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ショウの力

「ショウ、君?」

「あらら、よく分からないけど大変だったみたいね。ごめんね~遅くなって、流石に住所だけで目的地にたどり着くのは中々苦労したよ。距離としてはそこまで遠くなかったのが救いだったかな」

現在の時刻は16時少し前。招待状に付属されていたされていた地図を使って地図を見慣れていないイアが一時間足らずで辿り着いたことを計算に入れると、イアが寝ている間に帰って来れるかもしれないと言ったショウがこの場にいても計算は合う。

「朝君に用事があるって聞いて気になってね、悪いけどイアちゃんの部屋のごみ箱を漁らせてもらったよ。家に帰ってきたのが14時くらいだったからね、いや間に合って良かった良かった」

イアですら完璧に忘れていたが、あの招待状は読み終わったらくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てていた。あれを見ればイアが緊急事態に陥っていると考えるのは極めて自然だろう。

本来ならば催涙弾を食らえば1、2時間は目も明けられないが、狩刃の話が式典の時の校長のように長かったので実はもう食らってから三十分以上経っていたこと、吸血鬼が頑丈であること、そしてイア自身の強い意志も合わさりその固い瞼をこじ開けることができた。

紅い瞳にうっすらと映ったのはいつもと全く変わらないショウの姿、いやあえて言うならば厚手のコートをまとってかなりのデカさのリュックを背負っている。しかしその表情はいつもの小さな微笑みのまま、隣に立つ狩刃に対する警戒心など微塵も見られない。

「ごめんね、正人君、だっけ?申し訳ないが、一週間ほど過ごして私もその子対しての情が少しは湧いた。流石に殺されるのを見過ごすのは心苦しくてね、どうかここは見逃してくれ」

殺す、という言葉をとても軽々しく使いながらショウは手を指し伸ばす。だが当然狩刃がそんな提案を受け入れる義理も道理もない。

「いやいや、そういうわけにはいかないだろう。短時間に同じ説明を二度するのは億劫だから省かせてもらうがね、吸血鬼の存在は人間社会を乱す。君のような一般人には少々受け入れがたい話かもしれないが、ここは邪魔されては困るんだよ」


「はっ!人間社会を乱す、ね。犯罪者風情がよくもそのセリフを吐けたもんだ、自分の立場を自覚してから改めて言葉を選ぶようにするんだね」

その時のショウは、今までイアが見てきた温厚で冷静な彼とは全く違う。狩刃を嘲り、見下し、稚拙な論理を吐き捨て嫌悪していた。

「ッ!お前、何を……」

「吸血鬼狩りをやる時は仰々しく実名を名乗りたかったのかな?まあ実際一般人が聞いても理解できないしね、それでもわざわざリスクを背負った理由は理解できないけど。ねえ狩刃君?」

痛みで碌に頭が回らず、動くことも難しい今のイアに狩刃の表情を覗くことはできないが、それでも目の前から出ている緊張による冷や汗の匂いは感じることができている。端的に言ってしまえば、狩刃はショウの言葉に強い動揺を覚えていた。

「狩刃っていう名前はここ日本で活動している、変な言い方すると闇の武器商人っていうやつだ。テロリストや他国のスパイ連中相手に武器を売りさばいて荒稼ぎしている一族、催涙弾や投石紐、火炎瓶にスタンガンなどなど独自の技術で改良されたものは法では取り締まれないから名前が売れているわりに逮捕できている数はかなり少ないんだよね」

「どうして、そのことを……」

「個人的に少し気になってたんだよね。もし吸血鬼狩りなんていう存在がまだ現代に残っていたとして、じゃあそいつらは一体どうやって生活してるのかなって。だって吸血鬼の存在が公になっていない以上、倒せても報酬もないのにどこを財源にしてるのかなってさ。対吸血鬼用の武器を開発してそれを裏ルートで売りさばく、なるほど一族単位でやれるのなら行えるだろうね。イアちゃんを判別できたのも私が血を吸われる前から見張ってたのかな?まあそこはどうでもいいけど」

「お前、一体何者だ!まさか……」

「生憎イアちゃんならともかく、君に教える意味も義理もないね。ここで大人しく彼女を離して逃げるのなら、私も何も手出しはしない。けど抵抗するっていうなら、流石に言わなくても分かるよね?」

少しずつ通路を歩みながら手を伸ばすショウ、その姿に気圧されたのか狩刃はジリジリとすり足で後退する。足がイアの体にぶつかり、ようやくイアと自身の位置関係を思い出したのか万年筆を握る手に力がこもった。

「あ、念のため言っとくけど、私を倒す前にイアちゃんを殺そうとか考えるなよ?そしたらその姿を動画に撮るから。確かに吸血鬼を守る法はないけど、見た目はただの殺人だからね。君が警察に狙われるのは間違いないよ」

そんな狩刃の姿を見てショウはポケットからスマホを取り出してひらひらと掲げる。仮に狩刃がイアを殺す瞬間を録画されたのならば、最悪狩刃の存在だけでなく吸血鬼の存在も世に広まることになる。

勿論そうなればショウの考えからも外れるのでただの脅しでしかないのだが、そもそもショウの事を何も知らずかつテンパった狩刃にそんな冷静な判断はできずにどんどん思考のドツボにはまっていく。

(どうする!?今ここで彼女を逃せば次は必ず逃げられる。そもそも吸血鬼を一人探し出すのにも相当なコストと労力が必要になる以上、ここで見逃す選択はしたくない。かといってあいつに勝てるのか!?)

