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彼女の想い、彼の考え

優しい以外で具体的にショウのどこが好きか、仮に恋仲になったとして一体ショウに何を返せるのか、その問いにイアは答えを返せず30分が経過した。時折何か思いついたように口を開きかけては、しかし「あ、う」と言葉を詰まらせてまたすぐに黙り込んでしまう。そんな彼女に長時間付き合うヘビも大概だが、そこで回答するのを諦めたり無理だとハッキリ言わないイアもそれだけで意志の強さを見せていた。

「はあ分かった、まあ確かに本当に兄様を理解した上で優しいところが好きっていうこともあるか。確かに少し意地悪な質問だった、じゃあせめてどう優しくされたから好きなのかとか言ってみて。せめてそれぐらいはできてもらわないと、自分の気持ち一つ表現できないような人ならそんな想いは捨ててもらうよ」

その言葉を聞いてイアはホッと肩をなでおろす、ずーっと考え続けてもショウの事を好きな理由は優しいから以外では浮かばなかったけど逆に優しい所ならいくらでも説明できる。納得してもらえないかもしれない、なんて考えは欠片もよぎらない。だってこの30分でショウの好きなところは飽きるほどに再確認したから、自分の拙い言葉でも確信をもって断言できるほどに。

「ショウ君ってさ、上手く言えないんだけど社会とか国とか、すっごく沢山の人の事のためにいっぱいものを考えて動いているじゃん?」

「そうだね、僕たちはそういう教育を受けたからね」

「で、ショウ君ってめちゃくちゃ頭いいじゃん。だからわたしがどうしたって社会とかそこら辺にとって邪魔でしかない事なんてとっくに気づいていると思うんだよ」

「それは……。うん、そうだね」

大衆にとってイア、というか吸血鬼という存在は邪魔、それは狩刃の件で散々思い知らされた。あの後ショウも一応、吸血鬼と人間が手を取り合えばより良い世界になれる、って理想論を語ってくれてはいたが、ショウ自身ですら認めるただの建前であって実際のところそれまでのリスクを考えたら殺した方が遥かに手っ取り早いし、安心安全だ。リスクリターンを考えたら殺す方が自然だし、どうやらショウは荒事は少なからずやってきたらしい。合理的に考えればやらない理由の方が少ないくらいだ。

「ショウ君はそれをしない理由を、わたしの人格が善良だから死なせたくない、って言ってくれたけど。今考えると、そもそも最初の段階でわたしの人格を考慮する必要もほとんどないんだよね」

「それは……。君の機嫌を損ねたら殺されるかもしれないから、って考えたのかもよ?」

「あはは、もうそうやってだまそうとしても引っかからないよ。ただ殺すだけだったらいくらでもやりようはある、寝込みを襲う、毒をもる、適当な罠を一つ仕掛けておくだけでもわたしは殺せる。自分でもチョロいな~とは思うけど、出会って初日でショウ君のことある程度信頼して部屋でグースカ寝るようになってたからね、気づかれないようにするには十分すぎるでしょ」

実際吸血鬼という存在が邪魔なのだから、集団利益のみを考えるのならそれを躊躇う理由も大してない。初日では警戒されているかもしれない、二日目も怪しいか、安全を取って三日目までは様子を見るかもしれない。しかし一週間もただ様子見に使ったのは長すぎる。実際そのせいでイアはショウとヒメカに嫉妬し、能力を明かす羽目になった。人の、ましてろくに教育も受けられていない吸血鬼のメンタルケアなどという綱渡りをやり続けるぐらいならさっさと始末した方が遥かにリスクもコストも低い。

確かに殺そうとしたのがバレたら関係は最悪になる、場合によってはショウは殺されるだろう。とはいえ何もしなければ当然何も解決しない、ならば早々に手を打った方が良いに決まっている。そこまで考えると、イアの人格が善良か否かなんてそもそも考えようとするだけ無駄、よりリスクが少なく確実な殺害方法の一つでも考えていた方がよほど有意義だ。

「つまるところ、ショウ君の中には最初からわたしを殺すという選択肢がなかったんでしょ。いっちばん合理的で効率的な方法を除外して、わたしの面倒を見てくれる、わたしの人格を見ようとしてくれる。これを優しいと言わずして何て言うの?」

「……うん、それはそうだ」

「多くの人のために、って考えて動いているのに決して個人をないがしろにするような選択をとらない優しいところ。そういうところがわたしは、うん、好きなんだと思う」


耳の端を真っ赤にしながらそう零すイアに、ヘビはドデカイため息をもらす。

(殺害を避けたのは優しいからって理由だけじゃないのは、言うだけ野暮かな。理由はどうあれ殺しを避けるのは事実だし、そのあたりをややこしくする必要はないか。それに……)

