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カップルっていうか親子じゃね?

「おお~~!!きれ~」

とりあえず近隣で一番規模の大きい百貨店の中に入り、ぐるりと一瞥して初めて出た感想がそれだ。繁華街に立ち寄ること自体はイアにとっても珍しくないが、その中でわざわざきらびやかでデカい建物に入ることは初めての経験、子供のように目を輝かせて息を漏らす。

「とりあえずどこ見たいとかある?ないならないで、一番上から順に降りていくって感じにしようかなって思ってるんだけど」

「うん、それで大丈夫。あくまで見て回ることが目的だし、興味が無かったら飛ばせばいいだけだしね」


最上階はレストランが大半だったので割愛するとして、七階の娯楽品売り場のコーナー。ゲームやアニメグッズなど、主に子供向けのオモチャを販売しているがその中でも彼女の気を引いたのはとあるクレーンゲームの景品のぬいぐるみだった。

「なにこれかわいい!しかもデカいし、柔らかそうだし、ショウ君これ欲しい!」

顔の形にくり抜いた、典型的なハロウィンカボチャにコウモリの羽を付けた直径約60センチ程の大きなもの。どことなく吸血鬼に見えなくもないそれに一目見た瞬間心を奪われ、ショウのコートの端を引っ張りながら欲しい欲しいとねだる。

「ん、了解。どうする、自分で狙ってみる?それとも私がやろうか?」

「う~ん、まずは自分でやってみる!できなかったらお願いしていい?」

「オッケー、じゃ五百円分までね。こういうのは際限なくなっちゃうからね、あらかじめいくら使うのか決めておかないと」

一回目、前後の距離感を測り間違えたようで端を軽くなでただけで終わり、二回目はクレーンの片側がぬいぐるみのど真ん中を挟んだせいで持ち上がらなかったが少し転がって出口に近づいた。

そして三回目

「あ、これ上手くいったでしょ。ってああ!も~、力なさ過ぎでしょ!今絶対できたって思ったのに~」

完璧に中心部分に合わせてアームを移動できたはずだったのに、ほんの少し浮かせただけでアームから滑り落ちてしまい寧ろさっきよりも出口から遠い場所に転がってしまうというクレーンゲームあるあるを見せてしまった。

クレーンゲームが好きな人からすればこの程度で諦めるなどありえないのだが、慣れているはずもないイアからすれば千載一遇のチャンスを邪魔されてしまったような気すらしてテンションが急転直下の大暴落を起こしてしまう。

「ショウ君後よろしく~、こんなのわたしできる気しない」

「はいはい、任されました。後三回、まあいけなくはないかな」

自分では100%不可能だと割り切って即座にショウに丸投げしたのはショウに対する全幅の信頼故か、それとも何も考えていないだけか。まだ半分残っているのにあっさりと自力で獲るのを諦めて操作盤の前を空け、この後披露されるだろうスゴ技に期待してショウを見つめる。

(え、そんな何かしら奇抜なやり方しないといけないのか。残りの三回+追加の五百円分で何とかいけるかなって考えてたんだが……。さてどうしよう)

そんな視線に当然気づいて内心汗をかくショウ。クレーンゲームのアームの力は基本的に弱いのでよほど完璧に重心を捉えても持ち上げてそのまま運ぶというのは難しい。なのでアームの開閉でずらしていったり転がしていくのが王道だが、それには地道な回数の積み重ねが必要になる。

そして彼女が求めているのはそんなものではなく、この三回でヒョイと持ち上げてそのまま出口に放り込めるようなそんな技だろう。狙えなくはないが、失敗したらより一層金がかかるし確実性にも欠ける、あまりチャレンジしたいものではなかったのだが……。

とはいえいくら人の期待を裏切っても大して心が痛まないショウであったとしても、この程度の事でそんな目を裏切るのは流石に躊躇われたので仕方なく作戦を変更して一回目、中心よりも僅かに外した部分をアームで挟み軽く転がしてぬいぐるみを横倒しにする。

