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デートって単語いざ口に出すと恥ずかしいよね

「ハロ、ウィン、だーー!!」

「う、うん。そうだけどどうしたの急に、近所迷惑には大してならないけど叫ぶのは流石に止めてね?」

十月三十一日、時刻は7時。朝食を食べ終わり歯も磨き終わっていつもならばベッドの上で横になっている時間なのだが、何故かリビングに戻って突然叫んだイアに対してショウはそう冷静にツッコミを入れる。

「だってハロウィンだよハロウィン!わたし大体お祭りごとみたいなのは好きだけど、その中でもハロウィンはやっぱり別格だよ。だってマントの一つでも着けて歩けばお菓子いっぱいもらえるからね、別に何も言わなくても」

見た目は超がつくほどの美少女で、ボロきれの服はともかくマントをつけて紅い目に金髪となればかなり凝った吸血鬼の仮装に見える。その実本物の吸血鬼なわけなのだが……。ナンパ目的の男や優しいおばちゃんなどが別にトリックオアトリート言ってないのにお菓子を渡してくるのでイアにとってはお菓子乱獲の日という認識でしかない。

ちなみに吸血鬼は消化器官が極めて弱いので固形物を食べたら戻すレベルなのだが、そこはそれ飴やアイス、チョコレートなど口の中で溶かしきれるものを図々しく要求し強引に渡されたものは公園などにいるちびっ子に渡している。この時多くのいたいけな少年の初恋をかっさらっていっていたのは誰も知らない話である。

「昔はこんなのなかったんだけど、ホントいい時代になったよね。だから私もこの日は寝ないで朝から動くって決めてるんだ、吸血鬼はがんじょーだから一日二日寝なくても何の問題もないし」

「あーなるほどね、似たようにお菓子が絡むイベントだとバレンタインとかあるけどあれは一応知りあいに渡すものだからイアちゃんには馴染み薄いか。吸血鬼なのにハロウィンがそんなんでいいの?とも思ったけど、そういえばイアちゃん生まれも育ちも日本だったね」

ハロウィンの元ネタはケルトのお盆のようなものと収穫祭を兼ねたものであり、あくまで仮装は先祖の霊についてきた悪霊から身を守るためだったが、それがキリスト教と混ざったのが今のハロウィンだ。

なので悪霊や怪物として扱われてきた吸血鬼の彼女は、魔払いという意味の強いハロウィンに対して何か思うところがあるのではないかと危惧していたがそもそもイアは吸血鬼という存在がいないと思われている現代日本で生まれ育ったのでそんな宗教的な意識などあるはずもなかった。

(だからといってお菓子乱獲の日って認識ははしたないとも思ったが、忘れがちだけど彼女つい二週間前まで放浪して生きるか死ぬかの生活してたんだった。彼女にとってはお菓子一つですら貴重なエネルギー源か)

思いっきりこの生活に馴染み過ぎていて遥か昔の事のように思えるが、彼女がショウに襲い掛かってから僅か二週間しか経っていない。過酷な生活の意識が多少残っている方がむしろ自然だ、彼女の適応力の高さのせいで抜けていたが最初からそこら辺の節約や貧乏性の部分をショウが押し付ける形で物資を提供してフォローしていた。

「ん~、別にお菓子ぐらいならいくらでも買うよ?なんなら贅沢にハーゲンダッツとかでもいいし、別にそんな物乞いみたいなことしなくても寝てる間に買ってこようか?」

「ふふん、分かってないね~ショウ君!こういうのは食べるためだけじゃなくて楽しいからやるんだよ、まあ確かにあんま良くないとは思うけどわいわいがやがやしてる街を通るだけでも楽しいと思うし吸血鬼であることを公言できているみたいでちょっと嬉しいんだよね」

子供のような理論をまるで世界の真理を語るかのようにドヤ顔で話すイアを見て、ショウは別に尊さに胸をときめかせるとかそんなことはまるでなく、呆れたようにわざとらしく嘆息を漏らして首を振った。