通常時ならばいくらでも策や屁理屈を考え付くこともできたであろう。現状ショウが口に出したのはあくまで狩刃の非でしかない、せめてそこをつつけば時間稼ぎの一つもできただろうが完全にノーマークだったショウから自分の正体を暴かれ混乱の最高潮なのに加えて少しづつ近づかれていることがより狩刃を焦らせる要因となっていた。


(……彼がどれだけ優秀だろうと吸血鬼を倒せたんだ、問題ないんじゃないか?いくら鍛えていようと結局は人間、吸血鬼に比べたら……)

そこでイアに勝った、という自信があまりにも短絡的な思考に誘導してしまった。自分の身体能力に自惚れ丸腰で戦うことが多い吸血鬼と違い、何を隠し持っているのかも分からないのに。

「そ、やっぱその選択をとるか。そうなるとは予想していたけどね、別に私は君らと違って人を傷つけるのが好きってわけではないんだがなあ」

狩刃が懐に手を入れようとしたその瞬間、ショウはリュックを放り捨て走り出し一気に距離を詰める。イアほどではないものの、その速度はそこいらの陸上選手と比べても遜色ない。元々距離を詰めていたのもあり、あっさりとステージよりも低い位置まで到達しなお止まらず加速を維持し続ける。

(速っ!けどこの距離とその速度だったら躱すのはまず無理だ。流石に人間を殺すのはアレだから、足に当てて動けない間にスマホを奪えば!)

焦っていたのに妙なタイミングで頭が冷静になって常識が働き、穏便に済まそうとする狩刃。勿論彼の技量をもってすればこの距離で走っているショウの足に当てることなど造作もない、だがそれは当然のことながらこのまま走り続けているだけだった場合だ。

「よっと、狙いが正確な分避けやすいな。照準が分かりにくいのが何よりの長所な以上、狙いさえ分かれば寧ろ銃弾よりも避けやすい。あれ弾が軽いから狙いがほんっとぶれるんだよなあ」

ピョイ、とまるで数段飛ばして降りた時のように軽く跳ねただけであれほどイアが恐れていた投石を回避する。

至極当然の話だが、頭より離れた手や足を狙われた方が避けにくい。目より遠ければ当たるか否かの判別がつきにくいからだ。

なのにも関わらず、あれほど最小限の動きで躱すことができるのは、まるで狩刃が投げる前からどの場所に当たるのか理解しているかのようだった。

(馬鹿な!吸血鬼レベルの動体視力があったとしてもそれは不可能だ!まぐれか?どうする、腹を狙えばさっきみたいにはいかないはず……)

『本当に?あれだけ軽く避けられたのなら投石なんて通じないんじゃないか?今ここで逃げたほうがいいんじゃないか?』

次弾を構えようとすると狩刃の心の中でとても不自然に諦めの声が響く。しかしその違和感に気づくことができずに迷って数秒無駄にしてしまう。最高速度こそ劣るものの、イアと違い最初から加速しきった状態で走り続けているのだからかかる時間はイアとさほど差はない。そんな隙にショウはあっという間にステージまでたどり着く。

流石にイアと違いジャンプしただけで乗り上げることはできないので、ステージに手を載せて体を引き上げる。やろうと思えばステージに上がった瞬間を狙って石を投げることはできただろうが、先ほどの光景を思い出し、出し惜しみを止め即座に切り札である催涙弾を使うことを選んだのはとっさの判断としては満点に近いだろう。

体勢が低くなり、そこから立ち上がって走り出そうとしている間に狩刃は既に催涙弾を懐から取り出し紐を使って振りかぶっていた。どれほど優れていようと物理法則に従う存在である以上、それは必中のタイミング。体を逸らすことすらできず、ショウはせいぜいが腕を盾にする程度。それは数十分前のイアとほとんど同じ光景だった。


狩刃の戦闘方法には致命的な弱点がある。それは対応策さえ練れば別にどうとでも対処できることだ。

投石も盾となるものさえ用意できれば問題はない、催涙弾も粘膜さえ隠しておけば大した障害になることはない。そして狩刃自身の身体能力はスポーツ選手や格闘家など人間の中でも高レベルの存在と比肩するほどのものではない。

吸血鬼相手では身体能力ではどうあがいても勝ち目がないのだから、武器の扱いに特化して鍛錬する方式は正しいがマジックと同じようにタネさえ分かれば次は通じることはない。

そしてその一発ネタしか持っていない彼にとって、ショウは最悪の相性だったと言えるだろう。


完全に勝ちを確信して気を抜いた狩刃の視界に飛び込んできたのは、襲い掛かる粉末に対してコートの中に顔を埋め何の問題もなく狩刃の切り札を完璧に凌ぎ切ったショウの姿だった。

「……は!?」

驚愕から金魚のように口をパクパクとさせ放心状態になり、緊急事態だというのにも関わらず無防備に立ち尽くしている間に懐に入られる。

「はい終わり。じゃ」

「おごっ!」

下から突き上げるように鳩尾に拳を叩きこまれれば、肺が圧迫されて空気が吐き出され一瞬で酸欠状態になる。ぽよぽよの弛んだ腹で耐えられるわけもなくいとも簡単に狩刃の意識はブラックアウトした。


「ふう。さて、イアちゃん大丈夫?」

作中で解説を書くかどうか迷って結局省いたのですが、弱音の部分のどこが不自然なのかと言いますと

一応狩刃には催涙弾っていう奥の手があるのにも関わらず投石が通じないだけで諦めるっていう考えが飛び出てくるのは狩刃の思考では不自然である、ってことです。

分かりにくくてすいません。

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