表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/28

新生活の準備

(さてどうするか。同居が決まったのはいいとして、まず何から手をつけよう)

時刻は七時、既に朝食や身支度は済ませて今日するべきことについて考える。昨晩の事を考えると驚くほどに早いのだが、大したことではないとショウはさして気にも留めずに切り替えている。

イアはというとソファーの上で眠りについている。これはあの後普通に睡眠をとり、まだ寝ているだけなのかそれとも朝寝て夜動くタイプなのか判断がつきにくいところだ。ただ昨日閉めた覚えのないカーテンが全て閉じていることを考慮すると、やはり日光が駄目な可能性は高いのだろう。

(そうすると、本格的に必需品を用意するのは夕方あたりが良いか。服に関しては、私のやつで我慢してもらうしかないな。最近は兼用できるものも多いし、気にしないことを祈ろう。最優先は部屋だな、来客用に予備のベッドもあるけど手入れはしてなかったし。天日干しぐらいはするか)

色々と用意するにしても、異性であること、吸血鬼であることのせいでどうしてもやれることが狭まってしまう。妹分に連絡をとればできることも多少は増えるだろうが、互いの人格を何も知らずにいきなり紹介するのは流石に躊躇われた。

元々とある事情で生活用品の予備は何セットか買いそろえていたのもあり、昼頃には手持ち無沙汰になってしまう。イアはまだ寝ているためここで昼食を作ってうるさくしてしまうのも気が引けたので、財布に負担がかかるが仕方なく外食をすることにした。

*************

(にしても吸血鬼、かー)

近くの定食屋で焼肉定食を食べながらぼんやりとここ半日ほどの出来事をゆっくりと整理する。人外の扱いには慣れている、と豪語したものの当然だが状況が急展開過ぎて流石に冷静に対応できていたとは思えない。傍から見れば不自然な行動も少なくないだろう。

現状分かっているのは血を飲むことで生きている事、人間よりは高性能な肉体を持っている事、日光が駄目だと思われる、その程度だろう。今までの常識のほとんどが通じないため何か一つ行動するだけでも一々悩まなければいけないのは中々に大変だ。受け入れたことは自身の判断であり後悔はないとはいえ苦労は絶え無さそうだと思うとどうしても気が重くなってしまう。

イアを受け入れたことそのものは全く問題がないだろうが、そこまでの運びはあまりにも急すぎたと反省する。あれでは誰が相手でも警戒されない方がおかしい、いくら動揺していたとしても実利目当てで動きすぎていた。自分と他人のペースの違いを忘れてつい知り合いを相手にしているように話してしまっていた。

昼はずっと寝ているという確証もないのにも関わらず置手紙もなく無断で出かけてしまったのも反省点だ、もし今起きていたら戸惑ってしまっているだろう。携帯が使えるかどうか、何ができるのかすら分かっていないのに単独行動は迂闊にも程がある。

(焦るとまず自分の実益に走っちゃうのは私の悪い癖だな、他人の心情に配慮しなければ無駄なトラブルを招くことは学んでいたはずなのに……。下手に気を使っていないで多少強引に行動するべきだったか?いや、バレたら今後の関係は最悪なものになる。単純に私の能力不足でしかないか)

非日常的な状況である以上正解が何かも分からないので誰に責められるものでもないのだが、それでも改善できることはあるはずだと箸を進めながらも考えるショウ。しかしそもそも答えはないのであまり深刻に悩むことはせず食事の時間の有効活用と割り切っているためその思考は軽い。

そうしている間に定食を平らげ家へと急ぐ。時刻は13時、特に物音はしていなかったのでイアはまだ起きていないのかと判断して胸を下ろすが、リビングに入るとさきほどかけてやった毛布を抱きしめながらも既に起き上がってジッとショウを見つめて動かない。外出していたのはせいぜい四十分ほどだが、いつの間に起きたのかその間一人きりにされた心細さを思えばというのは申し訳なさしかない。

「いやごめんね、てっきり夕方ぐらいまで寝てるかと思っててさ。カーテン閉め切ってるから日光が駄目なのかなとか予想してたんだけどもしかしてそんなことはなかった?」

「ううん、日光が苦手なのは確かだよ。でも人間が言うように浴びたら一瞬で浄化される、なんてこともないかな。なんていえばいいかな、凄く日射病と日焼けがしやすいって考えて。しかも肌が黒くなるとかじゃなくてただヒリヒリ痛くてブツブツができるだけで強くもならないし。だからいつも6時くらいに寝て14時くらいに起きて動くかな。曇りだったり日陰だったら全然動けるし、今日は昨日の夜ちょっと寝てたから早く起きちゃっただけで日差しが弱くなれば多少は耐えられるから」

