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二人の秘密

「普通の人間じゃないって、どういう……」

「ん~説明するには難しいんだけどね、超能力者って言ったらイメージしやすいかな?肉体はほぼ人間と言ってもいいんだけど、普通の人間じゃ使えない特別な能力を持ってるんだよ私たちは」

これまでの長い吸血鬼生の中で数多くの小説やドラマなどを見てきたので、その言葉でイアもぼんやりと想像することができた。念動力(サイコキネシス)瞬間移動(テレポート)のような超常現象を起こすファンタジーな力、吸血鬼というファンタジーの象徴のような存在であるイアにはその言葉は思ったよりもすんなり受け入れられた。

ただ頭が良いから、だけでは説明のつかない吸血鬼という人外の存在を受け入れる早さは自らも人外故に抵抗がなかったのだと考えればとても納得がいく。寧ろただの人間なのに一日足らずで受け入れられたのならそちらの方がよほど怖い。

「私の能力は、ざっくり言うと念話(テレパシー)って感じかな」『こんな風に頭の中で会話できたりするの』

「うわっ、なんかその……。気持ち悪!」

突然頭の中から声が響く感覚に思わずそう叫んでしまうイア。目の前にいて、言葉は通じているというのに、耳や肌で感じる空気の振動が一切なくまるで自分がそう考えたかのように心の底から声が聞こえることの違和感が凄すぎてつい失礼なセリフを吐いてしまう。

「あはは、まあ初体験だとそうなるよね。人間としての共感能力がどうのこうの、フェロモンがどうのこうのとか理屈はあるっぽいんだけど生憎私は理解できてないかな。これはあくまで生まれつき」

「ふーん、ヒメカちゃんも同じの使えるの?」

「ん-ん、私は私で別の能力があるんだけどちょっと一言じゃ表しにくいんだけどね。無意識的な誘引って感じ?上手く言えないんだけど何とな~く私のことを魅力的に感じるの。色気とか可愛さとかとも違うんだけど、ごめんね説明下手で」

イアにはその言葉は難しすぎてほとんど理解できなかったが、僅かに分かったこととして最初自身の中で妙にヒメカに対しての好感度が高かったのはそれが原因であったという事だ。

実際のところは要因が複雑に絡まっていたために違和感を感じていなかったが、それでも初対面の人間を一週間共に過ごした恩人(ショウ)よりも信頼するなど不自然でしかない。不思議パワーが働いていたことに対して何よりの証拠になるだろう。

「あ、念のため言っておくけど私も八も基本的に能力を自発的にほとんどないからそこは安心してね。私は勿論八の場合はちょっと能力の性質上、常時発動し続けてるとはいえ極々微量。イアちゃんがこいつに対しての好感度がいきなり高かったのはこいつが自前で持ってた顔と人当たりの良さが大半の原因、能力を使って君を洗脳、みたいなことはしてないだろうから。信じてくれて大丈夫だよ」

「え、ああそうなの?!うん、分かった!」

ほんの一瞬イアの脳によぎった、自分はヒメカの能力を受けて洗脳のような状態にあったから彼女を信じたのではないか、彼女は初対面の自分を騙したのではないか、という疑いをショウは絶妙なタイミングで否定する。

そう、仮に彼女への異常に好感度が高かったのが能力を使用したが故であろうと、そこに違和感がなかったのは彼女自身の魅力が大きかったからこそだ。仮に彼女が魅力ない人格で、能力のみによってイアを惹きつけていたのならイアならば不審に思うことができていた。

(余計な考えだったな。ヒメカちゃんの良いとこはいくつも挙げられる、それだけでショウ君の言葉が真実だってことが分かる。わたしがヒメカちゃんのことをいいなぁって思うのは能力は関係ないない、ヒメカちゃんが本当にステキだからなんだ)