チラリと自分を怯えた表情で見るイアに視線をやって、もう一度ため息をつく。

(少なくとも、損得勘定とか依存とか抜きにして兄様の中身を見てその上で本心から好きだと判断してる、僕に認められない事を恐れる程度にはガチで。ならこれ以上を踏み込むのは僕の役割じゃない、拒否するのも受け入れるも兄様が決めることか)

「分かった分かった、君のそれが心の底からってのは理解したよ。まあそもそも決めるのはあくまで兄様だしね、あくまで君の意志を聞きたかっただけだしそう怯えなくても大丈夫だよ。わざわざ兄様にはふさわしくない~とか馬に蹴られかねない事をするほど無粋じゃないし」

「ええ……。じゃあそこまで焦る必要なかったってこと?も~、無駄に緊張したじゃん」

そう口にしてソファーにぐでっと体を預けるイアに対してヘビは特に何も返さない。実際何も嘘は言っていない、あくまでショウが決めること、ヒトの恋路を邪魔するようなことはしない、全て本心からの言葉だ。ただ単にイアの抱く感情を再確認しておきたかっただけ、それが生半可なものであったのならばショウの裏をほんの少し教えるつもりではあったが。

(彼女の倫理観があれなのか、それとも単純に盲目的になってるだけなのか、あるいは本当にそれを受け入れるだけの覚悟があるのかは分からないけど、彼女はごくごく自然に兄様が殺人という選択肢をとれることを受け入れている。ならひとまず最低限は満たしている、兄様がそこを見せて問題ないと判断する程度には信頼しているんだ。なにより、僕の言葉程度ではどれだけ重ねても彼女の心は変えられそうにない)

ヘビもショウほどではないにしても、ある程度他者の心理を操るような術は身に着けている。そんな彼が匙を投げるほどの固い意志、これはもう直接本人から叩き折られるでもしない限り曲げることすら不可能だとヘビは判断した。


***************

「兄様ってさ、イアちゃんとの関係どうするつもりなの?付き合ったり?」

その後、特に何かあるわけでもなく三人が帰宅してショウも寝ようとした時、ヘビは思わずそれを口に出した。

「……ヘビ、お前はいつからウナギと同レベルの思考回路になってしまったんだ。恋とか付き合うとかの言葉にはしゃぐとか思春期の学生かよ」

「まあそんな要素がないとは言わないけど。今後彼女が明確な答えを求めた時、どういう方向性に行くつもりなのかなと思って。家族とか恋人とか友人、あるいはただの居候とか」

「痛いところつくな。正直今のままを続けたいんだが、流石に無理かな?」

「無理だと思うけど、彼女良くも悪くも純粋だから。あの手のタイプは関係性とかも単純明快な名前を付けたがるし、今のまま耐えられるのは精々一か月が限度ってところじゃない?」

現状、ショウはイアとの関係をどこまで続けるのか具体的に決めていない。イアの命を守る選択をしてしまったあの時から、簡潔に関係を終わらせることはとてつもなく難しくなった。

イアはショウにとても懐いた、ショウはイアに対しての感情を見せた、イアに元々社会的な地位はない、それどころか家族も保護者も友人すらも彼女にはいない。彼女が自発的にこの家から去る可能性は皆無に近く、当面ショウも彼女を追いだすつもりはない。あるとしたら死別ぐらいのものだろうが、今のところショウは健康そのものでありそれを保つための努力も欠かしていない。少なくともこのままでは年単位は共に過ごすことになるだろう。

「家族だの仲間だのって曖昧なくくりには納得してくれないだろうし、明確な線引きはいずれ求められると思うよ。それをどう設定するかは、兄様次第でしょ」

「ッチ、やっぱそうだよなあ。なあなあで済ませたかったんだけど、流石に年単位でごねるのは難しいか。はあ、面倒くさくなるのはほとんど確定事項みたいなものか」


うんざり、と言った顔でため息をつくショウだが、ヘビから見ればショウの気持ちは、少なくとも本音の部分ではもう答えは決まっているように見えた。

恋愛が絡むと人間関係はややこしくなるから、気づいてしまったらそれを隠すのに不信感を出してしまうから、理由はいくつかあるがそれでもショウ自身が恋というものを明言することは一度としてなかった。なにより、イアが他に頼れる存在がいない以上仮にイアから告白されたところでさっさとそれを振ってしまえばそれで即座に結論が出る問題でしかない。その時多少拗れはするだろうが、逆に言えばその程度、時間をかければいつかは解決できるものでしかない。

にもかかわらずショウはそもそも恋愛の話題になること自体を過剰なまでに避けている。まるでいざ告白された時、それを振ることができる自信がありませんよ、と言わんばかりに。ショウらしくもなく、リスクとリターンがあまりにも釣り合っていない行動はショウと十年以上過ごしてきたヘビからすれば、その内心を推し量るのに十分すぎるものだった。



「ふむ、となると今のうちに嫌われるよう努力もしておくか。ウナギ、ちょうどよく父さんから一件来てるからイアちゃんも連れてくぞ」

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