日常とその終わり
「ふわぁ〜あ」
蒼井健斗はあくびをする。
「よう蒼井、眠そうだな」
「ゲームは楽しいから、夜通しやっちゃうんだよ」
「ったく……とは言っても、お前は授業中ずっと寝てても成績俺よりいいからなぁ……」
話しかけてきたのは、渡辺正吾だ。クラス1のイケメンで、スポーツ万能、勉強もそこそこできるやつだ。当然、とてもモテている。
本人は、「あっそうなんだ」と気づいているのかいないのか分からない。
多分気付いていないのだろう。
ホームルームの開始まで、あと二十分ほどある。クラスメートは大体半分くらいが登校してきているようだ。
「外行こうぜ」
「眠いからやだ」
「つれないね」
正吾の誘いを断って、机に突っ伏す。今日の授業には体育がある。その時立ったまま寝るようなことが無いように、今のうちから睡眠をとっておきたい。
「はいそれじゃあ○○、ルート5足すルート3は、大体いくつくらいになる?」
「それじゃあ、この文から助動詞を見つけて」
二時間目まで終わって、蒼井が覚えているのはこの二言だけだった。三時間目は体育だ。ようやく起きた蒼井は、着替えてグラウンドに向かう。
「それじゃあ今日からはマラソンをやる。最初だから慣らしも含めて全員適当に走れ。十分間計るから、何周できたか数えておけよ」
体育のゴリラみたいな外見の教師に言われて、スタートの位置に全員が固まろうとした。
その時、巨大な魔法陣のようなものがグラウンドに突然現れた。誰かが声を上げた時には、まばゆい光がグラウンドを包み込んだ。光が消えた後には、誰一人としてそこにはいなかった。