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デートに必要なのは入念な準備

当たり前すぎて鬱陶しく感じるかもしれないが、イアは誰かとデートなんてものをしたことはない。そもそも男を作るどころか友達すらいなかったのにそんなものができるわけがない、なので当然のようにどこに行けばいいのか分からず歩き始めて数分で立ち尽くしてしまった。

「うん、まあ経験が無い人が初めて何かしようとしてもそうなるよね。ノリで言ったけど二人して楽しめるものなんて思いつくわけなかったね~」

「うう、なんかごめんなさい」

ショウの歯に衣着せぬ物言いに責められたような気がして思わず凹むイア、実のところショウもイアが良い選択をできるとは最初から考えておらず自身で言った通りあくまでノリで言っただけなので全く気にしていないが下手な冗談のせいでショボショボになっていく。

(う~ん、ぶっちゃけ私の場合何しようとほとんど変わんないから別に思いつくまま行動するだけで構わないんだけど、多分彼女自身が納得できないだろうしね。特に彼女みたいなタイプは漠然と自分が納得できる結果を欲している、仮にこのまま彼女の行動に付き添うだけなら彼女自身が満足できないだろう)

ショウのように合理性で考える人間はあくまで結果優先で、例えば結果が変わらないようなら自力で解決することを早々に諦め人に頼るという選択をとることも普通にある。ただし想像している範囲が常人よりも広いため自力で解決するメリットを理解した上で判断するので結果人に頼ることはそこまで多いわけじゃないが……。

対してイアのように感情で判断しているとまず自分が満足するまでやることを優先する。非効率的だろうと時間がかかろうと得られるものが何も変わらなかろうと無駄に一つの作業を凝る人と同じと例えれば分かりやすいだろうか、要するに仮にどれだけショウが楽しもうと、イア自身が自信をもって判断でない限りイアの方が楽しめない。

そうやってどうにかして成功体験を積ませようとする思案する姿は、恋人などとは程遠く親のそれのようだった。よりイアが納得できる結果に導くためにぐるぐると頭を回すが、ショウもそこまでデートの経験、とりわけ教養の低いイアのような相手となるとほとんどなく碌にアイデアは浮かばなかった。

(ゲーセンみたいなとこは今までゲームをしてきた人ほど上手い、つまりできないことをやっていたとしてもストレスが溜まるだけだろう。映画は知識も倫理感も不足している彼女じゃ楽しめるか分からないし、食べ歩きはそもそも機能として無理。どこかの施設に入るにしても一応ハロウィンっぽいことをしておいた方がいいだろうし……)

「とりあえず繁華街の方に行こうか、歩いて20分ぐらいだし色々見て回れば何か思いつくこともあるでしょ」


「思ったよりも盛り上がってないね~」

最寄り駅の近くに来てみてまずイアが放った一言がそれだった。人口密度は二人横に並んで歩いているのに迷惑になることがほとんどなく、人混みというほどのものでもないが窓をチラリと見ればどの店も大体半分以上は埋まっている。

「まあ平日の昼間だからね、流石にまだハロウィンを楽しもうって時間じゃないでしょ。それに最近冷えてきたし曇ってて太陽が見えないのにわざわざ外に出たくないって人もいるんじゃない?」

空は真っ白の雲が覆って太陽を完璧に覆い隠してしまっている、そのおかげで日傘を使わなくてもイアは外を歩けているが、そのせいで長袖でも顔や手など地肌が出ている部分は寒気を感じてしまう。

一応ハロウィン用の広告などは多く貼ってあるが見渡した限り仮装をしている人はそこまで多くない、これに関しては住んでいる場所の時点で別に都会というわけでもないせいもあるが現状見かけたのはせいぜい安っぽい獣耳のカチューシャを着けた男女と逆に恐ろしいほどに凝ったアニメキャラのコスプレをした人ぐらいだ。

(とはいっても当てもないのにわざわざ電車を使うのは無駄だし、時間が時間だしこれからだろうけどそれでも夜までどうやって時間を潰すか。一番まずいのは……)

横に視線を向けると露骨に落ち込んでいるイアの姿があった。せっかくのハロウィンなのに楽しめていないということ、ショウの時間を使わせてしまったという罪悪感、僅かに冷える中歩いたのに期待していた風景がない失望感などで瞳を潤ませてすらいる。

(もう帰ってしまう事が最悪の事態だ、ここに来るまでの時間も労力もただ無駄だったという印象しか残らない。私は微塵も気にしないがイアちゃんの方はそうじゃない、となるとできるだけ早急に明確なやることを探すべきだが……。う~ん思いつかねえ)

ショウもある程度いわゆるデートの定番のようなものは知識としてあるので普通の女性相手ならばいくつかアイデアも出ただろうが、彼女相手では考慮すべき事柄が多すぎて思考が纏まっていない。