そして二回目、端っこを押して転がし位置を調整して三回目でタグの隙間にアームを通して持ち上げ、見事そのまま取り出すことに成功する。

「さっすがショウ君!よくあんな小さなところに通せたね、すごいよ!それにやっぱり最っ高にモフモフだこれ、ありがとねショウ君」

「どういたしまして、上手くいって良かったよ。ま、爆弾を解除した時に比べたら全然簡単だったからね、これくらいならお安い御用です」

内心の緊張などおくびにも出さず余裕綽々といった面で言ってのけるショウを見て、まさに理想通りだったようで先程テンションががた落ちしたのが嘘のようにはしゃぐイア。それを見るショウの目は明らかに年頃の女性に対するものではなく、幼い娘、あるいはペットの犬を見ているようなものだったが幸いにもイアには気づかれず無駄な軋轢を生むことは避けられた。

ちなみにぬいぐるみについてはショウが持って来ていたエコバックに詰め込んでショウが持つことで解決しましたとさ。


続いて六階、このフロアはインテリアや雑貨などがメインだが彼女が興味を持ったのはその中にある本屋のスペースだった。

「ん?何か気になる本でもあった?ってこれは、音楽雑誌?しかも思いっきりクラシック系の……。イアちゃんこういうのが好きなの?ちょっと意外」

「あ、いやそのお母さんが好きだったからわたしもたまに聞いてただけで。えっと、やっぱ変だよね?」

「全然普通じゃない?私も若者のブームとか疎いから何とも言えないけど、別にこういうのは人の好みだしね、別に気にするような事でもないでしょ。それに吸血鬼のイメージにも合ってるしね」

繁華街などで流れる楽曲と言えばアイドルだのj-popだのいったものが大半なのでどこか時代遅れのような気分があってコンプレックスだったのか、見られて恥ずかしがるイアだったがショウの言葉で安心したのかにんまりと破顔する。

「だ、だよね!。吸血鬼にバイオリンって似合ってるよね!」

『そうね~、ただこの場ではできれば大きな声は出さないようにね。私も悪かったけど、他人に聞こえるような音量で吸血鬼っていうのはちょっとよろしくないからさ』

口元に人差し指を当てながら能力を使って自制を呼びかけると、ハッと弾かれたように口元を抑えてきょろきょろと挙動不審に周りを見渡すイア。その姿は寧ろ先程の言葉を真実だと言っているようなものなので思わず心の中で呆れてしまう。

幸い今は平日の昼間なのもあって周りに人がいなかったようなので特に不審がられることもなく、二人で顔を見合わせてホッと胸をなでおろす。流石に本物の吸血鬼だと思われるなんて馬鹿なことは起きないだろうが、そういう心配事は無い方が良い。

「でどうする?それ買う?」

「……ううん、いらないや。ぬいぐるみとってもらって何言ってんだって思うかもしれないけど、あんま必要ないものを買ってもらってばっかって嫌だから」

「別に気にしなくていいんだけどね、駄目ならこっちから言うし余裕あるから提案できているんだし」

「わたしが嫌なーんーでーすー、ショウ君が良いって言おうと何と言おうとわたしが却下します!」

ある意味ではいつものように、ある意味ではいつもとは真反対に、自分の感情に従って自制する決意を頬を膨らましながら表明する。仮にどれだけショウから説得されようと断固として自分の意見を曲げないという強い意志をこれでもかというほどにアピールしながら高潔な姿勢を見せられれば思わずショウも苦笑いしながら了解の意を示す。

「分かった分かった。はあ、全くそういうところだよね」

「え?なにが?」

「いや別に?気にしなくて大丈夫だよ」

吸血鬼の優秀な耳はショウの独り言も容易く拾ったが、幸か不幸かそこに込められている意味を察することができるほど彼女はショウのことを理解できているわけでもなく察しも良くないので、少し疑問に思った程度で数秒後には忘れてしまいさっさとこのフロアを後にした。