「なら十一時まで待ってて、私も付いていくから。今日は先生がコロナかかっちゃって家で授業受けるからさ、早めのご飯を食べて一緒にお出かけしよ」

「……え、あ、うん。わかった、待ってます」

唐突なショウの申し出、というよりもお出かけという単語を聞いて一瞬呆けたように口をポカンと開けたと思ったらカクカクとロボットのようにぎこちない動きで首を動かす。その後ショウが部屋に戻っていってしまっても数分固まったままだった。


「よし、お待たせ。それじゃ行こうか、好きなとこ行って大丈夫だから」

「お、お~!じゃあ出発進行!」

「う、うん。突然ナンバし出したけど大丈夫?ちゃんと手と反対の足を上げな?」

三時間たっても緊張は消えず、寧ろより強くなって思わず同じ側の手と足を動かしてしまう。服装はイアは例年通りのマントに加えて、できるだけ紳士服に近いものを選びショウの赤いネクタイを借りている。ショウは全く何の仮装もしていないが。

(いやいやいや、だって、え!?これ絶対あれじゃん!デ、デ、デートってやつじゃん!いや別にわたしはショウ君と付き合ってるわけじゃないし、ショウ君に恋してるわけじゃないし、デートって言うと言い過ぎかもしれないけど、いやでもこれって傍から見たら絶対そんな風に見えるだろうし……)

どこからどこまでをデートと定義するかにもよるが、男女が遊びに行くために一緒に出掛けるというのはまあデートと言って問題ないだろう。勿論彼女が考えている通りショウからも彼女と恋人関係にあるとは考えていないし、別にそんな甘い関係を求めているわけでもない。

彼が今回同行を提案したのは、彼女の人格に最大限配慮した上で彼女を監視し続けることができるのがこの形だったからだけにすぎない。彼女を保護した上でかつ狩刃から守ったショウはイアのせいで人間社会に害を与えるわけにはいかない、その覚悟で戦った。

だからこそ彼はイアが誰かにバレる可能性がある行動をするのなら監視する義務がある、彼女の意志を尊重した上で彼女がリスクのある行動をするのならば即座にフォローをいれるにはデートのような形にするのが最も手っ取り早かった。

それにそんな裏事情を除いても資金も知識もあるショウが付いていく方がよっぽど楽しめる、そうでなくてもたった一人で街をウロウロしているのに比べたら二人でいれば少なくとも寂しくはならないと思う。

楽しみたいという彼女の意志を尊重するならショウの付き添いはどの道必要なのだ。デートに見えて恥ずかしいというデメリット?それはそれでご愛敬ということで。

(正直私はそんなの気にならないしな、流石にイアちゃん側から拒絶されれば止めるつもりではあるが……)

チラリとイアの方を見るがガチガチに緊張してはいるが嫌がっている素振りはない、能力の影響もあって一般人、まして人間社会から離れて過ごしていたせいで腹芸の苦手な吸血鬼の心情を推し量る程度の事ショウにとっては造作もない。この程度で間違えていたのなら既に死んでいる、なんて当たり前の事実を改めて確認しながら自分の想像通りの状況になっていることに一息つく。

(とはいえ、流石にあれはね)

「ひゃっ!」

あまりにも視野が狭まり過ぎて、信号が青になっているにも関わらず一歩も進もうとしないイアを見かねて背中を引っ叩き喝を入れる。

「ほら行くよ、たった八時間かそこらしかないんだ。いっぱい楽しまないと」

「う、うん!」

弾かれたようにショウを見たかと思ったら、ようやく彼女らしくハッキリとした元気な声で返事がきた。ショウはその姿にほんの少し目を閉じて何かを考え、その後すぐにズンズンと歩き出したイアに追いつくために駆け出した。


「ちなみに手はつながなくて大丈夫?」

「今ちょっとそんなことされると手を握りつぶしちゃうかもしれないから、やめといて」


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