バッティングセンターやらボーリングなどいった身体能力を十全に使えるスポーツ系の施設ならば彼女でも楽しめるだろうが、そうなると彼女の正体がバレるリスクが発生する。カラオケは彼女が歌える歌が一体いくつあるのかすら分からないのに、選べる選択肢ではない。

彼女から何かしたいと要請があるのなら、多少のリスクがあろうともそれを叶えるための努力をしただろう。しかし彼女からそんな欲望が出るはずがない、何故なら何をすればいいのか何が楽しいのかすら理解していないからだ。

「イアちゃんは何かしてみたいことはない?なんでも言ってくれて構わないよ、私のことは一切気にしなくて大丈夫だから」

「えっと、うう~ん……。ごめん何も思いつかない、何が良いのかな?」

珍しく本気で困って縋るようにイアに対して尋ねるショウだったが、結果がこれ。これでショウの方に何かしら趣味があったのならそれに誘ってみる、という手もありなのかもしれないが、生憎今のショウに何か誇れる趣味なんてものはない。

ただでさえイアがハロウィンが好きな事は今日初めて知り、一緒に行動するのを決めたせいでそのための計画を立てる時間なんてほとんどなかった。いくらショウの頭が良かろうとこの短時間でこの難題に対する正解を求めるのは無茶が過ぎる。

(ヤバい、考えれば考える程ドツボにハマっている気がする。そもそも考慮すべき条件が多すぎる、せめて一日猶予期間があれば何とかできたのにあーもー混乱してきた)


「……君、ショウ君!」

「ん!ああ、ごめんちょっと考えに没頭しすぎてた。どうかした?」

「その、もう帰らない?別に今そんな拘らなくても……」

「それは駄目!せっかく時間が空いてるんだ、イアちゃんにとっては一年に一回のお楽しみなんだからちゃんと楽しんでもらわないと……」

「っ!」

この時点でショウは前提として間違えていたのだが、そもそもわざわざこの時間にイアが満足する必要はどこにもないということだ。結論ハロウィンを楽しめさえすればいいのだから、別に夜であろうと全く構わないしそれまで家で腰を落ち着けてのんびり待つというのも全然アリ。

確かに昼間から出ようとして勘違いさせている部分はあるが、イア自身今の生活があるのにそこまで死力を尽くしてハロウィンを楽しもうという意志はなく、人の心の機微に敏感なショウがそれに気づけないのはショウがイアのために脳をフル回転させていたためだろう。

イアはそれが嬉しかった。いつも冷静で理知的で、色々なことができるショウがイアのことを真剣に考えているせいでイアですら気づけることに気づいていない。そんなまるで恋愛小説のようなことに顔が火照ってしまう。

(ショウ君にそんな変な考えはない、分かってる分かってる。私じゃ理解はできないけど、難しい理屈があってそのためにショウ君はわたしのことを考えてくれている。変にとらえるのは失礼になっちゃう、けど)

イアは単純だ。理屈なんかよりも感情が先に出る、ショウが物事を理屈で理解してようやくその事実に即した感情を抱くのに対して理論なんかよりも瞬間的に感じたものがイアにとっての全て。どれほど理性を効かそうが感じる胸のときめきを抑えることはできなかった。

そんな精神的に大きな余裕ができたイアだからこそ、岡目八目、驚くべきことにショウよりも早く解決策を生み出すことができた。

「ショウ君、あのえーっとちょっと名前でてこないんだけど、ほらそのなんか買い物してるやつ?うろうろしながら色んなやつ見るあれ、あれやりたいなわたし」

「ああ、ウィンドウショッピング?買い物っていうよりもただの冷やかしなんだけど、いいね了解。百貨店みたいなものならいくつかあるし、なるほどいいアイデアだ。やるねイアちゃん」

「ふふんっ、でしょ?自分でもナイスアイディアだな~って思ったの」

薄い胸を張りながら鼻高々にドヤ顔するイア、そんな彼女を見て表面上は余裕たっぷりな顔で明るく接しているが内心ホッと肩をなでおろす。


(結果としては最上、彼女が自分の意志で提案してくれてそれは条件に合致するものだった、願ってもないことだ。私が誘導するまでもなく彼女自身が発案できたことは歓迎すべきこと、何の文句もないが……)

それでもそんなものは偶然、彼女の意志などという不確定なものに頼ったが故であり完全にショウの考えの埒外の状況だ。その事実に歯噛みするしかない。一歩間違えれば、という状況に委ねてしまった自身の不備に対して猛省する。


「まあ言っても仕方ないか、自己嫌悪なんてしても意味ないからな」

イアの事を褒めてからわずか十秒、そう呟くと恐ろしい速度で切り換え既に数メートル先に進んでいるイアの後を慌てて追いかける。

その更に十秒後にはどんな店を見るか、いざ買うとして予算をどれほどにするのか、などいつものように様々なことに思考を巡らせるショウに戻っていた。

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