これでショウやヒメカ程でなくとも知能の高い者ならば、精神に作用する彼らの能力を危険視することができただろう。吸血鬼とは違い、その異能を使ったか否かは本人以外全く理解できないので彼らの言葉が嘘でないと証明できるものは何もない。

噓発見器のようなものを持ってきたとしても、彼らの能力ならば多少なりとも誤魔化すことは可能だろう。しかし幸か不幸か、吸血鬼故の知力の低さとイアのもつ純粋さは彼らを警戒することはなく寧ろ秘密を教えてくれたことに対して喜びを覚えていた。

(今まで二人がどういう人生を送ってきたのかは、私の想像以上に過酷なんだろうけど……。でもダメだな、やっぱりわたし嬉しいや。秘密を打ち明けてもらえたってことは、わたしって信用されてるってことだよね?他人から信じてもらえるのがこんなにも嬉しいなんて)

ショウからすればイアへの信用なんてほとんどゼロで、あくまで今回教えたのは聞かれたから答えないとイアからの心証が良くならないだろうと想像したに過ぎず、かつあくまで社会的地位がなく知識量も人間と比較すれば決して多くはない吸血鬼に教えたところで問題ないと判断しただけだが、そんなことはイアの知るところではなかった。


「ちょっとわたし散歩に行ってくるね、一時間ぐらいで帰ってくるから」

「了解、じゃあカギは開けておくからもし長くなりそうでも気にしないで。今八時だし、危ない人に話しかけられてもちゃんと殴らずに逃げるんだよ」

「分かってるってもう!じゃあ行ってきます!」

先程秘密を教えてもらったことで、胸が高鳴り体がムズムズするのを上手く扱えずに体を動かして落ち着けようとすることにして散歩と言って家を飛び出した。既に日が沈み暗くなっている外に女の子を送り出す絵面は中々にアレなものがあるが、ショウは特に躊躇わず快諾する。

ショウの家は他の住宅地から少し離れた場所にあるため、街灯も少なく家を出て五分ですれ違った人も両手で数えられるほどしかいない。イアにとってはその静けさ薄暗さは慣れたもので、寧ろ快適さすら感じる。

秋の冷ややかな風も興奮で熱くなった頭を冷やすにはちょうどよかった。周囲が暗いのに加えてヒメカに選んでもらった帽子やサングラスをキチンと持ってきているので人に騒がれることもない。夜にサングラスをかけているのを不審に思われている事には気づけていなかったが……。

(不思議な感じ。まだ一週間とちょっとしか経ってないのに、もうあの家での生活に慣れちゃってる。あったかい食事も綺麗なお風呂や服も無い方が違和感があるぐらい、よくないなあショウ君に依存し過ぎちゃうの)

一度贅沢に慣れるとその後貧乏な生活に戻った際に感覚を戻すのが難しく、結果以前よりも更に苦労する、人間でもよくあることだ。順調に新しい生活に慣れてきている自分が逆にイアは心配だった。

この生活はいずれ終わりが来る。吸血鬼と人間の寿命の差、イアとショウの社会的立場の差、ショウの他者との関わり合い、お別れの理由はいくらでも思いつく。いつまでも彼に甘え続けることはできない。

早々に彼から離れて元の生活に戻れば、少なくともまだ欲しがり過ぎることは避けられるだろう。今この瞬間にでも家に帰らずにどこか遠くへと逃げ出せば未練を引きずることもないだろう。

それでも離れたがっているのはただの心の弱さであり甘えでしかない。二人に情が移り切る前に、自分がこの生活に慣れ切る前にあの家から離れるべきなのを理解できていて尚その一歩を踏み出せずに体は戻る道へと向いていた。

「はあ、何だかなあ。帰ろ」

自分の心の弱さにネガティブになって、ため息をつきながらそのまま帰路を辿ろうとしたその時だった。


「こんばんは、吸血鬼」

見知らぬ男が真後ろに立って微笑んでいるのに気づいたのは。

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