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新しい関係

ハロウィンから約二週間、二人の関係性はほんの少しだけ変わった。と言ってもショウからイアに対してはほぼ変わらない、変わったのはイアの方だ。その事実を彼女自身は理解できていなかったが、今までよりもほんの少しショウに対して笑顔を見せる頻度が多くなったように思えた。彼に称賛された時、彼がごく稀に愛想笑いではない笑顔を見せた時、思わず柔らかな微笑みを零すことが増えた。

「で、実際のところイアちゃんのことどう思ってるの?お兄ちゃん。な~んだか私よりも優先順位高くなってない?」

「ん?なんだ突然、最初からお前よりも彼女の方が高いに決まってるだろ?彼女との関係性には今までずっと細心の注意を払ってきたんだ、お前よりもよっぽど気を使ってるよ」

「はいはい、それも私を信頼しているが故の愛だからっていう事なのは分かってます。そういうことじゃないんだよ、純粋に好感度としてさ。お兄ちゃんが恋愛をするとは全く思ってないけど、最近仲良くなってるみたいだしさ、もしかしたら私たちと並んだりした?」

動画作成の作業中のショウに椅子の背もたれに組んだ腕と頭を載せてヒメカがちょっかいをかけてくる。面倒くさがって適当に相手しようとしている気満々の声音での意地悪な言葉を慣れた様子であっさりと流してずいずいと顔を寄せるヒメカ、それを煩わし気にしながらも無理に引き離そうとはせずに淡々と作業を続けながらショウはほんの数秒間をおいてから口を開いた。

「ふむ、自分の感情なんて分からないのが普通って言ってしまうのは簡単だけど、せっかくだし真面目に考えておくか。まあ少なくとも人格面でお前よりも魅力的な事は間違いないだろ、当たり前だしお前のせいでもないから別に罵倒とかじゃないが」

「言い切ったね~。まあそれは否定しないけどさ~、せめてもうちょっと優しい言い方してくれない?そんなこと言われたら傷ついちゃうよ私、シクシク」

一応最後に申し訳程度のフォローを入れているとはいえ、ヒメカの方を見もせずにズバリ一刀両断するもわざとらしくウソ泣きをするだけで特に嫌がる様子もなく、寧ろ笑顔を見せてより一層絡んでくる。

「とはいえ流石にまだ出会って一月経ってないからな、少なくとも信頼度に関してはお前の方が上だよ。イアちゃんの善性はある程度信じてはいるけど、彼女に対してこんな言葉遣いはできないし、仲の良さの話ならお前の方が断然上だと思ってるよ。一応まだな」

「まだ、って言うあたりお兄ちゃんらしいけどとりあえず喜んでおくよ。何となくそう言うだろうなとは予想できてたけど、いくらイアちゃんでも二十年かそこらは超えられないか、超えられてたらいくらなんでも寂しいしね」

そう言うと薄く微笑んでショウの首に腕を回し頭を横に並べて、そっと目を閉じる。目にした人がいれば二人を恋仲だと思っても不思議じゃない光景であることを、俯瞰して理解できていたからこそショウは一つ大きなため息を吐いた。

「ったく、面倒くさい真似して。人のこと意地悪だの言う前にそういうことするの止めろよ」

「えへへ、やっぱ女友達をからかうのって面白いからね。お兄ちゃんが意地悪言うのを止めたら考えます」


*************

「はわわわわ!み、見ちゃいけなさそうなもの見ちゃった」

ドアの隙間からそんな様子をのぞき見していたイアは、二人には気配で思いっきりバレていたが、そろりそろりと足音を殺して自身の部屋へと向かう。そのままベッドに飛び込み、ハロウィンに貰った大きなぬいぐるみを四散しかねない力で抱きしめながら悶える。

「え?え!?あの二人ってやっぱりそういうアレなのかな?キャー!」

彼女の精神年齢からするとまだまだ恋に恋するお年頃、身近な存在に恋の気配があるだけで何故か嬉しくなってしまうのだ。下世話な事だとは理解しているが、思わず頬が緩んでニヤニヤしてしまう。そう、こういう恋バナは大好物、小説や絵本、漫画でも何でも楽しんでいたのだ。まして現実でそういうものを目の当たりにすれば大歓喜のはずだ。

「兄妹とは言ってたけど、血繋がってないしね。生まれてからほとんど一緒にいたらしいし、そういう関係になってても当たり前かあ。二人とも頭いいし、ショウ君も外見いい方だし、最高にお似合いだもん。むしろ何で今までそういう関係なのか考えなかったんだろう、何なら気づいてもいいのに、わたしってバカだな~」

口元は確かに上がっている。面白いって思っているし、胸もドキドキしている、間違いなく楽しんでいるはずなのに何故かイアの口から出てくる言葉はそんな感情とは裏腹にどこか自身を納得させるために二人の相性が良いことをわざわざ確認したり、自分の駄目さ加減を自虐したりなど喜んでいるような様子は全くなかった。

自分でも本心だと思っていることと口から出る言葉が違うことに疑問符が湧き出て頭が混乱する、壊れたロボットのように思考がグルグルとループし頭を抱えてしまう。ベッドの上でドンドン丸くなり、五分後には掛け布団を被った上で膝の間に頭を挟みこみ眠りについてしまう。たった数分、ウンウンと頭を悩ませていただけで脳にとてつもない疲労を溜めてしまう程に彼女の心はぐちゃぐちゃに荒れていた。


コンコン

「お~い、イアちゃん?ちょっと伝えたいことがあるんだけど、今大丈夫?」

「ひょえ!?」

時刻は既に17時過ぎ、眠りから覚め、少しは頭が冷えたが未だに悶々とした思いを抱いて布団にくるまっていたイアだったが、突然ショウに呼ばれて声が裏返ってしまう。

「もしかして何か作業してた?今やめておいた方が良かったりするかな、別に今すぐ必要ってわけでもないけど……」

「え、あ、えっとその……」

(もももももしかして、その、付き合ってることを明かされたり?!どどどどうしよう、わたしまだその何というか、それっていうか~~!)

