第二章 逃げ出したお姫さま 4.もう一つの出会い(その2)
本日最後の投稿です。
「大丈夫ですか?」
「……今のは貴殿の仕業か? お蔭で助かった。礼を言わせてもらう」
「いえ……僕としても、変な手合いに彷徨かれるのは好ましくなかったので」
若い男が抜き身を鞘に収めるのを確認して、マモルもゆっくりと男に近づく。
「盗賊のように見えますけど……この辺りに塒を構えているんでしょうか?」
――だとすれば、マモルにとっては由々しき事態である。
「いや……言葉の端々から察するに、宿を定めぬ流れの賊のようであった。他に仲間もいないようだし、貴殿を害する虞はあるまい」
「それは……吉左右を頂戴しました。それで……あなた方は?」
男は気さくな質と見えて、会ったばかりのマモルに対して自分たちの目的などをべらべらと明かしていく。……それはもう、聞いている方が少し引くくらいにあからさまに。
「そ、そうですか……攻め滅ぼされた領主の遺児であるお姫様をお捜しで……」
「うむ。別に隠すほどの事ではない。この辺りの者なら大概知っている話だ」
一瞬探りを入れられたのかと内心で身構えたマモルであったが、別にそういうつもりでもないようで、男はそのまま話を続ける。
「複数の目撃証言から、姫がこの山に入った事は確認できたのだが、貴殿は見かけなかったかな?」
……あのお姫様、跡を誤魔化すくらいの才覚も無かったのかと、内心で頭を抱えたマモルであったが、今はこの場をどう切り抜けるか――。
女性の衣服から察するに、あの侍女の同輩だろうとは思うが……気になるのはこの男性だ。お姫さまたちの会話にも、該当するような人物は出てこなかった。見たところ追っ手の可能性は無いようだが、逆に見かけどおり裏表の無い性格であれば、追っ手に騙されて使われている可能性は無視できない……
「いえ……見かけた事は無いですね」
確信が持てない以上、ここは白を切り通すと決めたマモルであったが、
「あのっ! 本当にお姉ちゃ……姉と姫様をご覧になってませんか?」
「……お姉ちゃん?」
「あぁ、この子の姉が同道している筈なんだが」
……あぁ、姉妹だったのか。そう言えばどことなく似ているかな。
「へぇ。……という事は、二人連れなんですね?」
「いや……匿われていた先を脱け出した時に二人だったのは確かなようだし、この山に入ったという目撃者は何れも二人連れだったと述べているが……今もそうだとは限らないのでな」
「お願いします! ご存知なら教えて下さい!」
なぜかこの妹、マモルが行方を知っているものと決めてかかって詰め寄ってくるのだが……
「……いえ、先程申し上げたように、見かけた事はありませんね。ただ……」
「――ただ?」
「僕ならこれ以上山奥には分け入らず、北の方を探しますね」
――と、二人が立ち去った方角だけを暗示する。正確には二人の臭跡が伸びていた方角を。
「北か……山際を迂回して旧領へ向かうつもりか……」
「その旧領とやらがどこなのか知りませんけど、僕ならそちらを探しますね。女性二人では、これ以上山奥へ……東へ分け入るのはきついでしょうし、南下すれば山を下りる事になります。西はそもそも町のある方角ですから外すとすれば、残るは北です」
「ふむ……」
一応筋の通った推理を聞かされて、男性も納得せざるを得なかったらしい。しかし、女性の方はまだ納得できないようであったが……
「あのっ!」
「待たれよカフィ殿。この御仁を問い詰めても、これ以上の事は訊き出せまい。カフィ殿にしても、見ず知らずの者に対してお二人の行方を軽々しく口にされるような御仁は好ましくあるまい? 寧ろ、これだけの事をお教え戴けた事に感謝すべきであろう」
女性同様にこの男性も、マモルが何かを知っていると確信しているようだが、同時にこれ以上の事を話す気が無い事も察したらしい。
そう窘められて、女性も一応納得したらしい。渋々ながらという感じで礼を述べると、マモルが教えた方向へと去って行った。
(そんなに顔に出てたかなぁ……)
腹芸が得意でないのは自覚しているが、こうも簡単に腹の内が見破られるのは問題のような気がする。
(そろそろ山を下りようかと思ってたんだけど……二度あることは三度あるって言うし……もう少し様子を見た方が良いのかなぁ……
明日からは20時に一話ずつ投稿の予定です。とりあえず今月中は毎日更新を続ける予定です。