イアの説明を聞いてフクロウのようなものかと、自分なりの解釈で納得する。フクロウも夜行性で夜目が効く分、昼間になるとかなりものが見えなくなるらしい。実際は暗い空間でも小さな光を拾うために感度を良くしすぎて眩しすぎるだけのようだが、闇夜に適応した分昼間の能力が落ちるという認識はそう間違ったものではないだろう。

人間の血を吸うという特性上、どうしても人目を避けて行動するために夜に動くことを選んだことは一切不思議ではない。その過程で紫外線に極度に弱くなってしまったのだろう、即死こそしないもののやはり日中に動くのは体に良くないようだ。

だがそれ以上に気になる言葉があった。

「その、時計見れる、というか時間感覚があるの?いや失礼なのは分かってるんだけど、吸血鬼って人間の教育を受けてないイメージがあったからちょっと意外で」

改めて考えれば部分部分ではそこまで高くない鼻や、やや幼さを感じる顔つきなど想起できるパーツがないわけではないが金髪に赤目と明らかに日本人ではないのに日本語をとても流暢に話すことができていたり、病名や熟語なども違和感なく会話に使えているなどそれなりの教養を感じる場面は多い。

「まあ確かに教育は受けていないけどそれなりに長生きしてるからね、都会だったら外でもニュースとか流れてるし電気屋とかではテレビとかも置いてあるから多少は分かるよ。図書館で絵本とか読んでたし、それにお父さんは人間だったから」

「……はい?」

「お母さんが日本が戦争に負けたから荒れてて血も吸いやすいだろうってこっちに来て、その後お父さんに出会ってわたしを産んだらしいんだ。いつだったか詳しくは覚えてないけど、小さい頃に東京オリンピックで盛り上がってたのは覚えてる。それからお父さんもお母さんも死んじゃったから一人で生活してたんだ」

特に悲しんでいる様子もなく身の上話を淡々と語るイア、それなりに壮絶な人生だと思うのだがそこは吸血鬼と人間の価値観の違いなのか深刻さは欠片も無く気軽な語り口だった。想像だにしていなかった事実が飛び出たが、あっさりと納得できるものではあった。

(人間の保護者がいたってんならある程度の知能があるのも理解できるな、東京オリンピックってことは最低でも60ぐらいか、それだけの経験があれば日本ならいくらでも知識を学べるものはそこいらに転がってる。どこか日本人のような顔つきも日本人とのハーフだってんならすんなり受け入れられる、母親の死因は気になるところだが戦後の環境だと高度経済成長の影響でいくらでも病原菌があるような時代だし深堀りする話でもないか。一番気になるのは)

「人間と吸血鬼って子供できんの?吸血鬼は吸血鬼としか子供出来ないのかと思ってたけど」

「あはは、今時純血の吸血鬼なんてほとんどいないよ。私が今まで会った吸血鬼はせいぜい十人いないぐらいだけど、それでも両親が吸血鬼なのは一人いたかなってぐらい。吸血鬼の外見的な特徴なんてこの赤い目ぐらいだからね、そもそも同族同士で見分けも付きにくいし何なら最近はカラコンとかいうのも流行ってるからここ二十年は本当に同族なんて見かけてないよ。人間と子供を作ってもそこまでスペックが落ちることもないし、気にするのはほとんどいないかな。まあオオカミと犬も子供できるらしいし不思議じゃないでしょ」

「!ああ、なるほどね。そういうことか!」

オオカミと犬も子供ができる、という部分を聞いて合点がいったと大きく反応するショウ。

(そっか、そういうことだったのか!吸血鬼っていう別種の生き物なのに会話は通じるし見た目もほとんど人間と同じだから不思議だったが、吸血鬼って多分どこかのタイミングで人間とは別の進化ルートを選んだ人間に最も近い霊長類なんだ。人間が集団での機能に特化するために記憶や手先の器用さ、コミュニケーション能力とかに寄せたように吸血鬼って個の能力を高めるのを選んだ結果、そこら辺の繁殖能力とかが劣化したんだろう。とはいえ人間に極めて近いから人間と子をなせるし、絶滅は避けられたと)

ほとんど根拠はないものの、理屈としてはとても筋の通ったもののように思えた。吸血鬼がどれほどの身体能力を持っているのかは後々計測して確かめるつもりではあるが、肉食通り越して吸血動物というあからさまな頂点捕食者のような存在なら多少ゴリラだろうと寧ろ当然だろう。


「それじゃあ諸々必要なものは用意したから、これ欲しいなってものがあったら今から買いに行こ。無いなら無いで家の中の案内とかもしなきゃいけないし、18時までには言ってくれると助かるよ。特に遠慮はいらないし、言うだけならタダだから多少贅沢だと思っても気軽に言ってくれて構わないよ。それじゃあ私はそれまで部屋でやることやってるから」

「うん、ありがとね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