止まない寂しさ
「寂しい。寂しい。寂しい」
口癖みたいに、彼女はいつもそう言っていた。
「何がそんなに寂しいの」
くだらないなって僕は思ってた。
別に何かが欠乏してるわけじゃないんだ。
僕も彼女も。
至って普通に、正確に、端的に生きてるのに。
「全部だよ。全部」
彼女は寝転がりながら言った。
心底どうでも良さそうに、どこか投げやりに言葉を放った。
「生きてることが寂しい」
そんなことを言った。
確かに生きてるのは寂しいかもしれない。虚しいかもしれない。誰かと繋がりを持っても、何かを成し遂げても、最後に待っているのは死だけだ。
「それじゃあ、死ぬしかないじゃん」
そんなんじゃ救われないよ。報われない。
僕等の心臓が可哀想だ。
彼女はその場に似合わない大きな笑い声をあげて、「わかってないなー」と楽しげに言った。
「死んじゃったら寂しいのすらわかんない。それってたぶんすっごく幸せで、すっごく苦しいんだと思う。だから、そう、今感じてるこれも」
彼女の細い指が心臓に置かれる。
「寂しさが愛おしい」
閉じた瞳の先に、彼女はどんな景色を見たのだろう。
彼女の言葉は言い訳にも聞こえたし、全く心を救うものではなかった。
けれど彼女は優しく目元を緩めて口角をあげた。
「君もさ、いつかはわかるよ」
「いつかっていつ」
「わからない。いつかはいつか。その時には君も、寂しさに胸を掻きむしっているかもしれないね」
いたずらに笑った彼女は僕の方を向いて、長い髪の先を軽く払って、瞳の色をまっすぐに見せた。
「止まない寂しさすら愛しいの」
そうなるんだよ、と彼女は言った。
その瞳がどこか悲しげに揺れた。
くしゃくしゃになった頭を軽く掴んで胸に引き寄せる。
彼女は僕の肩に軽く手をついた。
「もう、寂しくない?」
彼女は答えない。
小さな手が、シャツを握る感覚が伝わる。
見下ろした頭は震えていた。
「」
僕はその日、彼女の最期の言葉を聞き取ることは出来なかった。