「ここから下は服飾関係がメインになるけど、どこ行こうか?マフラーとか手袋みたいな小物を見繕っとくのもいいだろうし、厚手のコートの一つや二つ必要になるし、それともアクセサリーとか欲しかったりする?」

「い、いらないいらない!……まあ欲しいかって言われたら欲しいけど、そんな高そうなの大丈夫だから!あ、でも帽子は新しいの欲しいかも。ヒメカちゃんのおさがりもいいけど、なんかすごく高級っぽいから落ち着かなくてさ」

アクセサリーという単語に一瞬心惑わされていたが、つい先ほど必要ないものを買ってもらってばっかの状況を嫌がったというのを思い出して頭を振って誘惑を断ち切るイアだったが、年頃の少女としての欲は捨てきれずついちょっぴりねだってしまった。

ちなみに彼女の頭からは完全に抜けていたが、ショウの提案した前半部分はこれからの冬支度のものなので要らないってことはないのでツッコミをいれようかと迷ったが、急ぐほどのことでもなし、女性の服選びに付き添うのは男よりも同性の方がいいだろうと考えなおして帽子売り場に向かう。

「とりあえずつばの大きいものが良いよね、色は好きなものある?」

「やっぱ黒かな~、赤も好きだけど自分で着るのはちょっと派手過ぎて。一部分が、とかっていうのなら大好きなんだけど」

並んでいる商品を手に取りながら二人で条件に合うものを探すが、中々彼女の好みには合致せずに次へ次へと移動していく。そもそも彼女が求めているのは、値段もデザインも簡素なものなのでこの場では少々場違いですらある。

「良いのないね~、なんか違うんだよねわたしのイメージしてるのと。ヒラヒラのやつなんかいらないっていうか、もっとシンプルの方がいいんだよね」

「ふむ、じゃあこういうのは?」

「あ、うんすごくいい!こういう感じ!」

ショウが持ってきたのは全体的に黒を基調としながらもワンポイントとして小さな赤いリボンがついたもの、最近流行りのUVカットを備えているので黒だろうと日除け効果は問題なくデザインも彼女が求めるようにシンプルで余計なレースやロゴなどないものでイアも大満足だと顔にありありと書いてあった。

「あ、いやでも六千円……。やっぱ別のものにした方が」

「こらこら、な~に言ってんの」

「いたっ!くはないけど、突然なに?!」

値札を見てすごすごと元の場所に戻そうとした時、突然ショウがイアの頭部にチョップをかましてしかりつける。基本イアの言う事為す事に文句ひとつ言わず全力でフォローに回るショウが大変珍しく(とても軽いとはいえ)暴力をしてまでイアの行動に待ったをかけた。

「まったく、君のそういう遠慮できるところは美徳だとは思うけど何事もタイミングです。せっかくいいなって思えたものなんだからそこは遠慮しないでむしろねだってくれてもいいんだよ、必要ないものでもないんだし。何より私が君に満足してほしくてここ来てるんだし、値段ぐらいなら変に気にしないで大丈夫です。そもそもマズかったら渡さないし」

「……はい、ごめんなさい……」

ショウの説教を聞いてぽかんと口を開けたままコクコクと首だけ動かして頷くイア、その時に何を考えていたのかはショウもイア自身も理解できていなかった。


「さて、今五時か。どうする?喫茶店でも入ってみる?」

「あ~、でも荷物そこそこ増えたし一旦置きたいかな。家帰っていいかな、その後また来たら丁度いい時間になってると思うんだけど……」

それを聞いた瞬間、ショウはほんの数秒石化したように動きを止めた。

「もしもし、ショウ君大丈夫?やっぱ止めといた方が良い?」

「あ、いや大丈夫大丈夫。うんいいんじゃない、それとそのなんかごめん」

「?よくわかんないけど、じゃ行こっか」

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