょっとやそっとじゃ受け入れられないんだから」

「はいはい、分かってるよ全く。お兄ちゃんは慎重だねえ、私がその程度の事理解していないわけないでしょ」

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