「ち、ちょっと心の準備してきまーす!」

「おげっ!」

唐突な事態に完全にパニックになり頭が爆発したイアがとった行動は、いきなりドアを開け放ち家の外へと飛び出すことだった。ドアの傍にいたショウは対応できずドアノブが鳩尾にねじ込まれてうずくまる、そんな彼の様子など全く気付かず薄暗くなった街へ全力疾走していくのだった。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

心臓がヘビメタのドラムのように騒がしい、全身の血が沸騰しているかのように体が熱く肺は酸素を求めて全力稼働中、筋肉の疲労を限界を超え痛みをもって訴えてくる。それでもなおイアは我を忘れて走り続けた、頭を疲労一色で埋め尽くし変な悩みを捨て去るために。吸血鬼故の人間を超えた持久力のせいでただ全力疾走し続けていただけで既に日は落ちて周囲は暗くなっていた、ようやく立ち止まると気怠さがドバっと鉄砲水のように押し寄せ思わず地べたに座り込んでしまう。

「はああ~~~、な~にやってるんだろうわたし」

流石に通行の邪魔にもなるので道の端に移動しながら周囲を見渡すと、住宅街の裏路地のようだが見たことのない場所だった。何も考えずにただ走ってきただけなので、当然帰り道を覚えているわけもなく、寒空の下一人で冷たいアスファルトに座っていて急激に心にも大寒波が襲い掛かってきた。焦って立ち上がって戻ろうとしようと考えるも、足に力を入れた瞬間に電流が流れたように痛みが走りプルプルと震えただけで立てなかった。

汗で濡れた体は盛大に体から熱を奪っていき、つい数分前まで真夏の猛暑のようだったのに今では真冬の雨に撃たれているかのように寒くて仕方がない。体調と精神状況は連動している、どんどん思考はネガティブな方向へと向かいより一層心細くなる。

「これで本当に帰れなかったらわたし間抜けすぎるよな~、ショウ君の話も聞かずに飛び出して、で迷子で帰れませんとかおバカにも程があるよ。やばいな~、泣きそう」

せめて疲れがとれるまで、と膝を抱えてできるだけ体温が逃げないように体を縮めていわゆる体育座りの姿勢で腕に顔を押し付ける。後悔、自分への怒り、寂しさ、不安、その他諸々の感情が胸中を支配し思わず緩む涙腺を必死に押さえつけ静かに耐える。携帯電話も持って来ていないのでこちらから連絡も取れず、そもそもここがどこだかも分からないから自分の場所を伝えようがない。

「ショウ君がわたしの足について来れてるわけないし、迎えにも来てくれないだろうな。家の住所とか知らないし、どうしよっかなあ」


「なら私に付き添って一緒に帰る、というのはどう?こんなところにいるよりはよっぽど良いと思うけど」

その声を聴いてバッと顔を上げると、いつもと同じように愛想笑いを浮かべたショウの顔がイアの顔を覗き込んでいた。

「な、なんで、どうやってここが……。というかどうしてこんなに早く……」

「いや、自分自身では気づいていなかったみたいだけど、別にまっすぐ家から離れていったわけじゃなくて似たような場所をグルグルと回っていただけみたいだよ。直線距離だとそこまで離れてなかったし、場所のアタリさえついていれば自転車で十分もかからないさ」

そんなことをいいながらショウは座っているイアにやや大きめの水筒を差し出し、手を差し伸べる。

「ほら、あったかいお茶持ってきたから。体冷えてるでしょ?これ飲んで、早く帰るよ。こんなとこに長居したら風邪ひいちゃう、立つの大変だったらまたおぶろうか?」

「~~っ!ううん、大丈夫!んっしょっと、ほら立った!」

何とも現金な事に、疲れ切っていたはずの体はショウの顔を見ただけで信じられない程元気が湧いてきた。水筒の中身を飲むとお腹の底から心まで満たされるような感覚があり、ショウに引っ張られ立ち上がると、そのまま歩き出せるほどに回復していた。あれだけへとへとだったはずなのにショウと隣り合って歩けることが楽しいと思えてしまう、知らず知らずのうちに彼女の口元は弧を描いていた。

「さっきの話だけどね、私の能力は表面的な思考だけじゃなくて、深層心理まで読み取れるから。君とのパスは繋がってたしそこから今どこにいるか、視界の映像を読み取るぐらいは私にとってはお茶の子さいさい、この程度は楽勝なんだ。勝手に心読んじゃったのは謝るけどね?」

「あ、いや、ううん全然大丈夫!寧ろ来てくれてほんっとうにありがとう!すっごく嬉しかった」

自分で暴走して、家出して、迷子になって、それでも助けてきてくれたのに寧ろ心を読んだことを謝ってくるショウにどうしようもなく胸が高鳴り顔が熱くなってしまう。こんな状況だろうとイアの心情を慮り、尊重してくれるショウの事が抑えきれない程に……。


「ねえ、ショウ君、あのさ。その、ね?ショウ君ってさ、ヒメカちゃんと付きあt」


「ようやく見つけたぞ九位、政府から脱走した大罪人め!ここで始末してやる!」

その言葉を聞いて振り返ると、いつの間にやら何かの棒切れを持ちフードを被った青年が立っていた。

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